医療・ヘルスケア
2018年03月01日

医療保険制度には全ての国民が加入しなければならないの?

中村 亮一

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3―従業員やその家族はどの医療保険制度に加入することになるのか

ここでは、いわゆるパートやアルバイト等の非正規雇用の社員の取扱いを含めて、企業の従業員やその家族がその就業状況等に応じて、具体的にどの医療保険制度に加入することになるのかについて説明します。

非正規雇用の社員等が、自分が勤める企業等の健康保険の加入義務者なのか、あるいはそうではなくて、自らが居住する地域の地域保険に加入しなければならないのかは、大変関心の高い事柄です。

健康保険法では、健康保険の被保険者は、「適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者6」と定められています7。その具体的内容は、以下の通りとなっています。
 
6 退職後の任意継続被保険者制度については、別途の基礎研レターで詳しく説明します。
7 臨時に使用される者(日々雇い入れられる者や2月以内の期間を定めて使用される者)、季節的業務に使用される者、臨時的事業の事業所に使用される者、後期高齢者医療の被保険者(75歳以上の者)、船員保険の被保険者等は、対象外となります。
1|まずは勤めている企業等から判断される-健康保険の適用事業所か否か-
まずは、自分の勤めている企業等が「適用事業所」か否かが重要になってきます。

適用事業所は、法律によって加入が義務付けられている「強制適用事業所」と、任意で加入する「任意適用事業所」の2種類があります。その具体的要件は以下の通りです。

強制適用事業所」とは、(1)国、地方公共団体または法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの、(2)国、地方公共団体または法人でない事業所で、強制適用事業を行っている常時5人以上の従業員を使用するもの。強制適用事業所の従業員は、事業主や従業員の意思に関係なく、健康保険への加入が義務付けられる。

強制適用事業」の範囲は、健康保険法第3条第3項第1号に規定8されており、逐次拡大されてきている、現在でも、農林業、水産業、畜産業、料理飲食業、自由業等は適用対象となっていない。

 「任意適用事業所」は、強制適用事業所とならない事業所で、厚生労働大臣の認可を受けて健康保険の適用となる事業所のこと。従業員の半数以上が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けることで適用事業所になることができる。この場合、従業員全員が加入することになる。

 
8 製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス事業、運送業、清掃業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介周旋業、集金案内広告業、教育研究調査業、医療保険業、通信報道業など
2|パート等の短時間労働者等の取扱はどうなるのか
次に、健康保険法が定める「使用される者」の意味するところが問題になってきます。

「使用される者」については、「常用的使用関係にある者」と解され、基本的には、通常の労働者の4分の3以上、概ね週30時間程度以上働く者が対象となっています。ただし、2016年10月以降、以下のような改定が行われ、その対象が拡大されてきています。

2016年10月から、被保険者数501人以上の企業の従業員で、1週間(1月間)の労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の1週間(1月間)の所定労働時間の4分の3未満であるもののうち、(1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること、(2)当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること、(3)標準報酬月額が8万8000円以上であること、(4)学生等でないこと、の条件を全て満たす方は、健康保険の被保険者となることになった。

さらに、2017年4月からは、被保険者数500人以下の企業の従業員でも、加入について労使合意が取れた場合には加入対象になった。


このように、パートやアルバイト等の非正規雇用の社員については、その労働時間や報酬水準等に基づいて、健康保険への加入義務要件が定められています。
3|臨時的な雇用関係者でも健康保険に加入するケースがある
臨時に使用される者(日々雇い入れられる者や2月以内の期間を定めて使用される者)、季節的業務に使用される者、臨時的事業の事業所に使用される者は、基本的には健康保険に加入しません。ただし、ケースによっては加入する場合もあり、具体的には以下のように取り扱われます。

(1) 日々雇い入れられる者について、1ヶ月を超えて引き続き使用される場合には、その時から加入
(2) 臨時に使用される者で、2ヶ月以内の期間を定めて使用される者が、2ヶ月以内の所定の期間を超えて引き続き使用される場合には、その時から加入
(3) 酒造の醸造、製茶等の季節的業務に従事する者が、継続して4ヶ月を超えて使用される場合には当初から加入
(4) 博覧会等の臨時的事業の事業所に使用される者については、継続して6ヶ月を超えて使用される場合は当初から加入
(5) サーカスや地方巡業を行う劇団等の各種の興行等を行う所在地が一定しない事業所に使用される者は、例外なく加入対象外

4|被保険者の被扶養者の取扱はどうなるのか
被保険者の被扶養者は、被保険者と同じ医療保険制度に加入することになります。

ここで、「被保険者の被扶養者」とは、以下の通りです。

(1) 被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚を含む)、子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持するもの

(2) 被保険者の三親等以内の親族で同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持するもの

(3) 被保険者の事実婚の配偶者の父母または子であって、同一の世帯に属し主としてその被保険者により生計を維持するもの(当該配偶者の死亡後引き継ぐ場合も含む)、のいずれかに該当するもの

ここで、「主としてその被保険者により生計を維持するもの」とは、被保険者の収入により、その人の暮らしが成り立っていることをいい、必ずしも被保険者と一緒に生活をしていなくてもよい。


なお、75歳に達した者は、後期高齢者医療制度の被保険者となるため、健康保険法の被扶養者にはなりません。

以上、医療保険制度の加入については、国民の義務として、自らが加入すべき制度を十分に認識しておくことが大事です。これにより、保険料の負担等の義務も発生してきますが、国民としての責務をしっかり果たすことで、万が一の時の保障を適切に受けることができるようにしておくことが大変重要なことです。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年03月01日「基礎研レター」)

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