2017年12月11日

米国経済の見通し-ハリケーンにも拘らず、米経済の基調は底堅い。税制改革も含めた今後の経済政策に注目

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)7‐9月期の成長率は前期から伸びが加速、在庫、外需が押し上げ
米国の7-9月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+3.3%(前期:+3.1%)と前期から小幅ながら伸びが加速した(図表1、図表6)。8月下旬以降、大型ハリケーンが相次いで上陸した影響で、当研究所は7-9月期の成長率が前期から低下すると予想していたが、前期並みの高い伸びを維持したことで、当期はハリケーンの影響を除いた米経済の基調が底堅いことを確認した結果であったと言えよう。

需要項目別では、民間設備投資が前期比年率+4.7%(前期:6.7%)となったほか、個人消費が+2.3%(前期:+3.3%)と前期から伸びが鈍化した。また、住宅投資は▲5.1%(前期:▲7.3%)と2期連続のマイナスとなった。一方、政府支出が+0.4%(前期:▲0.2%)と3期ぶりにプラスに転じた。さらに、在庫投資の成長率寄与度が+0.80%ポイント(前期:+0.12%ポイント)となったほか、外需の寄与度も+0.43%ポイント(前期:+0.21%ポイント)となり、在庫投資と外需が合計で成長率を1.2%ポイント以上押し上げた。

さらに、個人消費を仔細にみると、非耐久財が前期比年率+2.0%(前期:+4.2%)、サービス消費も+1.5%(前期:+2.3%)と前期から伸びが鈍化する一方、耐久財は+8.1%(前期:+7.6%)と前期から伸びが加速した。自動車関連が+12.6%(前期:+0.8%)と大幅な増加となったことが大きい(図表2)。実際、新車販売台数は、9月に年率換算18.6百万台(前月:16.1百万台)と前月から顕著に増加し、05年7月(20.5百万台)以来の水準となっていた(図表3)。これは、ハリケーンによって被害を受けた自動車の復興需要とみられる。もっとも、自動車販売は9月をピークに11月は17.5百万台と2ヵ月連続で減少してきており、復興需要は既に頭打ちした可能性が高い。
(図表2)個人消費支出(主要項目別)および可処分所得/(図表3)自動車販売台数と伸び率
一方、10-12月期の個人消費は、自動車関連では伸び鈍化が見込まれるものの、年末商戦の好調から、7-9月期から伸びは加速しそうだ。雇用不安の後退に加え、株価の堅調や税制改革に対する期待もあってコンファレンスボードの消費者センチメント指数が00年12月以来の水準に改善するなど、消費マインドは非常に堅調であり、消費に追い風となっている(図表4)。

実際、11月下旬の感謝祭を終えて年末商戦が本格化しているが、感謝祭翌日のブラック・フライデー、翌週月曜日のサイバー・マンデーの売上は好調なようだ。全米小売業協会(NRF)は、10月時点で今年の年末商戦の売上高1を前年比+3.6~4.0%(前年:+3.6%)と予想していた(図表5)。しかしながら、同協会はブラック・フライデーからサイバー・マンデーまでにオンラインも含めてショッピングを行った人数が1億74百万人と、事前予想の1億64百万人を10百万人上回ったとしており、年末商戦の出足は予想以上であったようだ。このため、年末商戦の売上高が昨年を上回る伸びとなる可能性が濃厚となっている。
(図表4)消費者センチメントおよび米株価指数/(図表5)年末商戦売上高および前年比増加率
これまでみたように、7-9月期の成長率は在庫投資や外需に押し上げられたが、これらは持続可能ではなく、10-12月期には成長率寄与度の低下が見込まれる。一方、個人消費の堅調が見込まれることから、10-12月期の成長率は前期比年率+2.7%と前期からは低下するものの、高い伸びを維持すると予想する。この結果、17年の成長率は前年比+2.3%と16年の+1.5%から加速しよう。
 
1 NRFは、年末商戦を11月と12月の小売売上高の合計から、自動車ディーラー、ガソリン・スタンド、食品サービスを除いたものと定義している。
(経済見通し)成長率は18年+2.5%、19年+2.1%を予想
18年から19年にかけても、労働市場の回復を背景に消費は堅調に推移することが見込まれる。また、日本や欧州をはじめ世界的な景気回復を背景に民間設備投資も堅調な回復が見込まれるほか、住宅投資も緩やかながら回復は持続しよう。このため、基調としての米国経済は底堅い成長が持続するとみられる。

