2017年12月19日

中国の生命保険市場(2016年版)基礎データ-【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(29)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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4-保険金・給付金、解約払戻金等の支払いの状況

2016年の生命保険の死亡保険金や満期保険金等の支払いは、前年より2.7%増加して、4,603億元となった(図表7)。2015年の前年比64.2%増と比較して伸び幅が小さいのは、2013年頃まで主力商品であった短期・有配当保険(養老保険など)における満期保険金等の支払いが一定程度落ち着いた点が背景として考えられる。一方、保険料収入が大幅に伸びている健康保険は短期の契約も多く、前年比31.2%増の1,001億元となった。

また、解約払戻金は、前年比12.3%増の4,458億元となった(図表8)。商品別の構成比をみると、無配当保険が66.8%と最も多くを占めた。国内系生保、外資系生保の会社資本別でみると、市場占有率93.7%を占める国内系生保が全体の96.6%を占めた。解約率をみると、国内系生保が5.72%と高いのに対して、外資系生保は3.62%にとどまった。
(図表7)保険金・給付金等の支払/(図表8)解約払戻金

5-主要な保険会社の業績状況

5-主要な保険会社の業績状況

2016年、国内系の生命保険会社(医療保険専門、企業年金専門の保険会社を含む)は48社、外資系生保は28社であった。市場占有率(収入保険料ベース)は、国内系生保が93.7%を占め、外資系生保は6.3%であった。

2016年の市場占有率の高い上位3社は、中国人寿、平安人寿、太平洋人寿である(図表9)。そのうち、国有生保である中国人寿、太平洋人寿の業績をみると、いずれも純利益が前年より大幅に減少し、EPS(一株あたりの利益)も同様に減少した。保険料収入は底堅かったが、運用面での落ち込みが影響した。2016年は、年初のサーキットブレーカー発動による株式市場の混乱、株価の急落や、債券(企業債)のデフォルト増加によって金融市場が不安定化した。一方、平安人寿は民間生保であるが、上位3社のうちで唯一、収入保険料、純利益とも増加した。その純利益の規模も244億元と、保険料収入の規模で圧倒する中国人寿を凌いでいる。保険料収入の増加には、平安保険グループ全体で力を入れるフィンテック事業も貢献している。スマートフォンのアプリを通じたオンライン金融商品など、その他の金融サービスからのクロスセルの効果も出てきている2

外資系生保については、中国の国内銀行が50%以上を出資するアクサ、シグナといった銀行系生保が上位を占めている。外資系生保については、規模は小さいながらも、保険料収入、営業収入が大きく伸びている会社が多い。
(図表9)国内系/外資系生保上位5社の業績
各社の市場占有率(収入保険料ベース)は、近年、大きく変動している。中国の生保市場は、これまで国有系大手生保の占有率が高かったが、直近数年間で新興の中堅生保が急速に占有率を伸ばしている。

図表10は、2016年末時点で市場占有率上位10社について、2012年時点に遡ってその推移を示したものである。最大手の中国人寿は2012年から2016年までの4年間で占有率が12.5ポイントも下落している。一方、急速に勢力を伸ばしているのは、新興・中堅生保の安邦人寿、富徳生命人寿などである(医療保険専門の保険会社を除く)。両社はいずれも2015年から2016年にかけて高利回りを謳ったユニバーサル保険を大量に販売した保険会社である。安邦人寿は、わずか4年間で占有率を5.2ポイント上昇させ、2016年には上位5社のうち4位にランクインした。また、富徳生命人寿も同様に、直近4年間で占有率を2.2ポイント上昇させ、2016年は8位となっている。

2012年から2016年までの間で、最大手3社の占有率の合計は55.2%から38.9%まで下落しているが、3社の中で占有率を唯一安定して維持しているのが民間最大手の平安人寿である。平安保険グループは、金融事業のコングロマリット化の促進や、フィンテックをいち早く事業の柱に据えるなど、市場の変化に俊敏に適用している点が既存の国有大手と大きく異なる点である。
(図表10)2016年時点の市場占有率上位10社の占有率推移
 
2中国フィンテック、平安保険の戦略-ネット金融経済圏の形成、集まる4億人の金融ビッグデータ」(『保険・年金フォーカス』中国保険市場の最新動向(27)、2017年8月15日)
 

6-資産運用状況

6-資産運用状況

2016年の生保の総資産は、前年比25.2%増の12兆4,000億元であった3。中国では、生命保険会社(全体)の資産運用状況は公表していないため、以下では、既存の生保大手4社(中国人寿、平安人寿、太平洋人寿、新華人寿)について確認し、運用の全体像を概観する4

図表11は4社の資産のうち、負債を運用し、収益を確保することを目的とした実働資産について債券や株式など運用手段別に分類し、合計したものである。
(図表11)既存の生保大手4社の運用手段別資産構成
それによると、2016年は銀行預金(16.1%)、貸付(6.1%)、債券(55.8%)といったインカム資産は実働資産全体の8割を占めており、安全な資産を中心に運用されている。

また、過半を占める債券については、国債・政府債が26.7%、金融債が15.1%と安全性の高い債券が4割を占めている。一方、2016年はデフォルトが懸念された企業債が32.8%、次級債券(劣後債)が7.5%とこちらも4割を占めた。また、高収益が期待される債権プラン、理財商品、信託プランもおよそ16%と前年より5%ほど増加しており、高収益を求める動きも見られた。
 
 
3 資産運用残高については、生保、損保などの分類での公表はない。
4 2016年は安邦人寿が上位5社のうち4位となっている。しかし、安邦人寿の販売商品の構成の特徴から運用手法はその他の既存の4社とは大きく異なる。全体を概観するという点においてもここでは安邦人寿を除外する。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

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