2017年12月25日

EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットについてのCPを公表(3)-欧州委員会に対する助言内容-

中村 亮一

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3|リスクマージン
「2―2|リスクマージン」で述べたように、株式リスクプレミアムの見積りに関しては、過去のリターンモデルと配当割引モデルが分析されたが、EIOPAは、過去のリターンモデルを使用することを提案している。

これに関して、以下の評価が行われている。

オプション1:過去のリターンモデル
1791.ベネフィットの面では、以下の効果を検出することが可能
・保険契約者 - 考慮する期間が十分に長い場合、モデルはサイクルを経て安定性と危機の期間を反映するERP(株式リスクプレミアム)を提供する。したがって保険契約者の保護が保証される。
・業界 - この方法はCEIOPSによって使用されていたため、規制上の安定性を提供する。
・監督者 - (再)保険負債の移転の場合、会社は異なる経済状況において移転価値を支払うことができることを確実にする。

1792.コストの面では、以下を検出することが可能
・保険契約者 - ERPは、それが由来する過去のデータには、当時は投資家が予期していなかった、特に高い収益率と非常に低い収益率(クラッシュ)の期間が含まれており、あまりにも低い又は高い資本コスト率を生み出し、それゆえ保険契約者の保護に影響を与える可能性がある。
・業界 - 結果は選択した期間によって異なる。将来の更新が異なる期間を考慮すれば、これは資本コスト率の最終的な結果に関して規制のボラティリティを導入することになるだろう。
・監督者 - なし

オプション2:配当割引モデル
1793.ベネフィットの面では、以下の効果を検出することが可能
・保険契約者 - なし
・業界 - このモデルは、ERPの過去と未来の水準の違いを考慮に入れることを目的としているため、保険負債は現在の経済状況に基づいて評価される。
・監督者 - モデルは新しい学問的な作業を考慮する。

1794.コストの面では、以下を検出することが可能
・保険契約者 - このモデルは、将来の経済発展に関する強力な前提に基づいている。予想される将来の経済発展が実現しない場合、資本コストと技術的準備金は過小評価される可能性があり、保険契約者の保護は減少する。
・業界 - このモデルは、資本コストの他の要素が導出される方法と一致しないため、リスク管理に悪影響を及ぼす可能性の高い基礎となる前提を評価することはより困難である。これはCEIOPSに比較しての変更であり、規制のボラティリティを生み出す。
・監督者 - このモデルは前提に敏感であるため、監督当局は監督された(再)保険会社の特定のリスクプロファイルと十分に合致するかどうかを評価する必要がある。

21.20.3.オプションの比較
1795.好ましいオプションはオプション1(過去のリターンモデル)である。このモデルは、時間の経過とともにより安定したERPを提供し、異なる経済環境で適切であり、前提条件にはあまり依存しない。過去のリターンモデルは、より良い保険契約者保護を提供する。

 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回までの3回のレポートで、EIOPAが、2017年11月6日に公表した「ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第2の助言セットに関するコンサルテーション・ペーパー」の中から、欧州委員会からの助言要求項目の内容とそれに対する今回のCPでの助言案について報告してきた。

1|CPに対する現段階の反応
今回のCPの公表を受けての関係団体の正式な意見表明については、協議期間が終了する2018年1月5日以降に想定される。ただし、現段階の反応は一般的にはあまり歓迎されていないようである。

今回は20の項目が採り上げられているが、欧州の保険業界にとっての関心度は項目毎に大きく異なっている。その中でも、特に優先度が高いと考えられるのは、「金利リスク」、「リスクマージン」、「繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)」であると思われる。

これらの項目については、保険業界が期待していた内容や方向性での助言が提案されていない。結果的に、今回のEIOPAによる提案や意見等に基づけば、保険会社への影響は、保険会社の観点からは、現状より改善することは期待できず、場合によっては悪化する、と想定されることになる。

2|保険業界にとって優先度が高いと想定される問題への対応状況
「金利リスク」については、マイナス金利も発生している中で、その評価における金利シナリオの設定において、最近の状況も考慮した上での改定が提案されている。これはある意味で本来的な姿であり、より適切なものを目指しているものとの考え方もあるが、保険業界にとっては厳しくなる方向での改定となっている。

「リスクマージン」については、現在6%に設定されている資本コスト率の引き下げが期待されていたが、結果は現在の手法に基づけば、「資本コスト率は6%から8%の範囲内であるが、現行の6%に据え置く」となっている。

英国の保険会社を中心に、現行のリスクマージンの影響は大きい。結果的に今回のCPの提案に基づけば、現在行われている「長寿リスク移転」を通じた資本要件対応策の動きは今後も継続することが想定されていくことになる。これに関連して、英国の監督当局PRA(健全性監視機構)の対応が、Brexitとの関係も考慮する中で、今後注目されてくることになる。

「繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)」については、EIOPAは今回、助言という形式は採用しなかったが、主要原則とその「可能性の高い具体的な実施」を提案して、LAC DTの使用に関する制限を規定しようとしている。こうした考え方が欧州委員会において承認されるかどうかについては不透明であるが、いずれにしてもEIOPAが1つの考え方を示したことは大きな意味合いを有する形になっている。

3|今後の動き
先に述べたように、今回のCPに対する協議期間は2018年1月5日に終了するが、保険業界団体からはかなり厳しい意見が出されることが想定される。こうした意見やフィードバックを踏まえて、EIOPAがどのように対応していくのかは大変注目されるところである。
今後とも、今回のソルベンシーIIレビューに関する助言セットを巡る動きについては注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年12月25日「基礎研レポート」)

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