2017年12月05日

年金改革ウォッチ 2017年12月号~ポイント解説:次期年金改革の進め方

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

先月は、年金改革に関係する審議会等が開催されませんでした。
 

2 ―― ポイント解説:次期年金改革の進め方

2 ―― ポイント解説:次期年金改革の進め方

年金財政の見通しが公表される年(2019年)まで、あと1年あまりになりました。本稿では、次回の年金改革に向けた議論の進め方について、1年前に野党が「年金カット法案」と批判した国会審議を振り返りながら、考えます。
1|国会審議と審議会の関係:審議会で賛否両論を整理し、国会で最終的な合意形成を図る
年金改革において、最終的な国民合意を形成する場は国会であり、国会での真摯な議論が重要なことは言うまでもありません。しかし、国会での議論は短期的な思惑で政局になる可能性があるため、長期的な視点での事前の議論や分析が必要です。それを担う公的な場が、社会保障審議会の年金部会です。

年金部会は2002年1月の発足以来、従来型の審議会のように担当大臣からの諮問に対して答申する、という形式をとっていません。公開された場で、分析や試算を参考にしながら委員が意見を持ち寄り、賛否両論の議論を整理して公表するのが、同部会の役割となっています。
2|審議会の進め方:試案試算前の議論整理と早期の議論開始が必要
審議会(年金部会)の議論は報道される機会が多いため、一般の人々の理解のキャッチアップも意識して、議論を進めることが期待されます。

これまでの議論の大きな流れは、5年ごとに国勢調査が実施され、それをもとに新しい将来推計人口が作られ、それをもとに年金財政の見通しが作られる、という順序でした。ただ、年によって違いも見られます。かつては新しい将来推計人口の公表後速やかに年金部会の議論が始まるのが通例でしたが、2012年に社会保障・税一体改革が議論されていたためか、2014年の財政見通しに向けた議論は開始が遅れました。その影響もあり、どのような試案の試算(オプション試算)を行うかについて、意見集約が不十分になりました。また、2004年や2009年の財政見通しの過程では暫定試算をもとに年金部会の議論が進められ、同部会の意見整理後に最終的な財政見通しが公表されていましたが、2014年の財政見通しの過程では最終的な財政見通しをもとに議論が進められました。
図表1 これまでの財政見通しや年金改革議論の経過
これらの経緯を振り返ると、一般の人々の理解も意識した十分な議論のためには、(1)残された課題や年金数理部会等の指摘の確認、(2)新しい将来人口を踏まえた現状把握(暫定試算の実施)、(3)検討すべき見直し策(試案)の議論と整理、(4)財政見通しに用いる前提の確認、(5)財政見通しや試案の試算の実施、(6)財政見通しや試案の試算結果を踏まえた議論、(7)制度改正(法案作成)に向けた議論の整理、という着実な手順を踏む必要があるでしょう。特に、財政見通しの意義や試算の限界を踏まえながら、どのような見直し案を試算するかを事前に十分議論して整理することが重要です。

また、2015年1月に年金部会がとりまとめた「議論の整理」では、基本的方向性の1つとして「国民合意の形成とスピード感を持った制度改革の実施」が挙げられました。合意形成とスピード感を両立させるには、新しい将来人口推計の公表後速やかに暫定試算を行うことが重要でしょう。さらに、法律の「少なくとも5年ごと」という規定を踏まえて、従来よりも早めに財政見通しや試案の試算を公表して議論を進め、改正法案の早期提出につなげることも一案でしょう。
3|国会審議の進め方:注目を集めることで、国民の理解が深まる可能性
法案提出後に最終的な国民合意をどう取り付けていくかは、大きな課題です。年金制度には長期的な視点が欠かせませんが、政治的な議論やメディアからの情報は近視眼的になるリスクがあります。また、公的年金制度はこれから生まれてくる世代も含めてすべての人々が加入する制度ですが、それが故に、立場を分断して対立を煽るような議論が提示されるリスクもあります。

昨年の年金改革法案は、野党が「年金カット法案」と批判し、大きな注目を集めました。当初は、年金カット、すなわち当面の受給者に不利なことが注目されましたが、議論が進むにつれて、将来世代にとっては給付水準の低下を抑えるメリットがあることが理解されました。野党は不要な不安を煽って審議を停滞させた、という意見もありますが、この批判をきっかけに人々が注目したからこそ、法案の意義がきちんと理解されていった、と見ることもできるでしょう。
 
重要なのは、人々が関心を持った時に、冷静に法案の内容を確認して判断できることです。その意味でも、国会審議の前に年金部会が改革案のメリットとデメリットを洗い出し、きちんと整理しておくことが重要でしょう。次期改革に向けて、年金部会での早めの議論開始が期待されます。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2017年12月05日「保険・年金フォーカス」)

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