2017年12月04日

2018年はどんな年? 金融市場のテーマと展望~金融市場の動き(12月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.トピック:2018年はどんな年?金融市場のテーマと展望

師走に入り、今年も残すところ1カ月を切った。少々早いものの、今年の金融市場を振り返り、来年の市場のテーマと動向を展望したい。
2017年のドル円相場と株価(現時点まで) (2017年の振り返り・・・世界経済回復+地政学リスク緊迫化)
まず、2017年のこれまでの市場の動きを確認すると、ドル円レートは年初116円台半ばでスタートした後、4月や9月などにたびたび110円を割り込む時間帯があったものの、基本的に110円から115円をレンジとする方向感を欠く展開となった。足元も112円台で推移しており、年初の水準を回復していない。一方、日本株(日経平均株価)については、年初19100円台でスタートした後、4月や9月に円高と歩調を合わせてやや下落する場面があったものの、ドル円に比べて底固さがみられ、秋以降は急速に上昇した。11月上旬にはバブル崩壊後の高値(22666円)を突破し、足元も23000円をうかがう水準にある。つまり、為替と株価の動きが乖離し、「円高・大幅な株高」となった。
ドル円レートと米長期金利 両者の乖離の理由を挙げると、まず為替の円安ドル高進行を阻んだのが米利上げ観測の低迷だ。米国は今年既に2度の利上げを実施したうえ、12月の追加利上げも規定路線だが、物価上昇率の伸び悩みなどからFRBの先々の利上げペースが緩やかに留まるとの観測が浸透し、米長期金利の低迷を通じてドル買いが抑制された。年初から春にかけては、トランプ政権の税制改革の具体化が遅れ、米経済加速への過度の期待が剥落したこともドル安に繋がった。

また、今年は日銀が追加緩和を実施しなかったため、日本発の円安材料も提供されなかった。
一方、株価にとっては世界経済の回復が大きな追い風になった。欧米経済が堅調に推移したほか、中国経済の成長率も昨年から持ち直した。中国では5年に一度の共産党大会を秋に控え、経済の安定を図るべく政策的なテコ入れ(インフラ投資の活発化等)が実施され、今年の目標値である6.5%成長を大きく上回るペースでの成長が続いた。世界経済の回復基調が強まったことで、世界的に株価は好調に推移した。為替にはドル高の抑制に働いた米利上げ観測の停滞も、米株にとっては、「景気は堅調だが、利上げペースは緩やか」という理想の状況(適温相場)を演出し、米株価の頻繁な最高値更新を通じて日本株の上昇圧力となった。

これに加えて、6月の仏大統領選におけるマクロン氏勝利(反EU派候補の敗北)、10月の衆院選における自民党大勝(アベノミクスの継続確定)などの内外政治イベントも株価の押し上げに寄与した。日銀の年6兆円増ペースにものぼる大規模なETF買入れも、需給改善や下値不安緩和を通じて日本株の押し上げに働いた。
米国・ユーロ圏・中国の実質成長率/2017年の主な出来事(11月まで)
ただし、地政学リスクや政治リスクの緊迫化はたびたび市場の動揺を引き起こした。今年は北朝鮮の核・ミサイル問題や中東情勢の緊迫化(米国のシリア空爆、サウジとイランの対立、クルド独立を巡るイラク政府の対立など)、カタルーニャの独立問題など、多くの地政学リスクが表面化した。また、トランプ大統領は、公約に掲げていたほど極端な保護主義政策をとらなかったものの、大統領周辺のロシアゲート疑惑を巡る報道が政権運営の不透明感に繋がった。これらリスクへの警戒から市場がリスク回避的になり、円高・株安に振れる局面がたびたび発生した。
 
今月もまだ米税制改正の動向やカタルーニャの選挙(12/21)など注目される材料が残っているが、これまでのマーケットを総括すると、「楽観ときどき警戒」という地合いであった。「世界経済の回復」などの追い風が吹くなかで、「地政学・政治リスク」への警戒がたびたび市場を揺さ振った。国内発の材料が少ないなかで、海外材料の影響を大きく受けることになった。
(2018年はどんな年?)
(1)メインテーマは海外情勢(景気・政治・地政学リスク)
それでは、来年2018年は金融市場にとってどのような年になるのだろうか?まず、来年のスケジュールを確認すると(表紙図表参照)、国内にも材料はあるものの、大きな政策変更や波乱は想定しづらいため、やはり、今年同様、海外情勢に大きく左右される展開になりそうだ。

