2017年12月27日

日本におけるテレワークの現状や課題-長時間労働の改善のための考察-その2-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――長時間労働に対する今までの取り組み

最近、政府が働き方改革を推進するとともに、テレワークに対する関心も高まっている。テレワークとは、遠いという意味のteleと仕事のworkを組み合わせた造語で、会社以外の遠く離れた場所等で働くという意味を持っている。最近は情報通信技術(ICT)を活用して、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が実現されることになった。

テレワーカーは、働く場所により、在宅型テレワーカー(自宅でテレワークを行うテレワーカー)、サテライト型テレワーカー(自社の他事業所、または複数の企業や個人で利用する共同利用型オフィスやコワーキングスペース等でテレワークを行うテレワーカー)、モバイル型テレワーカー(顧客先・訪問先・外回り先、喫茶店・図書館・出張先のホテル等、または移動中にテレワークを行うテレワーカー)に分類される。

内閣府が発表した「平成28年版情報通信白書」では、テレワークのメリットを「就労者にとっては、時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方が可能となるため、ワーク・ライフ・バランスの向上や通勤による疲労軽減、地方における就業機会の増加などが期待される。また、企業にとっては、従業員の生産性向上や災害時やパンデミック1発生時における事業継続性の確保、人材流出の防止策として期待される。そして、社会全体にとっては、子育てや介護等を理由とした離職の抑制や、高齢者や障害者等の就業機会の拡大による、労働力の確保として期待される。」と説明している。

長時間労働の改善策としても期待されているテレワークは日本にどのぐらい普及しているだろうか。
 
1 パンデミック(pandemic)とは、感染症が世界的規模で大流行すること、感染爆発。出所)『新明解国語辞典第七版』三省堂。
 

2――テレワークの現状

2――テレワークの現状

テレワークが就労者、企業、社会全体に対して広く効果があると期待されているにもかかわらず、日本では企業での導入や就労者における認知が十分には進んでいないのが現状である。

日本でテレワークの現状が把握できる代表的な調査としては、総務省の「通信利用動向調査」と国土交通省の「テレワーク人口実態調査」が挙げられる。総務省の「通信利用動向調査」は、世帯、事業所、企業ごとの電気通信・放送サービス等の利用実態とその動向を把握することを目的に2000年から実施された調査であり、2009年からはテレワークの現状についても調査を実施している。一方、国土交通省の「テレワーク人口実態調査」は、就労者の働き方の実態をWEB調査により把握することで、今後のテレワークの普及促進策に役立てることを目的として、2002年から実施されている2。2016年度の調査では、モバイルワークなど在宅以外も含めたテレワークの実施実態や、業種・職種等によるテレワークの普及度合い、勤務先におけるテレワーク制度等の有無別の実施状況や効果の違いなどについて聞いている。

まず、総務省の「平成28年通信利用動向調査、以下、通信利用動向調査」によると、テレワークを「導入している」と回答している企業の割合は13.3%であり、「導入を予定している」と答えた企業(3.3%)を合わせても16.6%に留まっていることが分かる(図表1)。導入しているテレワークの形態は、「モバイルワーク」が63.7%で最も高く、次いで、在宅勤務(22.2%)、「サテライトオフィス勤務」(13.8%)の順である。企業がテレワークを導入した目的としては、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」(59.8%)、「勤務者の移動時間の短縮」(43.9%)、「顧客満足度の向上」(20.8%)等が挙げられる。他方、テレワークを導入していない理由としては、「テレワークに適した仕事がないから」(74.2%)、「情報漏えいが心配だから」(22.6%)、「業務の進行が難しいから」(18.4%)が高い割合を占めている。

企業等に勤める15歳以上の個人のうち、テレワークを実施したことがあると答えた割合は8.2%であり、個人がテレワークを実施できない理由としては、「勤務先にテレワークできる制度がないため」(55.2%)と「テレワークに適した仕事ではないため」(50.6%)が挙げられた。
図表1テレワークの導入状況(企業)/図表2テレワークの実施状況(雇用者)
図表3テレワークの導入目的、導入・実施しない理由
一方、国土交通省の「平成28度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要」によると、テレワークの場所として自宅以外にも、自社の他の事業所、共同利用型オフィス、喫茶店、図書館等が使われていることが分かった。このように自宅以外でテレワークをしている理由としては、「仕事に集中でき、業務効率が高まるから」が45.9%で最も高く、次いで、「外出中の空き時間を有効に活用できるから」(32.4%)、「移動中の時間を無駄にしたくないから」(31.9%)が上位3位を占めていた。

テレワーク制度等があると回答した雇用者の割合をみると、情報通信業(34.4%)、金融・保険(19.9%)、製造業(19.5%)が上位3位になっている(図表4)。
図表4 勤務先にテレワーク制度等があると回答した割合(業種別)
一方、職種別のテレワーカーの割合は、雇用型テレワーカー3の場合、研究開発・技術(ソフトウェア等)が35.8%、クリエイティブ・デザインが27.6%、営業が26.7%で高く、自営型テレワーカー4の場合は、ライティングが51.8%、プログラマーが51.3%、クリエイティブ・デザインが40.0%で高い割合を見せている。
 
 
2 2008年までは3年おきに、以降は毎年調査を実施。
3 雇用型:民間会社、官公庁、その他の法人・団体の正社員・職員、及び派遣社員・職員、契約社員・職員、嘱託、パート、アル バイトを本業としていると回答した人。
4 自営型:自営業・自由業、及び家庭での内職を本業としていると回答した人。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

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