2017年12月18日

EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットについてのCPを公表(2)-欧州委員会に対する助言内容-

中村 亮一

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1―はじめに

ソルベンシーIIのレビューに関して、EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2017年11月6日に、「ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第2の助言セットに関するコンサルテーション・ペーパー」(以下、「今回のCP」と言う)1を公表し、関係者からのフィードバックを求めている。

前回の基礎研レポート「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットについてのCPを公表(1)-欧州委員会に対する助言内容-」(2017.12.12)では、この第2の助言セットに関するCPの概要のうち保険引受けリスクに関係する項目を報告した。

今回のレポートでは、資産運用に関係する項目について報告する。

2―今回のCPにおけるEIOPAによる助言の概要-資産運用関係-

この章では、欧州委員会からの助言要求内容とそれに対する今回のEIOPAの助言のドラフトの概要のうち、資産運用に関係する項目(前回の基礎研レポートの2―3|の20項目のうちの(7)から(16))について報告する。

1|金利リスク
(1)欧州委員会からの助言要求内容
金利リスクモジュールのレビューは、EIOPA自身のイニシアティブによる問題である。 2016年にNSAs(国家監督当局)に送付されたアンケートの中で、いくつかのNSAsは、新しい金利環境を考慮して、現在の金利リスクモジュールのレビューを提案した。第1 の助言セットの要求を受けた後、EIOPAは、欧州委員会からの要請を補足するための技術的助言を提供することを意図した最も重要な自身のイニシアティブによる問題の1つとして、金利リスクを特定している。

(2)EIOPAの助言
EIOPAは、マイナス金利を伴う低利回り環境下で金利リスクを測定するには、現行の相対的アプローチは不適切であるとして、以下の3つの潜在的アプローチを分析している。
1.シフトアプローチ
2.静的なフロア付きの最小ショックアプローチ
3.組み合わせアプローチ

(2-1)各アプローチの概要
現行の相対的アプローチと上記の3つのアプローチの概要は、以下の通りである。

0.相対的アプローチ(relative approach
シフトは現在の金利の割合で計算される。ただし、上方のシフトには1%の下限があるが。下方のシフトに下限はない。さらにマイナスの金利は下方にストレスをかけない。

算式で表すと、上方へのシフトをr𝑡𝑢𝑝、下方へのシフトを𝑟𝑡𝑑𝑜𝑤𝑛で表すと、以下の通りとなる。
 r𝑡𝑢𝑝=max {𝑟𝑡 (1+𝑠𝑢𝑝),𝑟𝑡+1%}
 𝑟𝑡𝑑𝑜𝑤𝑛=min {𝑟𝑡(1−𝑠𝑑𝑜𝑤𝑛),𝑟𝑡}

1.シフトアプローチ(Shifted approach
第1ステップで、現在の金利が上方にシフトされるように機能する。第2ステップでは、このシフトされたスポットレートに基づいて、相対的なストレスが実行される。最後に、相対的にストレスが与えられシフトされたスポットレートは、同じ初期シフト量だけ下方にシフトされる。

 𝑟𝑡𝑢𝑝  =(𝑟𝑡 − 𝜃) ×(1 +𝑠𝑠𝑖𝑓𝑡,𝑢𝑝(𝜃) )+ 𝜃  
 𝑟𝑡𝑑𝑜𝑤𝑛 = (𝑟𝑡 −𝜃) ×(1−𝑠𝑠𝑖𝑓𝑡,𝑑𝑜𝑤𝑛(𝜃)) + 𝜃 

ここに、𝜃は潜在的に満期に依存するシフトベクトルで、𝑠𝑠𝑖𝑓𝑡,𝑢𝑝(𝜃)と𝑠𝑠𝑖𝑓𝑡,𝑑𝑜𝑤𝑛(𝜃)は相対的なストレスファクターであり、それ自体がシフトベクトル𝜃に依存する。

2.静的なフロア付きの最小ショックアプローチ(A symmetric 200 basis point (bp) minimum shock with a static interest rate floor
基本的には200bpsの最小ショックを与えつつ、フロアレートも設定する形で、期間mに応じて、以下の通りに設定される。

