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医療・ヘルスケア
2018年04月16日

がんの治療はどのくらい進歩していて、どのくらい費用がかかるものなの?

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   篠原 拓也

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1――がんの治療法

1|日本では、がんが死因の第一位を占めています
日本では、1981年以降、がんが死因の第1位を占めています。世界的にみても、がんは先進国で主要な死因の1つとなっています。このため、がんの診断法、治療法や、抗がん剤について、世界中の医療研究機関で、精力的に研究が進められています。がんの治療法について、見ていきましょう1
図表1. 日本の死因別死亡率推移 (主なもの) (人口10万人あたり)
 
1 本稿は、「がん情報サービス」(国立がん研究センター)、「明解医薬品産業」漆原良一 (医薬経済社, 2014年12月)、「薬事ハンドブック2018」(じほう) 、「すごいバイオ薬 オプジーボに続け! がん治療に高まる期待」(毎日新聞出版, 週刊エコノミスト2016年12月6日号)などを参考に、執筆しています。
2|外科手術、放射線治療、抗がん剤治療が、がんの主な治療法です
がんは、以前から多くの治療法の研究が進められており、がん患者の生存率向上に寄与してきました。がんの治療法の主なものは、外科手術、放射線治療、抗がん剤治療の3つです。これらは、併用されることも一般的です。

がん組織が切除可能であれば外科手術による組織の除去、切除が困難な部位にあれば放射線治療や抗がん剤治療が行われます。また、高齢患者で身体にかかる負荷の面から外科手術が困難な場合に、放射線治療や抗がん剤治療が行われることもあります。更に、外科手術や放射線治療を行った後に、再発を予防するために、抗がん剤を投与する治療法(アジュバント療法)も一般的に行われています。
図表2. 3つの主ながん治療法
(1) 外科手術
外科手術として、従来より、開腹手術が行われています。最近は、口や肛門から内視鏡を挿入して行う内視鏡手術や、患部の周辺に穴を開けてそこから腹腔鏡を挿入して行う腹腔鏡手術が増加しています。開腹手術に比べて、患者の身体面の負担が小さく、術後の回復も早いことが普及の背景にあるものとみられます。手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使う、内視鏡手術の利用も進んでいます2。ロボットの利用により、体内深部での精緻な器具操作が可能となっています。前立腺がんと腎臓がんに続き、2018年度には、肺がん、食道がん、胃がん、直腸がん、膀胱がんなど、新たに12件の手術が保険適用となりました。開腹手術が行えない高齢患者に対する手術として、注目度が高まっています。
 
2 「ダヴィンチ」は、“da Vinci Surgical System”(インテュイティブ サージカル社)の通称。
(2) 放射線治療
放射線治療では、X線、ガンマ線、電子線、陽子線、重粒子線などが治療に用いられます3。これらを照射して、遺伝子を傷つけてがん細胞の分裂・増殖を阻害したり、がん細胞が自ら脱落する現象を増強したりします。体の外部から放射線をあてる、外部照射が一般的です。放射線物質を体内に挿入したり、薬として服用したり、注射で投与する内部照射が行われることもあります。

外部照射では、病巣に多方向から放射線を集中させることで、ピンポイントで高線量の放射線をあてる定位放射線治療が行われるようになっています。これにより、周囲の正常組織にあたる線量を極力減少させることや、患者の治療回数が減って通院の負担が軽減することが期待されています。

なお、陽子線治療や重粒子線治療では、保険適用となるがん以外に、先進医療として臨床試験が行われるものもあります。この場合、先進医療分の治療費は全額患者負担で、健康保険の高額療養費制度も適用されません。このため、治療費の面で、患者の負担は大きくなります。
 
3 陽子線は、水素の原子核ビーム。重粒子線は、主に炭素線イオン。
(3) 抗がん剤治療
抗がん剤治療は、薬剤を投与して、がんの増殖を阻害したり、がん細胞のもつ特定のタンパク質を標的にしてがん細胞を攻撃したりする治療法です。抗がん剤治療の技術は、画期的な効果を示す医薬品や再生医療等製品の研究・開発が進められており、近年、目覚しく進歩しています。現在、本格的に治療に用いられているのは、化学療法剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤です。

