2017年12月18日

政策保有株式削減の進捗状況-進む損害保険、出遅れる銀行

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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ここまでは、大株主として掲載されているか否かのみに着目した分析であったが、ここからは、平均保有順位の変化にも着目する。冒頭に記したとおり、多くの企業は取引関係の重要性や、取引先企業の成長性を勘案し、個社別に保有の合理性を判断している。しかし、政策保有株式を削減するために、保有の合理性が有る銘柄であっても、保有量(占率)を減らしている可能性も有る。政策保有株式の削減手段として、保有量の減少に取り組んでいるならば、その効果は削減率ではなく、平均保有順位の変化に反映される可能性が高く、個社の取り組みを削減率のみで評価することは不適切だからだ(図表6)。

しかし、3メガバンクいずれも、平均保有順位に大きな変化は無く、先の政策保有株式の削減は遅れ気味という判断に変わりない。
図表6:政策保有株式削減の取り組み効果の表れ方
みずほ銀行及び三井住友銀行の平均保有順位が僅かに上がっている。これは、合理性判断に基づき、保有順位の低かった銘柄を売却するなどした結果として、分析上、順位が上がったに過ぎないと解釈すべきであろう(図表6:A銀行の例)。上記の2行と同様、上述の影響も受けているはずなのに、三菱東京UFJ銀行のみ僅かに平均保有順位が下がっている点が興味深い。データの制約や簡便な分析手法による影響もあるが、保有の合理性があっても市場環境や経営・財務環境等を考慮し売却する方針(図表1)の表れかもしれない。
3|個社別調査結果からわかること~進む損害保険、出遅れる銀行

前段の通り、政策保有株式の削減の進捗状況は、削減率だけでなく平均保有順位の変化も含め判断すべきである。そこで、政策保有銘柄の数が多い企業それぞれの削減率及び平均保有順位の変化をプロットした(図表7)。右下ほど、削減率が高く、また平均保有順位が下がっていることから、政策保有株式削減が進んでいる企業と判断できる。そして、左上はその逆である。
 
削減率だけでなく、平均保有順位の変化においても、損害保険の政策保有株式削減は他業種に比べて進んでいることが確認できる。削減率に限れば、銀行と一般事業会社と間に大差はなかった。しかし、平均保有順位の変化に着目すると、一般事業会社の方が進んでいるように見える。このことから、政策保有株式削減という点で、銀行は他業種に比べて出遅れていると考えられる。

なお、相対的に政策保有株式削減が遅れている銀行の中では、3メガバンクは、進んでいる部類に入る。
 
図表7:大株主データから見た各社の政策保有株式削減の進捗状況

4――最後に

4――最後に

コーポレートガバナンス・コードの適用を機に、政策保有株式の削減が進んでいる。特に、3メガバンクは、2015年3月末時点から3~5年で少なくとも3割程度、政策保有株式の削減を目標としているが、その歩みはやや遅れているように見える。市場環境や発行体企業の理解といった事情を考慮して、保有の合理性が認められない政策保有株式の売却を進める方針を掲げているが、近年の株式市場環境を鑑みると、苦戦する要因は、市場への影響ではなく発行体企業の理解といった事情にあると考える方が自然だ。依然、政策保有株式の売却に対する企業側の抵抗が根強いことの表れだろう。
 
3メガバンクが苦戦する背景も理解できるが、他業種、特に、損害保険各社と比較して出遅れている事も事実である。残り1年~3年間の各行の取り組みに期待するともに、発行体企業の意識変化にも期待したい。政策保有株式が保有企業の資本効率向上の阻害要因となりうること、これが批判される理由である。だからこそ、コーポレートガバナンス・コードでは、政策保有株式について中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証することを求めている。しかし、理由は一つではない。株主総会の形骸化(監視機能の無効化)を通じて、保有される側の企業価値向上の阻害要因になりうることも政策保有株式が批判される理由である。自社が一般投資家の眼にどのように映っているかを考えると、政策保有株式の売却に対する抵抗感も弱まるのではないだろうか。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2017年12月18日「基礎研レポート」)

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