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病床削減に向けて県の権限は強まるか?-非稼働病床を中心に今後の方向性を考える
保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
4――非稼働病床を巡る動向
しかし、いくら財政当局のプレッシャーが強まったとしても、民間医療機関に対する都道府県の強制力は限定的である上、都道府県主導の病床削減に対する医師会の警戒心も強く、都道府県が権限を行使するのは極めて難しい。
さらに、医療機関の存廃問題や病床削減は地域の政治問題になりやすい。例えば、地域における医師不足が顕在化した2007~2009年頃、地域住民、地方議会も加わり、病床の閉鎖問題が全国各地で政治問題となり、地域の分断を招いた経緯がある。
こうした状況では、都道府県が権限を行使できる公的医療機関の場合であっても、医療機関の経営や雇用、患者の行動地域、住民の感情などに影響を与えるリスクを考えると、都道府県として及び腰になるのは当然であり、都道府県の権限行使は一種の「劇薬」と言える。
しかし、非稼働病床の場合、都道府県が権限を行使したとしても、医療機関の経営や入院患者の動向に与える影響は軽微にとどまる可能性が高く、手を付けやすいという判断が生まれる可能性がある。
実際、非稼動病床を放置することは問題である。例えば、都道府県から病床開設の許可を取っているのに、病床を長期間稼働させていないのであれば、それは非効率な病床が維持されていることを意味する。しかも地域で病床数に上限規制がかかっている中で、非稼動病床が多くなると、その分だけ病床の新設・増設を希望する医療機関が参入する可能性を制限していることになり、資源分配を損ねる。
さらに、医師や看護師などを確保して非稼動病床を再び動かした場合、地域における病床機能の分布が変化し、場合によっては過剰とされている病床機能の過剰感が増す危険性もあり、地域医療構想に基づく調整や合意形成のプロセスに影響が出かねない。このため、非稼働病床に対して都道府県が権限を行使することに一定の合理性はあると言える。
実は、地域医療構想の策定時点で、ごく少数の県が権限行使の一例として非稼働病床の対策を挙げていた。主な中身は表3の通りであり、このうち青森県は2014年度現在の非稼働病床数を1,086床とした上で、その解消に乗り出す考えを示していた。
さらに、三重県は県独自の取り組みとして、県内病院における未稼働病床の対策を進めると定めた。具体的には、ヒアリングなどを通じて実態調査を図るとともに、(1)未稼働病床数を病棟単位で把握する、(2)病床利用率が70%を下回っている病棟は整理の対象とする、(3)構想区域で不足している医療機能へ転換するなど、具体的な再稼働の予定がある場合、調整会議の検討対象とする、(4)(3)に該当しない場合、一定の計算式に基づき整理する病床数を算出―といった方針を地域医療構想に盛り込んでおり、整理対象となる未稼働病床数を547床と試算していた。
こうした国、都道府県の動向から考えると、非稼働病床の取り扱いから都道府県の権限行使が浮上する可能性があり、今後の動向が注目される。
13 2017年12月13日第10回地域医療構想に関するワーキンググループ資料。
5――おわりに~合意形成の優先を~
もちろん、これは当時の政策立案者にとって百も承知の指摘であっただろう15。言い換えると、それだけ医療提供体制に対する都道府県の権限は弱く、いくら財政的な理由で病床を削る必要があったとしても、都道府県が一方的に権限を行使することは制度的に難しいと言わざるを得ない。
この点は地域医療構想も同様である。だからこそ合意形成をベースとした地域医療構想が制度化されたわけであり、たとえ非稼働病床だったとしても、都道府県の権限行使は慎重であるべきである。非稼動病床を放置するのは地域の資源分配をゆがめる危険性があり、是正する必要があるが、「劇薬」と言うべき都道府県の権限行使は最小限にしつつ、まずは医療機関などの関係者を含めた合意形成を重視することに期待したい。
14 1998年4月14日第142回国会衆議院厚生委員会。
15 医療計画制度が導入された当初、規制の根拠は法律ではなく、通知だった。
03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
(2018年01月23日「基礎研レポート」)
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