2017年12月04日

米国財務省がノンバンクSIFIの指定プロセスに関する覚書を公表-ノンバンクSIFI指定プロセスの改善方法を勧告-

中村 亮一

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6|ファクトシート
財務省は、今回の大統領宛覚書に関して、以下のファクトシート5を公表している。

この中で、今回の勧告内容に関するポイントをまとめている。

2017年11月17日
金融安定監督評議会(FSOC)の指定プロセスが市場規律を促進し、適切な場合には米国の金融安定性に対するリスクに対処し、会社及び公衆に対して透明であることを確実にするための勧告

ノンバンク金融会社の勧告

米国の金融安定性へのリスクに対処するための活動ベース又は業界全体のアプローチを優先する
・FSOCは、業界全体又は活動ベースのアプローチを重視したプロセスを通じて、金融安定性へのリスクに対処する取組みを優先させるべきである。これには3つのステップが必要となる。

・FSOCは、活動及び商品からの金融安定性に関する潜在的なリスクをレビューすべきである。

・FSOCが潜在的な金融リスクを特定した場合、FSOCは、特定されたリスクに対処するために、関連する主要金融規制当局と協力する必要がある。

・FSOCは、1つ以上の会社が金融安定性にリスクをもたらす可能性がある場合、関連する主要監督当局との協議の後にのみ、個々の会社を指定することを検討すべきである。

指定分析の分析の厳密性を高める
・FSOCは、分析の一環として、FSOCが会社の重大な財務的苦境の可能性を評価するよう、ガイダンスを改訂すべきである。

・FSOCは、分析の一環として、FSOCがコストベネフィット分析を実行するよう、ガイダンスを改訂すべきであり、金融安定性に対する期待利益が指定のコストを上回る場合にのみ、会社を指定すべきである。

・FSOCは、より厳密かつ明確で、会社や公衆が理解できる「エクスポジャー伝達チャネル」及び「資産流動化チャネル」の下での枠組みを開発すべきである。

指定プロセスにおける関与と透明性の向上
・FSOCは、潜在的な指定のためにレビュー中のノンバンク金融会社とのコミュニケーションを強化し、プロセスを通じて、会社の主たる監督当局とより深く関与し、決定の根拠に関して公衆への透明性を高めるべきである。

FSOCのプロセスを簡素化する
・FSOCは、第1段階における現在の500億ドルの資産の臨界値を修正することを検討し、プロセスを簡素化するために第1段階と第2段階を結合すべきである。

指定されたノンバンク金融会社に明確な「オフランプ(出口車線)」を提供する
・FSOCは指定されたノンバンク金融会社に対して、その指定につながった特定のリスクをより明確にはっきりと述べるべきである。

・FSOCの年間再評価には、指定会社がFSOCの懸念事項に対処する可能性のある範囲についてフィードバックを受けるプロセスが含まれるべきである。

金融市場ユーティリティ(FMU)の勧告

適切な調整を保証するために、FMU指定のための高度に個別化された枠組みを維持する
・FSOCは、プロセスの分析の厳密さ、関与、透明性を向上させ、指定プロセスが個別化され、適切に調整されるようにするための重要な強化を追加すべきである。

・連邦準備制度の勘定へのアクセスや連邦準備制度の緊急機関への潜在的アクセスなど、FMUの運営、指定、破綻処理に関する重要な問題については、さらに検討されなければならない。

耐性力、再建、破綻処理
・関係監督機関は、指定された全てのFMUsの監督を引き続き調整し、これらのエンティティによって提供される重要なサービスの継続性を確保することに重点を置いた効果的な破綻処理戦略を開発するために、引き続き協力していくべきである。

指定分析の分析の厳密性を高める
・FSOCは、潜在的な指定のためにFMUsの評価にコストベネフィット分析を組み込むことを検討すべきである。

指定プロセスにおける関与と透明性の向上
・FSOCは、プロセス全体を通じてFMUsへの関与を強化し、決定の根拠に関して公衆への透明性を高めるべきである。

・FMUを指定するかどうかの考察を通知し、指定されたFMUsを規制及び監督するための戦略を通知するために、主要規制当局の専門知識が活用されるべきである。

7|覚書のエグゼクティブ・サマリー
 
覚書のエグゼクティブ・サマリーのうち、ノンバンク金融会社の指定に関する勧告のサマリーは、以下の通りである。

例えば、評議会の分析の厳密さを強化するため、プロセスにおける予備段階での2つの改革を勧告している。具体的には、評議会は現在ノンバンク金融会社を特定、評価及び伝達するための3段階のプロセスを確立しているが、これについて、財務省は以下の改革を提案している。

