2017年12月25日

EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットについてのCPを公表(3)-欧州委員会に対する助言内容-

中村 亮一

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1―はじめに

ソルベンシーIIのレビューに関して、EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2017年11月6日に、「ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第2の助言セットに関するコンサルテーション・ペーパー」(以下、「今回のCP」と言う)1を公表し、関係者からのフィードバックを求めている。

前回及び前々回の基礎研レポート「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットについてのCPを公表(1)-欧州委員会に対する助言内容-」(2017.12.12)及び「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットについてのCPを公表(2)-欧州委員会に対する助言内容-」(2017.12.18)では、この第2の助言セットに関するCPの概要のうち保険引受けリスク及び資産運用に関係する項目について報告した。

今回のレポートでは、これまでに報告した保険引受けリスク及び資産運用関係以外の項目について報告するとともに、CP 全体を通じて、重点項目を中心とした今回の CP の助言案に対する全体的な評価等について述べることとする。   

2―今回のCPにおけるEIOPAによる助言の概要

2―今回のCPにおけるEIOPAによる助言の概要-保険引受けリスク及び資産運用関係以外-

この章では、欧州委員会からの助言要求内容とそれに対する今回のEIOPAの助言のドラフトの概要のうち、保険引受けリスク及び資産運用に関係する項目以外の(前々回の基礎研レポートの2―3|の20項目のうちの⑰から⑳)について報告する。
1|繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)
(1)欧州委員会からの助言要求内容
欧州委員会は、LAC DT(Loss-Absorbing Capacity of Deferred Taxes:繰延税金の損失吸収能力)の算定に現在適用されている様々な方法と、相違する慣行が資本要件の差異につながる程度について、EIOPAに報告するように依頼した。

欧州委員会は、「繰延税金調整による資本要件の減少の計算は複雑であり、高水準の監督上の判断を必要とし、その結果、加盟国間で異なる慣行を生じさせている」と述べている。

(2)EIOPAの助言-情報分析と主要原則に関する結論-
この情報要求に応えるために、EIOPAはコンサルテーション・ペーパー(EIOPA-CP-17-004)を発行し、欧州委員会に事実情報を送付した。

EIOPAは、可能性の高い利用が貸借対照表上の正味繰延税金負債(DTL)によって示されている場合のLAC DTの一部である、EEA全体でLAC DTの約1000億ユーロの75%以上に関して、国家監督当局(NSAs)が同様のアプローチを取っている証拠を提供した。そのポジティブな位置を認識しながら、可能性の高い利用が将来の利益によって示されている場合のLAC DTの残りの部分に関しては、NSAsは異なるアプローチを取っている。税制でキャリーバックが適用される場合、NSAsは、監督者が同様のアプローチを取っているLAC DTの75%を増加させて、LAC DTの可能性の高い利用を示すためのその使用を認めている。

最初のコンサルテーション・ペーパーの回帰分析では、EEA(欧州経済地域)全体のLAC DTの変動の約40%が、会社の貸借対照表の差異、税制の差異、会社の規模によって説明される可能性があることが示唆された。会社が1つ又は別の管轄区域にあるという事実は、LAC DTの変動の追加的な約35%を説明するかもしれない。この差異は、監督上の慣行の差異によるものかもしれないが、回帰分析におけるこれらの側面の変数によって捕捉されなかった税制及び異なる管轄区域における会社のリスク特性の差異によるものであるかもしれない。

EIOPAは、EEA全体でLAC DTの75%超に関してNSAsが同様のアプローチを取っているというポジティブな立場を認識している。差異がある残りの部分のうち、EIOPAは、「差異が、財政制度、リスクプロファイル又は資産と負債の長さとデュレーションの差異に起因している場合、LAC DTの差異が正当化されると考える」としている。EIOPAは財政制度を所与として取り扱っており、より高い税率又はより有利なキャリーフォワード及びキャリーバックの可能性を持つ税制を有する管轄区域における会社は、他の全てが同等であれば、より高いLAC DTを有することになる。

EIOPAは、bSCRショック損失2後に推定される将来利益の予測に依存するLAC DTの部分に関わる幅広い判断を観察した。ソルベンシーIIの貸借対照表及びSCR計算の評価は、専門家による判断が必要となるため、主観性それ自体は問題ではない。しかし、通常、貸借対照表評価及びSCR計算に対する専門家による判断は、同様の資産及び負債とリスクに対しての比較的小さな範囲の可能な結果につながる。将来利益によって示されるLAC DTの部分に関して、監督当局は、同様の会社に対する広範な前提及び結果を観察した。

この理由から、またEIOPA規則(2010年11月24日:EU(欧州連合)1094/2010)の第8章及び第16章により、EIOPAは、標準式の下でのLAC DTの計算、特に繰延税金の増加の可能性の高い利用を示すために使用されるストレス後の課税利益の予測に対して、コンバージェンスを達成するよう努力しており、今後はこうしたコンバージェンスを確実にするための適切な優良事例を検討する予定である、としている。

EIOPAは、ガイドライン、意見又は監督上のハンドブックのような監督上のコンバージェンスツールを用いてよりよく対処できる要素から、委任規則への可能な変更に関しての欧州委員会への助言の一部となる要素を区別しなかった。このため、この章では(他の章とは異なり)最後に青いボックスの助言は含まれていない。ステークホルダーのコメントを考慮してさらに検討した後、EIOPAは合理的な決定を下す、としている。

ただし、EIOPAは、監督上のコンバージェンスを促進し、以下の3つの懸念に取り組むために、いくつかの重要な原則を検討する、としている。

1.名目上の繰延税金資産(DTA)の利用に対する将来利益についての不確実性
2.これらの将来利益の予測に関係する複雑さ
3.名目上のDTAの可能性の高い利用に関連する広範囲の判断による不公平な競争条件
・類似のリスクに晒されている類似のソルベンシー比率を有する会社は、ショック後の世界に関してなされた前提の正当化できない差異のために、大きく異なるLAC DT及びSCRを有する可能性がある。
・ソルベンシーII体制の適用における相違(例えば、移行措置の適用)は、他の点で類似の会社間でのLAC DTの差異を引き起こす可能性がある。
・税制の違いは、LAC DTの違いを正当化する。この章は、税制の相殺相違点についてのものではない。

さらに、具体的に重要な原則として、以下の項目が挙げられている。
・ショック損失後のMCRとSCRの遵守の役割
・新契約からの将来利益 - 予測の前提
・新契約からの将来利益 - 新契約からの将来利益の予測期間
・新契約からの将来利益 - 新契約販売の予測期間
・資産の利益からの将来利益
・技術的準備金を超えた資産の収益からの将来利益 –予測期間
・将来の経営行動
・ガバナンス制度の役割
・監督者の報告と開示

これらの重要な原則について、「可能性の高い具体的な実施」について記載している。これには、「ショック損失後の新契約の将来利益を、直近の過去において実現した新契約からの利益の50%に制限すること」や「将来利益の予測期間を5年間に限定する」こと等が含まれている。

なお、比例性はこれらの原則の実施において重要な役割を果たすべきであるとして、複雑さの異なるレベルは、標準式、標準式の簡素化された計算又は内部モデルを介して適切に処理することができる、としている。EIOPAは、重要な原則を異なるレベルの複雑さにおいてどのように使用できるかについて、ステークホルダーからのコメントを受けたいと考えている、としている。
 
2 bSCR*ショック損失は、「SCR-LAC DT」又は言い換えれば 「基本SCR(bSCR)+オペレーショナルリスク+LAC TP(技術的準備金の損失吸収能力)」
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中村 亮一

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