2018年02月09日

Jリート市場は2年ぶりに反落。物件取得額は大きく鈍化-不動産クォータリー・レビュー2017年第4四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

文字サイズ

(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業動態統計などによると、2017年10-12月の小売販売額(既存店、前年比)は百貨店が+1.3%、スーパーが+0.3%、コンビニエンスストアが▲0.8%となった(図表-14)。百貨店は訪日客向けや高額商品の売上が好調でプラスとなる一方、コンビニは他業態との競合の影響などから前年比割れが続いている。2017年全体では百貨店が+0.6%、スーパーが▲0.3%、コンビニエンスストアが▲0.3%となった。
図表-14 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
全国61都市のホテル客室稼働率(2017年12月)は前年同月比0.2%上昇の77.6%となった。2017年は1~3月の稼働率が前月を下回ったものの4月以降は全ての月で前年を上回り年間を通じて高い稼動を維持した(図表-15)。2017年の訪日外国人客数は前年比19%増加の約2,869万人となり5年連続で増加した(図表-16)。航空路線の拡充やクルーズ船寄港数の増加、ビザ緩和などを背景に主要20市場全てにおいて過去最高となった。また、訪日客の旅行消費額は1人当たり支出額が前年比▲1.3%減少したものの総額では18%増加し過去最高の4.4兆円となった。2017年の外国人の延べ宿泊者数は前年比13%増加し日本人宿泊者数の低迷(前年比▲0.5%)を補っている(図表-17)。
図表-15 ホテル客室稼働率の暦年月次ベース(全国)
図表-16 訪日外国人客数(年間)
図表-17 延べ宿泊者数の推移(月次、前年比)
シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2017年第4四半期)は前期比▲0.9%低下の4.9%、近畿圏は前期比3.9%上昇の19.6%となった(図表-18)。大規模な先進的物流施設への需要は旺盛なものの、首都圏では今後2年間過去最大の供給が予定されており空室率は上昇に向かう見込みである。また、一五不動産情報サービスによると、2017年10月の東京圏の募集賃料は前期比▲1.9%下落し4,200円/坪となった4
図表-18 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
4 J-REITが所有する物流施設では賃料が上昇している。GLP投資法人(2017年8月期)の賃料増額改定(全体の70%)における上昇率はプラス3.6%、日本プロロジスリート投資法人(2017年11月期)の改定賃料変動率はプラス1.1%である。
 

4.J -REIT(不動産投信)・不動産投資市場

4. J -REIT(不動産投信)・不動産投資市場

2017年第4四半期の東証REIT指数(配当除き)は、11月中旬まで下落基調が続いていたがその後は株式市場に対する出遅れ感などから海外資金を中心に買戻しが入り、9月末比0.6%上昇した。セクター別では、住宅(+2.5%)と商業・物流等(+1.5%)が上昇する一方、オフィス(▲0.8%)は下落した(図表-19)。12月末時点のバリュエーションは、純資産8.8兆円に保有物件の含み益2.4兆円を加えた11.2兆円に対して時価総額は約11.5兆円でNAV倍率は1.0倍、分配金利回りは4.2%で10年国債利回り(0.05%)とのスプレッドは4.1%である。
図表-19 東証REIT指数(配当除き、2016年12月末=100)
2017年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数は▲10.4%下落し2年ぶりに反落した(図表-20)。国内の不動産ファンダメンタルズは堅調を維持したものの、REIT市場で最大の投資家層であるJリート投信(上場ETFを除く)からの資金流出が止まらず、投資家心理が悪化し警戒感が強まった。
図表-20 2017 年のJ-REIT 市場(まとめ)
新規上場は2社、市場全体の物件取得額は1兆3,216億円(前年比▲25%)にとどまり市場の拡大ペースが鈍化した(図表-21)。アセットタイプ別にみると、オフィスビル(33%→26%)の占率が低下する一方で、これまでサブアセットとして位置付けられていた物流施設(25%)やホテル(21%)の占率が高まった。不動産売買市場での取得競争が厳しさを増すなか、これらの不動産を主力に運用するREITではスポンサーからのパイプラインを活用し大型優良物件を取得する機会が増加している。

また、投資口価格の下落によってエクイティ資金の調達コストが上昇するなかデットの市場環境は良好で、投資法人債の発行額は前年比32%増の1,135億円(期間8.9年、平均利率0.47%)となった。
図表-21 J-REIT による物件取得額(用途別)
ニッセイ基礎研究所が1月中旬に実施した不動産投資市場に関するアンケート調査によると5、現在の景況感について「良い」または「やや良い」と答えた割合は約8割となり5年連続で大幅プラスとなった。また、6ケ月後の景況感について「変わらない」と答えた割合が72%で過去最高となるとともに、「良くなる」または「やや良くなる」の割合から「悪化する」または「やや悪化する」の割合を引いた値(DI、ディフュージョン・インデックス)は+12で3年ぶりにプラスとなった(図表-22)。昨年と比べて景況感に大きな変化は見られないが、先行き対する警戒感がやや後退する結果となっている。
図表-22 不動産投資市場の景況感DI(現況、先行き)
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2018年02月09日「不動産投資レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【Jリート市場は2年ぶりに反落。物件取得額は大きく鈍化-不動産クォータリー・レビュー2017年第4四半期】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

Jリート市場は2年ぶりに反落。物件取得額は大きく鈍化-不動産クォータリー・レビュー2017年第4四半期のレポート Topへ