2018年01月17日

生産緑地に関する税制改正とその影響-平成30年度税制改正による都市農地の見通しと課題

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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1――特定生産緑地に指定した場合と指定しない場合の税制

2017年4月28日に生産緑地法の一部が改正され、「特定生産緑地指定制度」が創設された。これは、生産緑地地区指定後30年経過により買取り申出2が可能となるのに対し、新たに特定生産緑地に指定することで、買取り申出の期日を10年先送りする制度である。

2022年に生産緑地地区の最初の指定から30年が経過する。該当する農家は、30年経過前に特定生産緑地を指定するか、指定せずに常時買取り申出可能な生産緑地として継続するか、買取り申出して宅地化するかの選択を迫られる。その際、今回の税制改正が、これらの選択、選択後の土地利用のあり方に大きく影響を与えるものと注目されてきた3。なぜなら、特に三大都市圏特定市4の生産緑地地区における固定資産税の農地課税と相続税納税猶予制度が、市街化区域において農業継続する上で重要な仕組みであるからだ。
 
2 買取り申出とは、主たる従業者が死亡したときあるいは故障によって従事困難になったとき、又は生産緑地地区指定告示日から30年経過したときに、当該市区町村に対し時価で買い取るべき旨を申し出ることができる制度である(生産緑地法第10条)。
3 法制度の内容、法改正の背景やそれに伴う影響の詳細ついては、拙著「生産緑地法改正と2022年問題―2022年問題から始まる都市農業振興とまちづくり」(基礎研レポート2017年05月31日)を参照されたい。
4 東京都特別区及び三大都市圏の既成市街地・近郊整備地帯(首都圏整備法)、都市整備区域(中部圏開発整備法)、既成都市区域・近郊整備区域(近畿圏整備法)を含む市とこれら区域内の政令指定都市。
1|固定資産税・都市計画税
大綱には、固定資産税・都市計画税について次のように示されている。

生産緑地法の改正に伴い、都市計画法に規定する生産緑地地区の区域内の農地について、次の措置を講ずる。
生産緑地地区の区域内の農地のうち特定生産緑地の指定がされたもの(指定の期限の延長がされなかったものを除く。)に係る固定資産税及び都市計画税について、現行制度と同様の措置を講ずる。
生産緑地地区の区域内の農地のうち特定生産緑地の指定又は指定の期限の延長がされなかったもの5に係る固定資産税及び都市計画税について、宅地並み評価とした上で、生産緑地地区の区域内の農地に該当しないこととなった市街化区域農地と同様の激変緩和措置を講ずる。

つまり、三大都市圏特定市の場合、特定生産緑地に指定した場合、現行と同様農地課税とし、指定しない場合は宅地並み評価による宅地並み課税とする。ただし、急激な課税増額を抑制するため激変緩和措置を適用するという内容である。激変緩和措置は、5年間で毎年20%ずつ段階的に宅地並みに引き上げていくものだ6
 
5 「指定の期限の延長がされなかったもの」とは、特定生産緑地指定から10年経過後、さらに10年期限を延長しなかった場合を指している。以降、相続税・贈与税、不動産取得税の記述も同様である。
6 地方税法附則19条の3を適用している。これまでも市区が公共用地として買い取った場合の残地への適用や、新たに特定市となった場合に適用されている。
2|相続税
次に、相続税の納税猶予について見てみたい。相続税の納税猶予制度とは、農地の相続を受けた場合、一定要件の下、相続税の納税を猶予する制度である。

納税猶予を受けた相続人が死亡した場合納税免除となり、次に承継した相続人は新たに納税猶予の適用を受けられる7。相続税評価額の高い市街化区域で農業継続する上で重要な役割を果たしている。

大綱には次のように示されている。

特例農地等の範囲に、特定生産緑地である農地等及び三大都市圏の特定市の田園住居地域内の農地8を加える。 特定生産緑地の指定または指定の期限の延長がされなかった生産緑地については9、現に適用を受けている納税猶予に限り、その猶予を継続する。

「特例農地等」とは、納税猶予の適用対象となる農地、採草放牧地のことで、これまでも三大都市圏特定市の生産緑地はこれに含まれていた10。今回ここに、特定生産緑地を加えるとした上で、特定生産緑地に指定しなかった生産緑地地区については、現状で適用を受けている相続人に限って猶予を継続するというものである。以降の相続人は適用を受けることはできない。
 
7 以上は三大都市圏特定市の生産緑地(都市営農農地等)の場合。それ以外の市街化区域内農地(生産緑地含む)は20年営農で納税免除。
8 田園住居地域については、今後別の機会に取り上げる。
9 指定の期限の延長がされなかった生産緑地とあるのは、10年経過後、指定をさらに10年延長しなかった場合のこと。
10 厳密には、平成3年1月1日において三大都市圏特定市(特定市は脚注4)に該当する生産緑地地区に指定されている農地(都市営農農地等という)。ただし買取り申出された生産緑地地区の農地は含まれない(以降同じ)。買取り申出すると、都市計画の変更手続きと関係なく納税猶予が解除され、猶予期限が確定し猶予税額を納付することになる。
3|贈与税・不動産取得税
贈与税の納税猶予制度とは、農地の全部11を農業後継者12に一括して贈与した場合、課税対象たる後継者(受贈者)の納税が猶予され、贈与者又は受贈者のいずれかが死亡したときに贈与税が免除される制度である。

大綱には、相続税と同様の措置を講ずるとあり、現在の納税猶予のみ猶予を継続し、以降の猶予は認められない。

不動産取得税は、土地や家屋を購入、贈与、交換などにより取得した場合に、有償・無償の別、登記の有無にかかわらず、取得者に課税される都道府県税である。相続による取得は課税対象にならない。

不動産取得税の徴収猶予制度は、農地を農業後継者に一括贈与した場合に、不動産取得税についても徴収が猶予される制度である。贈与者又は受贈者が死亡した場合には、猶予された納税義務が免除される。

大綱には次のとおり示されている。

農地等に係る不動産取得税の徴収猶予制度について、次の見直しを行う。 対象となる農地等の範囲に、特定生産緑地である農地等及び三大都市圏の特定市の田園住居地域内の農地を加える。 特定生産緑地の指定又は指定の期限の延長がされなかった生産緑地については、現に適用を受けている徴収猶予に限り、その猶予を継続する。



相続税・贈与税の納税猶予制度と同様、特定生産緑地を適用対象に加え、特定生産緑地に指定しなかった生産緑地については、現在適用を受けているものに限って猶予を継続するというものである。
 
11 正確には、農地の全部及び採草放牧地3分の2並びに当該農地及び採草放牧地とともに取得する準農地の3分の2以上
12 推定相続人の1人でなければならない。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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