医療・ヘルスケア
2018年04月16日

がんの治療はどのくらい進歩していて、どのくらい費用がかかるものなの?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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2――がんの新たな治療法

現在、次世代のがん治療法として、さまざまな研究や開発が進められています。特に、急ピッチで進められているのが、ペプチド医薬、遺伝子治療、ウイルス療法、核酸医薬、ワクチン療法です。
1|ペプチド医薬は、がん細胞内に入り込んでタンパク質の結合を阻害します
ペプチド医薬は、分子量が低分子薬と抗体医薬の間にあり、中分子医薬に位置づけられます8。抗体医薬よりも分子量が小さいので、がん細胞内に入り込むことができます。一方、低分子薬よりも分子量が大きいので、低分子薬にはできないタンパク質の結合阻害が可能となります。つまり、低分子薬と抗体医薬の長所を兼ね備えた医薬品といえます。ペプチド医薬は、経口投与が可能で患者の負担が軽いため、高齢患者への投与に向いています。また、製造コストが安く済むことも期待されています9
 
8 ペプチドとは、2個以上のアミノ酸分子が、一方のアミノ基(化学記号では、-NH2)と他方のカルボキシル基(同、-COOH)とから1分子の水がとれて結合 (同、-NHCO- (ペプチド結合))した化合物をいいます。明確な基準がある訳ではありませんが、分子量は、低分子薬は100~300、抗体医薬は15万程度であり、ペプチド医薬はこの間の500~6,000程度となります。
9 リューブリン(武田薬品工業社)が国内で承認されています。
2|遺伝子治療は、免疫細胞の遺伝子を組み替えて、がん細胞を攻撃します
遺伝子治療は、がん細胞に特有の抗原に反応する遺伝子を人工的に作り、体内から取り出した免疫細胞に組み込みます。この免疫細胞を体内に戻すと、がん細胞への攻撃を行なうこととなり、がん治療を進めることができます10。多くの医薬品メーカーが開発に力を入れています。これまでに、白血病やリンパ腫など血液がんに対して臨床試験が実施され、治療効果が報告されています。今後、固形がんに対して効果を発揮する遺伝子治療の研究・開発が進められる見通しです。
 
10 キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法と呼ばれています。
3|ウイルス療法は、体内でがん細胞に感染するウイルスを用いて攻撃します
ウイルス療法は、がん細胞だけに感染してがんを破壊するウイルスを用います。ウイルスの遺伝子を組み替えて、正常な細胞に対しては機能せず、がん細胞だけを攻撃するようにして、体内で感染させて治療を行います11。従来の治療法(外科手術、放射線治療、抗がん剤治療)と併用することが可能で、いくつかの療法について、臨床試験が開始されています。
 
11 医薬品として、IMLYGIC(アムジェン社)がアメリカやヨーロッパで承認されています。この医薬品は、国内未承認です。
4|核酸医薬は、リボ核酸 (RNA) を標的にして、がん細胞のタンパク質合成を阻害します
核酸医薬とは、デオキシリボ核酸(DNA)やRNAといった細胞内の遺伝情報を司る物質である核酸を医薬品として利用するものです。従来の抗がん剤がDNAから作られるタンパク質を標的にしている一方、核酸医薬はメッセンジャーRNA(遺伝情報をタンパク質の生合成装置に伝える働きを持つ)などの細胞内のリボ核酸を標的とします。分子量の面で、ペプチド医薬と同様、中分子医薬に位置づけられます。核酸医薬は、生体内で分解されやすいのが難点で、体内での運搬技術の研究が進められています。
5|ワクチン療法は、ペプチドワクチンを注射してがんを攻撃するリンパ球を作り出します
ワクチン療法では、まずがん細胞の表面に、免疫細胞にとって攻撃の目印となるペプチドを見つけ出します。そして、そのペプチドを人工的に作って、ワクチンとして体内に注射します。体内では、免疫細胞が、注入されたペプチドを外敵(異物)と認識して、キラーT細胞と呼ばれるリンパ球12を大量に作ります。このリンパ球が、がん細胞を攻撃していきます。ワクチン療法は、がんを患者の免疫に認識させて攻撃を促す形で治療につなげていきます。
図表3. 抗がん剤治療や新たな治療法
 
12 リンパ球は、白血球の成分の一種で免疫を行います。NK細胞、T細胞、B細胞があります。

3――がん治療にかかる費用

治療にかかる費用は、がんの種類、治療方法、使用する抗がん剤などによって異なります。ここでは、一例として、厚生労働省の公表データをもとに費用を見てみることにします。ひと月の平均的な費用を筆者が試算したところ、次のようになりました。
図表4. 主ながんに対する治療のひと月の平均的な費用 (例)
実際に、がん治療を行う場合は、まず主治医の説明をよく聞きます。その上で、治療効果、副作用、治療費等を十分に検討して、主治医とよく相談をしながら治療方法を決めていく必要があります。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2018年04月16日「基礎研レター」)

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