2017年12月15日

日銀短観(12月調査)~大企業製造業の景況感は11年ぶりの高水準だが、課題も浮き彫りに

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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5.設備投資・雇用:人手不足感さらに強まる、設備投資計画は底堅さを増している

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模全産業で▲5と、前回比で2ポイント低下、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)は▲31と前回から3ポイント低下し、ともに引き続き不足超過となった。堅調な内外需要を反映して、設備・人員の不足感が強まった。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)は前回から2.6ポイント低下し(▲18.8ポイント→▲21.4ポイント)、マイナス(不足超過)の幅を拡大している。

特に雇用人員判断D.I.は1992年2月調査以来のマイナス幅となっており、人手不足感が極めて強い状況が続いている。内訳を見ると、これまで同様、製造業(全規模で▲23)よりも、労働集約型産業が多い非製造業(全規模で▲36)で人手不足感が格段に強い。また、企業規模別で見ると、人材調達力や収益力・賃金水準の違いが反映されているとみられるが、中小企業が▲34と大企業の▲19を大きく下回っている。

人手不足は製造業・非製造業や企業規模を問わず幅広く共有されているが、特に中小企業において深刻な経営課題になっていることは疑いがない。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.が現状比1ポイント低下の▲6、雇用判断D.I.は2ポイント低下の▲33と、それぞれ不足感が強まることが見込まれている。両者を反映した「短観加重平均D.I.」も引き続き低下に向かう見込み(▲21.4ポイント→▲23.0ポイント)。先行きにかけても、雇用判断D.I.の低下は中小企業で目立ち、中小企業における人手不足に対する警戒感は強い(図表9,10)。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比6.3%増と前回調査時点の4.6%増から上方修正された。例年9月調査から12月調査にかけては、中小企業を中心に計画が固まってくることで上方修正される傾向が強い。ただし、今回は中小企業の伸びが大きく、全体の上方修正幅(1.7%)は直近5年平均(1.1%)を明確に上回り、12月調査としては2007年度以来の上方修正幅となっていることから、実勢としても底堅さを増していると言える。景気の回復や企業収益の改善、人手不足を受けた省力化投資の活性化が背景にあるとみられる。

ただし、これまでの収益改善や投資余力拡大の割には物足りなさも残る。事業環境の先行き不透明感が強いことや、企業の期待成長率が低迷していることが影響しているとみられる。

なお、17年度計画(全規模全産業6.3%増)は事前の市場予想(QUICK 集計5.5%増、当社予想は5.9%増)を上回る結果であった。
(図表11)設備投資計画と研究開発投資計画
(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)
(図表13)設備投資計画(大企業・全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2017年12月15日「Weekly エコノミスト・レター」)

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