さらに、足元で審議が本格化している税制改革の実現も成長を後押ししそうだ。当研究所では税制改革が来年1-3月期に実現することをメインシナリオにしており、18年の成長を押し上げると予想している。一方、インフラ投資拡大などの税制改革以外の経済政策については、トランプ大統領の政治資本がロシア疑惑などもあって毀損しているほか、来年11月の選挙結果によって動向が左右されることから、非常に不透明な状況である。このため、当研究所ではこれら経済政策の効果によって18年の成長率が0.3%ポイント程度押し上げられる一方、19年の成長押し上げ想定は現段階では中立とした。

これらの結果、当研究所では成長率(前年比)を18年が+2.5%、19年は+2.1%と予想する(図表6)。
 
物価は、労働需給のタイト化に伴う賃金上昇などからコアインフレ率の底打ちが見込まれることに加え、原油価格も19年末の60ドルにかけてまで緩やかに上昇し、物価を押し上げる状況が持続することから、総合指数は伸びが加速することが見込まれる。

当研究所では、消費者物価(前年比)は、17年が+2.1%となった後、18年が+2.4%、19年が+2.3%と、17年から伸びが加速すると予想している。

金融政策は、労働市場の回復が持続する中、物価が緩やかに上昇することに伴い、FRBによる政策金利の引き上げが継続すると予想する。当研究所では、FRBは政策金利を12月に0.25%引き上げた後、18年が年3回(合計0.75%ポイント)、19年が年2回(合計0.50%ポイント)の利上げを実施すると予想する。

当研究所では、パウエル新議長の元、来年以降も基本的に現在の金融政策方針が継続されると予想しているが、FOMC投票メンバーが大幅に入れ替わることから、今後の人選によっては金融政策方針が軌道修正される可能性もあり注目される。
 
長期金利は、物価上昇や政策金利の引き上げ方針継続に加え、FRBによるバランスシート縮小に伴う国債需給の引き締りや、財政赤字拡大に伴う国債供給増などを背景に、19年にかけて3%台前半まで緩やかに上昇すると予想する。
(図表6)米国経済の見通し
(図表7)大統領および政党支持率 上記見通しに対するリスクとして、北朝鮮問題の深刻化などに伴う地政学リスクの高まりと、米国内政治の混乱が挙げられる。とくに後者では、ロシアゲート疑惑に関する調査が元側近の訴追に至るなど佳境に入っているほか、来年11月に中間選挙を控えていることもあり、国内政治の混乱が好調な米経済に水を指す可能性には注意したい。

なお、中間選挙では下院2の全435議席、上院3のおよそ3分の1に当る34議席が改選される。トランプ大統領の支持率は足元で4割弱と就任以来低迷していることに加え、政党に対する支持率でも民主党が共和党を足元で8%ポイント上回るなど、民主党優位な状況が続いている(図表7)。

このため、このまま行けば共和党が議席を減らす可能性があり、場合によっては議会の過半数を失って、大統領と上下院の多数党が異なる分割やねじれ政権になる可能性も否定できない。

もっとも、下院では共和党に有利な選挙区割りの影響もあり、共和党が引き続き過半数を維持することが見込まれる。また、上院も改選34議席のうち、民主党が2名の独立議員も含めて25議席と多く、共和党は9議席のうち、6議席を維持すれば過半数割れ(49議席以下)を回避できるなど、民主党に不利な選挙であることには留意する必要がある。

さらに、20年まで任期を残していたミネソタ州選出のフランケン民主党上院議員が、過去のセクハラ疑惑の責任をとって辞任したため、補欠選挙が来年実施されることも共和党に追い風である。このため、上下院ともに民主党が過半数を確保するのはそれ程容易ではないと言える。
 

2 現行議席数は、過半数218議席に対し、共和党が240議席、民主党が193議席、空位2議席である(12月8日時点)。
3 現行議席数は、上院100議席に対し、共和党が52議席、民主党が独立議員2名を含めて48議席である(12月8日時点)。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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