2018年02月16日

トランプ政権のインフラ投資計画-2,000億ドルの連邦政府支出を呼び水に、1.5兆ドルのインフラ投資の実現は可能か

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

2月12日にトランプ大統領は19年度の予算教書とともに、今後10年間のインフラ投資計画の概要1を発表した。同計画では今後10年間で1.5兆ドル規模のインフラ投資の拡大を目指している。トランプ大統領はこれまでインフラ投資拡大を政策公約として掲げてきたが、今年は重要政策課題と位置づけ、その実現を目指している。

交通インフラをはじめ米国内のインフラは、これまで必要な投資が行われなかった結果、新規投資が抑制されているほか、維持・管理費用の不足から老朽化が進んでいる。このため、必要な投資を行っていた場合に比べて経済損失が大きくなっている。また、国際競争の観点からも実業界を中心にインフラ整備の充実を求める声は強い。

今回提示されたインフラ投資計画は、全体のインフラ投資目標の1.5兆ドルに対して、連邦政府支出は2,000億ドルと限定的になっており、主に州・地方政府や民間資金を活用する内容となっている。

本稿では米国のインフラ投資の状況について確認した後、今回提示されたトランプ大統領のインフラ投資計画の概要や今後の見通しについて説明している。結論から言えば、財政的に厳しい州・地方政府の負担を増加させる今回のインフラ投資計画の実現性は疑問と言わざるをえない。さらに、インフラ投資の財源確保も含め、財政赤字を抑制した議会共和党と連邦政府支出を拡大させたい議会民主党の考え方の開きは大きく、11月の中間選挙を控えてインフラ投資で政策協調できるか予断を許さないというものだ。
 
1 “Legislative Outline for Rebuilding Infrastructure in America”
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2018/02/INFRASTRUCTURE-211.pdf
 

2.米国内インフラの状況

2.米国内インフラの状況

(インフラ投資額):実質ベースでは03年をピークに頭打ち
米国の交通・水道インフラに対する公的支出額は14年度が4,160億ドルとなっており、物価を加味した実質ベースでみると03年度をピークに低下基調となっている(前掲図表1)。

また、支出額を連邦政府、州・地方政府に分けると、14年度の連邦政府支出が963億ドル(支出全体の23%)となっているのに対し、州・地方政府が3,197億ドル(同77%)と、州・地方政府の支出が大きく、連邦政府は全体の4分の1程度を占めるに過ぎない。

さらに、支出額を新規投資などの資本支出と、維持・管理支出に分けてみると連邦政府では資本支出が維持・管理支出を上回っているものの、州・地方政府では大幅に維持・管理支出が上回っていることが分かる。この結果、14年度の公的支出額全体では資本支出は1,808億ドル、維持・管理支出は2,352億ドルと維持・管理支出が資本支出を上回っている。また、全体の公的支出額が頭打ちとなる中でも維持・管理支出は増加基調が持続している。しかしながら、後述するように維持・管理に必要な支出は賄えておらず、道路の路面状況の悪化などインフラの老朽化による経済損失の増加が深刻化している。
(投資不足に伴う経済損失):16年~25年の累計損失額はおよそ4兆ドル
全米土木学会(ASCE)は主要なインフラに対して、現在の設備を維持するのに必要な投資額および、人口増加に伴い必要となる新規投資額を合計した必要投資額を試算している(図表2)。これによれば、幹線道路や橋、通勤電車などを含む陸上輸送で必要な投資額を1兆ドル超下回っているほか、インフラ合計では1.4兆ドル程度不足していると試算していることが分かる。

また、ASCEは、必要な投資がされていた場合と比較した経済損失をGDPおよび雇用者数について試算している。同試算では陸上輸送で16年から25年までの累積損失額が1.2兆ドル弱(15年基準実質ベース)とされているほか、電力や内陸水路・港湾で大きな損失が発生する結果、インフラ全体では4兆ドル弱もの損失になるとしている。さらに、雇用者数も25年時点で250万人を超える雇用喪失が発生するとしている。このため、インフラ投資が不足することで生じる経済損失や雇用喪失は大きいことが分かる。
(図表2)インフラ投資不足に伴う経済損失( 1 6年~2 5年の累積)
(国際競争力ランキング):実業界からインフラ整備を求める声
世界経済フォーラムは、毎年国際競争力ランキングを発表している。同ランキングは各国の生産性の決定要因となる競争力を大きく12の柱項目について評価し、国際競争力指数を算出した上で決定されている。インフラは柱項目の一つである。ここで直近(17-18年版)のランキングをみると、米国は国際競争力ランキングではスイスに次ぐ2位となっているが、インフラのランキングでは9位と全体のランキングに比べて劣後している(図表3)。
(図表3)インフラランキング(国際競争力指数)/(図表4)インフラ関連項目の内訳(ランキング)
さらに、インフラ関連項目の内訳をみると、(定期航空の)座席キロでは1位となっているものの、電力供給の質では26位となっているほか、全般的にインフラの質に関する項目では冴えない順位となっていることが分かる(前掲図表4)。

このような状況に対して、大企業中心の経済団体であるビジネス・ラウンドテーブルをはじめ、実業界からは米国のインフラの質が他国に比べて劣っていることで、国際競争上不利になっていることに対する不満の声が挙がるなど、実業界からは企業が国際競争の観点からも米国内のインフラ整備を求める声が強い。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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