(1) 第1段階では、ノンバンク金融会社の大規模なグループに、金融セクター全体に広く適用されている6つの統一的な臨界値(連結資産500億ドル等)を適用して、ノンバンク金融会社を評価しているが、金融機関が金融の安定性を確保するためのリスクをより適切に調整するために、この臨界値を修正することを検討すべきである(なお、財務省は、銀行持株会社に対する500億ドルの臨界値の修正も勧告している)。

(2) FMUに対しては2段階のアプローチが適用されていることから、公衆の間で混乱を招いている。整合性を図る観点から、ノンバンク金融会社決定プロセスの第1段階と第2段階を結合して、2段階のアプローチとすべきである。

1.5ノンバンク金融会社の指定に関する勧告の要約

財務省のノンバンク金融会社指定のための評議会のプロセスの見直し中、ステークホルダーは多くの重大な批判を提起した。懸念事項の多くは、評議会の透明性と、特定の会社に関する意思決定に適用される分析プロセスに焦点を当てている。指定は、影響を受ける会社、彼らの業界、経済全般に深刻な影響を及ぼす。しかし、ノンバンク金融会社の失敗が金融安定性に及ぼす影響を正確に予測することは困難である。したがって、米国の金融安定性に対する潜在的なリスクを緩和するためのメカニズムとしての、ノンバンク金融会社指定ツールの妥当性が考慮されるべきである。システミックリスクと指定の評価に関連する課題は、評議会が分析を厳密かつ明確かつ会社や公衆に理解できるように最善の努力を行い、金融安定性に期待されるベネフィットが指定された会社に課されたコストを上回る場合にのみ実施する必要があることを強調する。

次に、このレポートの勧告の概要を示す。

ノンバンク金融会社によって保有される潜在的リスクに対する活動ベース又は業界全体のアプローチの優先順位付け
ノンバンク金融会社を指定する評議会の権限は、金融安定性に対する潜在的なリスクに対処するための鈍い手段である。財務長官は、評議会が、活動ベースのアプローチ又は業界全体のアプローチを重視するプロセスを通じて、金融安定性へのリスクに対処するための取組みを優先順位付けすることを勧告する。具体的には、財務省は、財務体質の潜在的なリスクを評価し、対処するための3段階のプロセスを評議会が実施することを勧告している。

ステップ1:活動と商品からの金融安定性に対する潜在的リスクを見直す。

ステップ2:金融安定性に対する潜在的なリスクが特定されている場合は、関係規制当局と協力してリスクに対処する。

ステップ3:会社が金融安定性のリスクを負う可能性がある場合は、関係規制当局との協議の後にのみ、指定を検討する。

決定分析の解析的厳密さの向上
財務省は、ノンバンク金融会社がこの会社特有の指定アプローチの下で提起する可能性のある、米国の金融安定性に対するリスクの評議会の分析について、以下のような具体的な勧告を行っている。

・評議会は、指定が米国の金融安定性を促進する程度を評価するために、会社の重大な財政難の可能性の評価を提供するための解釈指針を改訂すべきである。さらに、会社の失敗につながる可能性のある要素やそのリスクを軽減する要素を評価することで、その分析に関連する追加的な洞察を評議会に与えることになる。

・評議会は、金融安定性に対する期待されるベネフィットが、指定により課されるコストを上回る場合にのみ、ノンバンク金融会社を指定するよう、解釈指針を改訂すべきである。機関の規制措置は、悪影響を与える以上の利益をもたらす場合にのみ適切であり、もし評議会がその行為のコストとベネフィットを評価しようとしているのでなければ、この点については何の信頼もない。