1) 米国情勢:米景気・物価、税制改正の行方
まず、米国に関しては、景気・物価の行方が注目される。米経済は堅調な推移を続けているが、物価上昇率は低迷(10月のコアPCEデフレータは前年比1.4%)している。ただし、今後、経済成長ペースが加速するのであれば、物価上昇率FRBが目標とする2%に向けて持ち直す可能性が高い。そうなれば、FRBは利上げスタンスを積極化するだろう。

カギになるのはトランプ政権の進める税制改革(大規模減税等)の行方だ。現在、法案成立に向けた議会の交渉が大詰めを迎えているが、上下両院で内容に差があり、まだ成立に向けた情勢は流動的である。もし法案が成立すれば、米経済成長の追い風になる。最大の焦点である法人税減税は下院案(2018年~)と上院案(2019年~)でスタート時期が異なるが、減税が決まれば、企業の前向きな動きを促す可能性が高い。また、海外子会社等の資金を米国に戻す際に課せられる税が引き下げ(過去分)、廃止(将来分)される法案(リパトリ減税)が成立すれば、米国に還流した資金による景気押し上げ効果が期待できるうえ、資金還流の際にドルが買われることで、需給面でのドル買い需要も見込まれる。
本国投資法とドルインデックス(2004~2006年) ブッシュ政権下で時限的にリパトリ減税が実施された2005年には大規模な資金の還流が起こり、大幅なドル高が起きた。今回は恒久的な措置であり急ぐ必要がないこと、既に米企業の海外資金のうちドルで保有されている割合も高いとみられることから、為替への短期的な効果は限られそうだが、ドル高材料という点は変わらないだろう。

一方、もし税制改正が頓挫するようなことがあれば、11月の米中間選挙を控えて成果を焦るトランプ政権が、極端な保護主義政策に走る可能性が高まる。その際は、日本も無関係というわけにはいかないだろう。
2) 中国:緩やかな景気減速に留まるか?
次に注目されるのは、中国経済の行方だ。今年は5年に一度の党大会を良好な環境で迎えるべく、政策的なテコ入れ(インフラ投資の活発化等)が実施されたが、債務膨張などの経済のひずみを拡大させる恐れがあるため、今後は抑制され、構造改革が優先されそうだ。これが景気にとってはマイナスに作用するため、成長率は減速していく可能性が高い。問題はその減速ペースが緩やかか否かだ。中国政府としても緩やかに留めたいはずだが、舵取りを誤れば減速ペースが速まり、資金流出懸念を巻き込んで、市場のリスク回避要因になりかねない。
3) 欧州:政治の安定は維持できるか?
欧州の注目材料は政治の安定だ。ドイツでは、秋に行われた総選挙でメルケル首相率いる与党CDU・CSUが議席を減らし、連立交渉が難航している。連立交渉が失敗し、少数与党体制や再選挙になれば、再選挙でCDU・CSUが盛り返さない限り、欧州の主軸であるドイツの政治の安定は見込みづらい。また、春にも実施されると予想されるイタリアの総選挙も注目される。ユーロ圏に懐疑的な五つ星運動が躍進すれば、政治の混乱に繋がる恐れがある。

ユーロ圏以外では、英国のEU離脱(Brexit・離脱期限は2019年3月)交渉がいよいよ佳境を迎える。EUとの交渉が円滑に進み、秩序だった離脱に向かうのか?それとも、交渉が難航し、時間切れで無秩序な離脱に向かうのか?来年の交渉の行方次第となる。
4) 地政学リスク:北朝鮮と中東情勢はさらに緊迫化するか?
地政学リスクは、来年も引き続き市場の大きなテーマになりそうだ。北朝鮮の核・ミサイル技術は進展しており、米国本土を射程に収める時期は遠くないとの見方が広がっている。一方、今年9月の国連決議により、北朝鮮への制裁が大幅に強化され、同国経済へのダメージが予想される。米国・北朝鮮ともに焦りが生じやすく、事態が緊迫化しやすくなるだろう。

中東では、サウジアラビアでムハンマド皇太子の権力固めの動きが続いており、その強権的な手法が域内情勢の緊迫化に繋がっているとみられる。現に近年のサウジはイランとの断交、カタールとの断交、イエメン内戦への介入、レバノン内政への介入疑惑など、周辺国に対して強硬的なスタンスが目立つ。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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