以下、抗がん剤治療について、見ていきましょう。
1) 化学療法剤
化学療法剤は、日本では第2次大戦後間もなく開発され4、その後、進化を続けています。DNAの複製や細胞分裂を阻害することにより、がん細胞の増殖を抑えることができます。

しかし、化学療法剤には、副作用もあります。がん細胞のような増殖スピードの速い細胞に作用するため、例えば血液中の白血球が減少して免疫力が落ちたり、毛髪細胞が影響を受けて毛が抜け落ちたり、胃の中の細胞に影響して吐き気を誘発したりします。
 
4 第2次大戦中に使われた化学兵器の毒性を弱めたものとして、ナイトロジェンマスタードN-オキシド (商品名 ナイトロミン) が開発され、1950年代に販売されました。なお現在、同薬は日本では販売されていません。
2) 分子標的薬
分子標的薬は、がん特有の分子を標的に増殖を抑制します。がん細胞の特徴を認識した上で、その増殖や転移を行う特定の分子だけを狙い撃ちにします。このため、正常な細胞へのダメージが少なくなります。副作用が全くないわけではありませんが、化学療法剤に比べると、患者の負担は小さくなります。

ただし、分子標的薬は、すべての患者に効くわけではありません。そこで、患者の遺伝子を調べて異常がある遺伝子を特定し、それに応じて分子標的薬を選択する、がんゲノム医療が始まっています。2018年4月現在、全国で、がんゲノム医療中核拠点病院として11施設、がんゲノム医療連携病院として100施設が指定されています5。連携病院は、患者のがん組織を中核病院に送って遺伝子検査を依頼し、その結果をもとに治療を行うこととなります。

また、分子標的薬は、投与を続けていくとがん細胞に耐性が出て、薬が効かなくなることがあります。これまでにさまざまな分子標的薬が登場して治療の選択肢が増えており、耐性の問題への対応が進められています。分子標的薬は、注射剤の抗体医薬と、経口剤の低分子薬とに分けられます6
 
5 2018年4月時点で岩手、群馬、大分、熊本、沖縄県には、連携病院はありません。今後、半年ごとに厚生労働省への追加応募の受付が行われる予定となっています。
6 注射剤として、アバスチン(中外製薬社)、ハーセプチン(同)、リツキサン(全薬工業社、中外製薬社)、ベクティビックス(武田薬品工業社)、ベルケイド(ヤンセンファーマ社、武田薬品工業社)、などが国内で承認されています。また、経口剤として、レブラミド(セルジーン社)、スプリセル(ブリストル・マイヤーズ スクイブ社、大塚製薬社)、グリベック(ノバルティスファーマ社)、タシグナ(同)などが国内で承認されています。
3) 免疫チェックポイント阻害剤
免疫チェックポイント阻害剤は、体内の免疫機構を活性化させて、がん細胞を攻撃して死滅させます。抗体医薬のひとつで、分子標的薬の中に位置づけることができます。

近年、画期的な効果を示す免疫チェックポイント阻害剤が登場しています。免疫チェックポイント阻害剤は、2014年にオプジーボ(小野薬品工業社)が発売されたのが最初です7。通常、がん治療の効果をみる際の指標として、5年生存率が挙げられます。免疫チェックポイント阻害剤は、これから投与後5年を迎える患者が出現することとなりますので、その効果の持続性に注目が集まっています。

実際の抗がん剤治療では、化学療法剤と分子標的薬を併用する併用療法や、これに免疫チェックポイント阻害剤も併用する3併用療法などが行われています。
 
7 2018年1月時点で、オプジーボ(小野薬品工業社)、キイトルーダ(MSD社)、ヤーボイ(ブリストル・マイヤーズ スクイブ社)、バベンチオ(メルクセローノ社・ファイザー社)、テセントリク(中外製薬社)が、国内で承認されています。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品、保険計理

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