・評議会の「エクスポジャー伝達チャネル」の分析は、ノンバンク金融会社の取引相手及びその他の市場参加者が、財務的苦境に陥った場合に経験する損失を減らす要素を考慮する必要がある。エクスポジャーが会社によって保有されるリスクを軽減する方法で緩和される程度は、会社の重大な財務的苦境の潜在的な影響を評価する際の関連する要素である。

・「資産流動化チャネル」に関する評議会の分析は、会社の資産売却が取引や資金調達市場を混乱させる可能性のある手段を定量的に評価し、具体的に説明する必要がある。歴史的事例は、短期資金調達と会社の取引相手や顧客の行動に依存するノンバンク金融会社に関連する金融安定性のリスクへの洞察を与えることができる。

務省はまた、評議会のプロセスを強化する2つの改革を確認した。

・評議会は、プロセスの第1段階で、ノンバンク金融会社に適用される連結資産の臨界値を修正することを検討すべきである。第1段階では、ノンバンク金融会社の大規模なグループに、金融セクター全体に広く適用されている6つの統一的な臨界値を適用して、ノンバンク金融会社を評価している。連結資産の現在の第1段階の臨界値は500億ドルである。評議会は、金融機関が金融の安定性を確保するためのリスクをより適切に調整するために、この臨界値を修正することを検討すべきである。

・評議会は、ノンバンク金融会社決定プロセスの第1段階と第2段階を結合すべきである。これは評議会のプロセスを明確にし、評議会がFMUの枠組みで使用するプロセスとより整合性を持たせることになる。

決定プロセスにおける関与と透明性の向上
財務省は、潜在的な指定と規制当局のレビュー中のノンバンク金融会社との協議の改革と公衆に対する評議会の透明性のための勧告を行っている。

レビュー中のノンバンク金融会社との関与。財務省は、評議会が潜在的な決定についてレビュー中のノンバンク金融会社とのコミュニケーションを強化することを勧告している。具体的には、評議会の分析チームのスタッフは、予備分析で特定された特有のリスクを会社に説明する必要がある。評議会が予備審査中に特定した可能性のあるリスクについて、会社が認識している場合、会社は評議会の指定に先立ってリスクを軽減するための措置を取ることができる。リスクを削減する会社の行動は、米国の金融安定性に対する潜在的な脅威に対処する評議会の目標を達成するのに役立つ。

主たる規制当局との関係。財務省は、評議会が、潜在的な決断のために会社を評価している間に、ノンバンク金融会社の主たる金融規制当局とのより大きな交流を行うことを勧告している。主たる規制当局は、評議会に会社とその事業、活動及びリスクに関する独自の洞察を提供することができる。さらに、主たる規制当局は、評議会の決定に先立って評議会が特定したリスクを緩和するための措置を取ることができる。

公共の透明性。財務省は、機密情報を会社又は規制当局から保護するために必要に応じて修正して、将来のノンバンク金融会社の決定及び決定の取消しについての評議会の根拠の説明を公表することを勧告する。このアプローチは、公衆に評議会の行動の理由の最大限可能な理解を提供することになる。

指定されたノンバンク金融会社に対して明確な「オフランプ」を提供
財務省は、指定されたノンバンク金融会社に対して、指定を取り消すための明確な「オフランプ」を提供することを評議会に勧告する。第一に、評議会は、評議会の決定において最も重要な要素に関する明確な指針を含む、指定につながった重要なリスクを指定ノンバンク金融会社に明確に説明すべきである。第二に、評議会は、年次再評価のために、より強固で透明なプロセスを採用すべきである。このようなプロセスは、会社が評議会及びその代表者とどのように関与することができるのか、会社が再評価中に提出すべき情報を明確にすべきである。また、このプロセスは、評議会の分析の内容や、会社のリスク・プロファイルの変更に関する会社との関わり合いを可能にするものでなければならない。最後に、評議会は、指定された会社が金融の安定性に及ぼす可能性のあるリスクに対処するための潜在的な変更について議論し、その変更が評議会の懸念に対処できるかどうかに関するフィードバックを受け取るプロセスを開発すべきである。このようなプロセスにより、指定会社はその決定につながった主要な要素に対処するようインセンティブを与え、評議会が米国の金融安定性に向けたリスクを削減するという目標を達成するのを助ける。

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中村 亮一

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