2017年12月21日

「M字カーブ」底上げの要因分解-「女性の活躍促進」政策の効果が大きく、未婚化効果はごくわずか

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • 「女性の活躍促進」が掲げられて4年半。「M字カーブ」はじわりと底上げされ、一定の政策効果があるようだ。ただし、「M字カーブ」の底上げには未婚化も影響する。本稿では、女性の労働力率を配偶関係別に分解し、既婚女性要因と未婚女性要因が「M字カーブ」の底上げにどの程度寄与したのかを確認する。
     
  • 2012年以降の労働力率は、未婚女性では同様。有配偶女性では全体的に上昇し、特に20~30歳代や50歳代、60歳代前半の上昇幅が大きい。政策効果もあり仕事と育児の両立環境の整備が進んだことと、人手不足による影響が見られる。
     
  • 女性の労働力率の変化を要因分解すると、2012~2016年では、50歳代や60歳代前半、30歳代を中心に有配偶女性の労働力率上昇による効果が大きい。未婚化の影響は45~49歳前後で確認できるが、M字の底である30歳代では見られず、近年の「M字カーブ」の底上げは、おおむね有配偶女性の労働力率上昇による効果である。
     
  • さらに過去にさかのぼって分析すると、特に未婚化が進行した2001年から2006年の5年間では、30歳代の労働力率上昇の半分程度が未婚化の影響である。なお、20歳代前半では大学進学率の上昇により労働力率が低下した時期もある。
     
  • 政策により両立環境の整備が進んだことで既婚女性の労働力率は上昇しているが、M字の底である30歳代の既婚女性の労働力率は未だ決して高くない。背景には出産後の就業継続や再就職の難しさがある。特に、非正規雇用者では育児休業を利用しにくく、就業継続率が低迷している現状もある。正規雇用者でも家事・育児の妻側の負担の大きさも課題だ。
     
  • M字は底上げされ政策効果も見られるが、安心して子を生み育てながら働き続けるためには、いくつもの課題がある。1つ1つの課題を丁寧に解決していくことで、「女性の活躍推進」が真に進み、活力ある社会の形成につながる。

■目次

1――はじめに
 ~「女性の活躍促進」政策で「M字カーブ」の底上げ、未婚化の影響は?
2――配偶関係別に見た女性の労働力率の変化
 ~未婚は高水準で変わらず、30歳前後の有配偶で上昇
3――女性の労働力率変化の要因分解
 ~近年の「M字カーブ」の底上げは既婚女性要因、未婚化要因は40代後半あたりでわずかに確認
4――おわりに
 ~「女性の活躍推進」政策効果で「M字カーブ」は解消傾向だが、まだまだ課題は山積み
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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