2018年01月09日

WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響の考察(1)-Amazonを参考にプラットフォーマーという視点からの分析

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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(5)バリューチェーンの中抜き:拡大し続けるプラットフォーマーによる市場独占
産業構造がレイヤー化すると、プラットフォームの重要性が高まり、既存業態の役割が縮小する。そして、バリューチェーンの中抜きが進み、産業内でのパワーバランスが変化する。例えば、電子書籍では、コンテンツ・プラットフォームであるAmazonが、読者と出版社を直接結びつける役割を果たすため、バリューチェーン上の書店や取次の役割が縮小する。また著作者が出版社を介さずに電子書籍を出版することが可能なKindleダイレクト・パブリッシングでは、出版社の役割が小さくなる。これによりコストが低下し参入障壁が下がる一方、産業内の収益配分も変化する。例えば、従来の米国の出版業界における収益配分は、著者15%、出版社30%、取次15%、書店40%といった割合が一般的だった。一方、電子書籍では、著者8%、出版社32%、プラットフォーマー60%となり、さらにダイレクト・パブリッシングでは著者70%、プラットフォーマー30%となっているとの調査もある8。このようにプラットフォームは、バリューチェーンの中抜きを進め、産業内の収益配分を一変させ得る。

またプラットフォームでは、ネットワーク効果、規模の経済などの経済性が発揮されるため、事業規模拡大により、収穫逓増となる9。そのため、プラットフォーム間でも淘汰が進み、競争に勝ったプラットフォーマーが市場を独占(一人勝ち、Winner Takes All)することになる。生き残りをかけたプラットフォーム間の競争は熾烈を極め、優位にたったプラットフォーマーは、研究開発や低価格戦略により、競合を駆逐していく。Amazonは、値下げや買収攻勢によりシェアを拡大し、現在では米国のEC売上高の半分近くを占めるまでになっている。

またプラットフォーマーは、独占した市場での収益を活用して、新たな市場への進出を図ることが多い。新規参入する市場は、同産業内の別のレイヤーや別の産業の同様のレイヤーであることが一般的だ。これは市場が異なっても、ユーザー基盤が重複し、多くの技術も転用できるためである。「Amazon Effect」という言葉が、小売業だけでなく、他の産業や政府にとっての脅威も表すようになっているのは、このようにしてプラットフォーマーが様々な市場を飲みこみ、拡大し続けているからである。
 
8 OECD (2012) 参照。ここでの数値は収益配分の割合を示しており、収益の金額を表しているわけではないことに留意。
9 Ethernetの共同開発者であるロバートメトカーフは、「ネットワークの価値は、それに接続する端末や利用者の数の二乗に比例する」と主張している(メトカーフの法則)
(6)プラットフォームにおける戦略的論点:プライシング戦略とオープン・クローズド戦略
プラットフォームは一人勝ちになる傾向が強いものの、そこに至るまでの競争は激しく、プラットフォーマーとしての立ち位置を確立するのは容易ではない。その過程で重要なのが、プライシング戦略とオープン・クローズド戦略である。
(ア) プライシング戦略
プラットフォームには、複数の立場のユーザーが参加し、各ユーザー・グループから収入を得ることが可能である。そのため、ユーザー・グループの特性やプラットフォーム上の位置付けなどを考慮して価格を設定することが重要になる。多くのプラットフォームでは、あるユーザー・グループを収益源とする課金サイドとし、もう一方を収益源であるユーザー・グループを呼び寄せるために優遇する補完サイドと位置付けている。またその際は、価格志向や品質志向の高いユーザーを優遇し、補完サイドとすることの重要性などが指摘されている10(図表-9)。
図表-9 主なプラットフォームのプライシング戦略の例
この戦略的位置付けは、「ニワトリが先か、卵が先か」というチキン・エッグ問題とも密接に関係する。これは、プラットフォームの初期段階において、課金サイドのユーザーが少ないために補完サイドが集まらず、また同様に補完サイドのユーザーが少ないために課金サイドが集まらなくなり、両者の相互作用によりプラットフォームの普及が拡大しない、という問題を意味する。ネットワーク効果が発揮されるためには、一定数以上(クリティカル・マス)のユーザーがプラットフォームに参加する必要があるため、チキン・エッグ問題の克服が、多くのプラットフォームにとって課題となる。

Amazonのマーケットプレイスでは、販売者が課金サイドで、定額の月額料金と従量制の販売手数料を支払う。また消費者が無料でプラットフォームを利用できる補完サイドとなる。また当初は自社のみが販売者となり、低価格戦略などによりECサイトのユーザー数を一定以上まで成長させてから、マーケットプレイスというプラットフォームビジネスを展開している。ただし、その後アマゾン・プライム11を導入するなど、消費者にも課金するサービスを拡大しており、同社のプライシング戦略はさらに複雑化している。
 
10 Eisenmann, Parker and Alystyne(2006) 参照。
11 日本での同サービスは、07年に開始され、当初は年会費3,900円で通常より配送スピードの早いお急ぎ便を無料で使えるというものだった。その後は、映像・音楽の見放題・聞き放題サービスやクラウド上のフォトストレージサービスなど、様々な特典を追加しており、プライシングと言う観点では複雑さが増している。
(イ) レイヤーのオープン・クローズド戦略
プラットフォームにおいてはユーザー数がその競争力を左右するため、どれだけ早く、多くのユーザー数を獲得するかが肝要だ。その際に重要になるのが、どのレイヤーをオープンにして、他社を補完プレイヤーとして受け入れるかである。全てを自社で賄ったほうが収益は大きくなるが、他社の協力を仰ぐことで事業の拡大スピードを加速することができる。ただし、また同時にどのレイヤーをクローズにして、競争力や収益力を確保するかという点も重要だ。AmazonのKindle Storeで購入した電子書籍は、Amazonの電子書籍端末であるKindleの他にも、他社製のパソコンやタブレット端末、スマートフォンなどのアプリで読むことができる。これは、電子書籍のレイヤーにおいて、通信ネットワーク、OS、ハードをオープンにしていることを意味する。これは、Kindle Storeというコンテンツ・プラットフォームを同社の収益源としているためだ。ハードなどの収益を独占するより、Kindle以外の端末でもアプリをダウンロードすることで閲覧できるようオープンにすることで、他の端末プロバイダーも巻き込み、ユーザー数拡大を加速させることを重視しているのだ。またレイヤーを補完するプレイヤーに加え、複数のユーザー・グループがプラットフォームに参加するようインセンティブをコントロールする必要もある。

このようにプラットフォーマーは、プラットフォームを中心とした補完プレイヤーやユーザー・グループのネットワークをエコシステム12として形成し、マネージしていくことが求められる。レイヤーをオープンにして補完プレイヤーと協業するには、その品質をコントロールしていくことも求められる。エコシステムが成長し、ネットワーク効果の好循環を生み出すことができれば、プラットフォームの優位性を強固にできる(図表-10)。
図表-10 エコシステムのイメージ
これまで述べてきたように、プラットフォーマーのビジネスモデルは既存の不動産業と大きく異なる。次回はプラットフォームという枠組みを通してWeWorkのビジネスモデルと不動産業界への影響を分析する。
 
 
12 加藤(2016)によれば、エコシステムとは、「ビジネスにおいて「産業生態系」の意味で用いられる。具体的には、コアとなるプラットフォーム製品提供者とその補完業者、そしてユーザーが結びつき、共に成長していく1つのシステム」を表す。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

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