 𝑟𝑡𝑑𝑜𝑤𝑛,𝑚𝑖𝑛𝑠𝑜𝑐𝑘 = max (𝑓𝑙𝑜𝑜𝑟(𝑚),min [𝑟𝑡(𝑚) − 2% ; 𝑟𝑡(𝑚) ×(1 − 𝑠𝑑𝑜𝑤𝑛(𝑚))])
 𝑟𝑡𝑢𝑝,𝑚𝑖𝑛𝑠𝑜𝑐𝑘 = max [𝑟𝑡(𝑚) + 2% ; 𝑟𝑡(𝑚) × (1 + 𝑠𝑢𝑝(𝑚))]

ここで、絶対的な最小ショックは、20年目以降、90年で0%に達するまで、直線的に減少する。また、上方の200bpsの最小ショックを維持しつつ、フロア付きで設定されるが、フロアとしての最低金利は、満期1年で-2%、20年以上の満期で-1%、満期1年から20年の間は直線補間で設定される。

3.組み合わせアプローチ(A combined approach
低利回り環境下では、擬似ストレス(affine stress)が適用され、中程度の利回り環境下では、パラレルな200bpsのストレスが適用される。一方、高利回り環境下では純粋に相対的なストレスが優先される。

擬似ストレスは以下の通りに設定される。

 𝑟𝑡𝑑𝑜𝑤𝑛,𝑎𝑓𝑓𝑖𝑛𝑒(𝑚) = min (𝑟𝑡(𝑚), 𝑟𝑡(𝑚) (1− 𝑠𝑑𝑜𝑤𝑛(𝑚))) − 1%
 𝑟𝑡𝑢𝑝,𝑎𝑓𝑓𝑖𝑛𝑒(𝑚) = max (𝑟𝑡(𝑚), 𝑟𝑡(𝑚)(1 + 𝑠𝑢𝑝(𝑚))) + 1.4%

ここで、非対称的な追加的なストレス要素である-1%と+1.4%については、20年目以降、90年で0%に達するまで、直線的に減少する。

組み合わせショックは、この擬似ストレスと「2.静的なフロア付きの最小ショックアプローチ」との大小関係チェック(下方は小さい方、上方は大きい方)を行って設定される。

 𝑟𝑡𝑑𝑜𝑤𝑛,𝑐𝑜𝑚𝑏𝑖𝑛𝑒𝑑(𝑚) = max (𝑟𝑡𝑑𝑜𝑤𝑛,𝑎𝑓𝑓𝑖𝑛𝑒(𝑚) ; 𝑟𝑡𝑑𝑜𝑤𝑛,𝑚𝑖𝑛𝑠𝑜𝑐𝑘(𝑚))
 𝑟𝑡𝑢𝑝,𝑐𝑜𝑚𝑏𝑖𝑛𝑒𝑑(𝑚) = min (𝑟𝑡𝑢𝑝,𝑎𝑓𝑓𝑖𝑛𝑒(𝑚) ; 𝑟𝑡𝑢𝑝,𝑚𝑖𝑛𝑠𝑜𝑐𝑘(𝑚))

下の図(CPより抜粋)は、この組み合わせアプローチがどのようにワークするのかを示している(x軸は金利、y軸は絶対ショック)。
IIIustration of the combined approach
(2-2)各アプローチの分析の結果と評価
分析の結果、過去のデータとの比較から得られた結果を踏まえて、シフトアプローチは、一定の金利環境下における実質金利リスクを過小評価する可能性がある重大なリスクがあることから、十分に慎重な方法で金利リスクをモデル化する適切な候補とはみなさなかった。

残りの2つのアプローチを、それぞれ提案A(静的なフロア付きの最小ショックアプローチ)及び提案B(組み合わせアプローチ)として、マイナス金利を伴う低利回り環境下における現行のアプローチの欠点を緩和する、現在の方法論に対するシンプルかつ適切な調整とみなした。

