医療・ヘルスケア
2019年02月12日

健康診断と人間ドック、どう違うの?

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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春が近づき、4月から新社会人としてスタートする方々もいらっしゃるでしょう。仕事をしていく上では、まず、健康管理をどうするかが重要となるかもしれません。その手段の1つである、健康診断や人間ドックについてざっくりと見てみましょう。
 

1―会社員になったら、健康診断を受ける義務があります。

1―会社員になったら、健康診断を受ける義務があります。

健康診断は、国が会社に対して実施を義務づけています。労働安全衛生法に基いて、会社は従業員に対して1年に1回、定期的に健康診断を受けさせなければいけないというものです。

一方、従業員も健康診断を受ける義務があることになります。義務を課している以上、その費用は会社が負担することになります。従業員の場合、受診しなくても罰則の対象にはなりませんが、万が一過労などで病気になっても労災認定が受けられない恐れもあります。また、会社は労働基準監督署から指導を受けたり、罰金が科せられる可能性があります。
 
では、会社に義務付けられた健康診断にはどのようなものがあるのでしょうか。それは、大きく分けて「一般健康診断」と「特殊健康診断」があります1

一般健康診断には、会社への入社時に必要な「雇入時の健康診断」と1年に1回従業員に対して実施する「定期健康診断」など5種類あります(図表1)。特殊健康診断は、薬剤など有害な業務に常時従事する場合に適用されます2。一般的に、健康診断と聞いてイメージするのは、「定期健康診断」ではないでしょうか。「雇用時の健康診断」を受け(入社前3ヶ月以内に健康診断を受けていた場合には、その受診項目を省略することが出来ます)、それ以降、1年に1回「定期健康診断」を受診することになります。なお、国で定められた定期健康診断の項目は図表1のとおりです。
図表1 一般健康診断の種類と、定期健康診断の内容
定期健康診断の実施方法としては、会社で集団受診するケースや、会社が指定した病院で受診するケース、更には人間ドックなど従業員が自身で医療機関を選択し、その結果を会社に提出するケースも該当します。ただし、人間ドックの結果を会社に提出する場合は、定期健康診断に含まれる項目を受診しておく必要があります。人間ドックの場合、受診した場合は自己負担が発生しますが、定期健康診断に相当する費用が補助として支給されるケースもあります。
 
また、年齢(例えば40歳以上など)、所属している健康保険の運営主体によって異なりますが、一般健康診断に加えて、がん検診など指定されたオプション検診を活用することができます。2008年からは、40~74歳を対象とした特定健康診査・特定保健指導が追加されました3。生活習慣病、内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)に着目した制度で、その結果から、生活習慣の改善をサポートすることを目的としています。
 
1 健康診断としては、それ以外に、じん肺健診、歯科医師による健診があります。
2 特殊健康診断は、屋内作業場などにおける有機溶剤業務に常時従事する労働者、鉛業務に常時従事する労働者など8種のケースが対象となっています。
3 市区町村の自治体も住民を対象としたがん検診(任意型検診)を実施しています。基本的には5つのがん検診が実施されており、費用は無料または少額となっています。
 

2―より詳細な検査を望む場合は人間ドックに

2―より詳細な検査を望む場合は人間ドックに

上述のとおり、人間ドックは健康診断の1つでもあるということができます。ただし、人間ドックは会社が実施する健康診断とは異なり、法律で義務付けられていません。つまり、個人が自身の判断で受診機関を選択し、受診する検査となります。

人間ドックは自身が選択した検査内容や種類に応じて、相応の費用が発生することになります。検査項目は、「基本検査」と「オプション検査」があります。基本検査では会社が行う健康診断以上の検査を受診することができる上、オプション検査では自身が気になっている症状に応じて、より専門的で詳細な検査を受けることもできます。また、検査結果について、医師に直接相談をし、説明や指導を受けることもできます。

このように、自身の健康をチェックするという点においては、会社の健康診断も人間ドックも同じです。自身がどのような検査を望むのか、それにはどれくらいのコストをかけてもよいと考えているかなどを勘案して決めるのがよいでしょう。
 
では、健康診断、人間ドックの実際の受診状況はどうでしょうか。厚生労働省によると、年齢別では男女とも50代(50~59歳)が最も多く受診していることがわかります。健康への関心や不安が高まる30代(男性)、40代(女性)から受診者が増え始め、50代へと増加しています。受診が最も多い50代では男性が全体のおよそ8割、女性は7割が受診しています(図表2)。
図表2 性・年齢階級別にみた過去1年間の健診や人間ドックの受診の有無別構成割合(20歳以上)
性別でみた場合、全体(総数)として、受診していないのは女性(35.5%)の方が多くなっています。全ての年齢層でみても、女性は男性を下回っています。女性の場合、結婚、出産などライフイベントによる離職や雇用形態などによって、定期的な健康診断を受診する機会が少なくなっていることもあるかもしれません。
 

3―健診や人間ドックを受けない理由は?

3―健診や人間ドックを受けない理由は?

近年、日本の人間ドックや検診は、医療ツーリズムとして、海外からも注目をされています。人気の理由は日本の医療機関における医療サービスの質やレベルの高さ、がんなどの生存率の高さ、寿命の長さなど様々考えられます。世界においては、健康診断または人間ドックを定期的に受診する習慣は根付いておらず、公的医療保険における自己負担のあり方も日本とは大きく異なります。日本では、健康診断や人間ドックで病気を早期に発見し、治療が必要な場合は公的医療保険制度で相対的に少ない自己負担で、高度な治療を受けることができるシステムになっています3

厚生労働省によると、健診や人間ドックを受けなかった理由について、「心配なときはいつでも医療機関を受診できるから」(33.5%)、「時間がとれなかったから」(22.8%)、「めんどうだから」(20.2%)が上位に挙がっています(図表3)。確かに心配になったときに安心して受診できる医療機関があるのは、とても重要なことだと思います。しかし、早期に発見し、早期に治療する環境が整っているのであれば、それを活かすことで、自身にかかる身体的・経済的負荷、更には国の医療財政にかかる負荷も小さくすみます。過度に受診する必要はないと思いますが、年齢や症状など自分自身のその時々の必要性に応じて、健康診断、検診、人間ドックを有効的に活用していくのがよいではないでしょうか。
図表3 健診や人間ドックを受けなかった理由の割合(20歳以上・複数回答)
 
3 総医療費に占める患者自己負担の割合(世界191カ国)のうち、日本は14.1%で149位であった(世界平均は31.3%)。OECD諸国でみると、例えば韓国36.1%、スウェーデン16.1%、ドイツ12.1%、アメリカが11.1%などとなっている(国際統計格付センター「世界・総医療費に占める患者自己負担の割合ランキング」)。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

(2019年02月12日「基礎研レター」)

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