提案Aの利点としては、(1)非常にシンプルなアプローチであり、全ての通貨に適用でき、より頻繁な再較正を要求されない、(2)過去のデータとの比較で十分な実績を示しており、金利シナリオにおいて金利リスクの対称的な過小評価をもたらさない、点が挙げられている。一方で、低金利環境では、最小ショックの導入が、過度に保守的なアプローチにつながることになる。

提案Bの利点としては、(1)モデルが比較的単純で、過去のデータと比較して十分な実績を示している、(2)擬似ストレスは過去のデータに基づいて推定されるため、部分的にデータ主導型である、(3)金利の進展を調整する黙示的で動的な下限を含んでおり、結果として、過度にマイナスの金利を回避するために静的な下限を設定する必要がない、(4)モデルは、特に低金利環境下でリスク感応度が高く、低利回り環境における金利の過去の動きは擬似形に従う傾向がある、が挙げられている。

7.4.3.EIOPAの助言
522. EIOPAは、マイナス金利を伴う低利回り環境下で金利リスクを測定するには、現行の相対的アプローチは不適切であると考えている。したがって、EIOPAは方法論を修正することを提案している。

523. EIOPAは、過去のデータとの比較から得られた結果を踏まえて、シフトアプローチを十分に慎重な方法で金利リスクをモデル化する適切な候補とはみなしていない。これらの結果は、シフトアプローチが一定の金利環境下における実質金利リスクを過小評価する可能性がある重大なリスクがあることを示している。

524. EIOPAは、提案A(静的なフロア付きの最小ショックアプローチ)と提案B(組み合わせアプローチ)の両方を、マイナス金利を伴う低利回り環境下における現行のアプローチの欠点を緩和する、現在の方法論に対するシンプルかつ適切な調整とみなしている。

525.その結果、EIOPAは、提案A又は提案Bに従って現在の金利リスクモジュールを調整することを勧告する。

2|市場リスク集中
(1)欧州委員会からの助言要求内容
EIOPAは、市場リスク集中サブモジュールを計算する際に、保険及び再保険会社によって現在行われている前提及びそれらの影響について報告するように求められている。

(2)EIOPAの助言
EIOPAは、ステークホルダーからの回答に基づいて、現在の法的規定の適用についての明確化を提供する必要があるかどうか検討し、そうであれば適切な形態を検討するとし、さらに、委任規則における「混合」エクスポジャーの現在の取扱を維持することを勧告すべきかどうか、あるいは変更を提案すべきかどうかをさらに分析し、変更する場合には、最良の選択肢は、リスクファクターの加重平均を使用する選択肢2である、としている。具体的に、市場リスク集中について、単一単独保険会社、信用又は金融機関へのエクスポジャーを含む単名エクスポジャーのリスクファクターの計算についてのステップを勧告している。

8.4.3.EIOPAの助言
570.ステークホルダーからの回答に基づいて、EIOPAは現在の法的規定の適用についての明確化を提供する必要があるかどうか検討し、そうであれば適切な形態を検討する。

571. EIOPAはさらに、委任規則における「混合」エクスポジャーの現在の取扱を維持することを勧告すべきかどうか、あるいは変更を提案すべきかどうかをさらに分析する。後者の場合、これまでの分析に基づく最良の選択肢は選択肢2であると思われる。

572.単一単独保険会社、信用又は金融機関へのエクスポジャーを含む単名エクスポジャーのリスクファクターの計算は、次のステップで決定されるべきである。
i.SNEの全ての格付けエクスポジャーは、委任規則第186条(1)に従って、リスクファクターが割り当てられる。

ii.現在、委任規則第186条(2)から(5)によって把握されている全てのエクスポジャーには、該当する条項で定義されたリスクファクターが割り当てられる。

iii.残りの格付けされていないエクスポジャーは、委任規則第186条(6)に定義されているように、73%のリスクファクターを受ける。

iv.SNEのリスクファクターは、SNEに属する全てのエクスポジャーのリスクファクターの平均値として、各エクスポジャーの値で重み付けされて、計算される。

573.市場リスク集中のためのそのような変更の場合、同じ規定が委任規則第199条(4)から(7)に拡げられるべきである。

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中村 亮一

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