2017年11月28日

地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(2)-「脱中央集権化」から考える合意形成の重要性

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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1――はじめに

今年3月までに各都道府県が策定した「地域医療構想」を読み解く第1回では、「病床削減による医療費適正化」「切れ目のない提供体制構築」という2つの目的が混在している点を指摘するとともに、国は前者を重視しがちであるのに対し、都道府県は後者を優先している点を指摘した。

第2回以降は「脱中央集権化」(decentralization)、「医療軍備拡張競争」(Medical Arms Race)、プライマリ・ケアという3つのキーワードを使いつつ、各都道府県が地域医療構想の推進に向けて、必要な考え方や対応策を検討したい。

第2回については、前半で民間中心の医療提供体制などを考察しつつ、地域医療構想の推進には合意形成が重要である点を論じるほか、人口動向や病床数の地域差を見るこことで、地域の課題を地域で解決する発想が求められる点を指摘する。その上で、後半では欧州諸国を中心に論じられている「脱中央集権化」(decentralization)という言葉を一つの手掛かりとして、地域の特性に応じた提供体制の構築に向けた各都道府県の対応として、(1)ケアの統合、(2)ヘルスケア領域を超えた部門間の連携、(3)住民を含めた幅広い関係者の参加―が重要になる点を強調する。
 

2――地域医療構想における合意形成の重要性

2――地域医療構想における合意形成の重要性

1|民間中心の提供体制
地域医療構想に基づいて議論しなければならないテーマは広範囲である。具体的には、急性期病床や慢性期病床の削減、回復期病床の充実、在宅医療等1の整備、医療・介護連携などであり、関係者も多い。地域医療構想では、都道府県を中心とした関係者の合意形成を通じて、地域特性に応じた提供体制の構築が期待されている。
表1:開設者別で見た病院の数 では、なぜ合意形成に力点が置かれなければならないのだろうか。第1に、日本の医療提供体制の特徴が挙げられる。日本の医療制度では国、自治体、保険者が保険料と税金で費用の約8割を調達しているが、サービス提供は民間中心であり、これは世界的に珍しいとされている。表1で示した開設者別の病院数を見ると、医療法人が全体の68.16%と最も多く、2.84%を占める個人と合わせると7割近い病院が民間によって運営されている。この状況で都道府県が単に構想を策定したり、将来像を予想したりするだけでは何の実効性を持たない。

このため、第1回で述べた通り、地域医療構想の推進に際して知事の権限が強化されたとはいえ、民間病院に対しては勧告や要請にとどまる。さらに、都道府県が病床過剰地域で病床の新設に上限を設定している現在の規制についても、医療計画の根拠法である医療法に基づく直接的な規制ではなく、健康保険法に基づいて保険医療機関の対象として認めないという間接的な方法を採用している2

こうした状況で医療提供体制に対し、都道府県が果たせる影響力は小さく、地域医療構想の推進には民間医療機関との連携・協力が欠かせない。
 
 
1 「在宅医療等」には介護施設や高齢者住宅での医療も含まれているが、本レポートでは在宅医療と表記している。
2 財務省は財政制度等審議会(財務相の諮問機関)を通じて、民間病院に対しても同様の権限が必要と主張しており、2017年10月25日の会合では「都道府県知事の権限を実効的にしていくべき」とする資料を提出した。
2|介護・福祉関係者との連携
第2に、在宅医療を含めた在宅ケアの充実には医療関係者だけで完結しない点である。図1は地域包括支援センターの業務に関係する関係者を列挙しているが、これだけでも相当な関係者が絡んでいる。分かりやすい事例は認知症ケアかもしれない。認知症ケアの場合、専門的な医療による初期診断や悪化防止だけでなく、患者の生活実態に沿って生活の質(QOL)を維持・向上させることが必要であり、介護職やリハビリ職などの支援も重要である。日常生活では住民同士の気付きや支え合いも求められる3。このため、地域医療構想の推進には医療関係者だけでなく、住民を含めた幅広い関係者との連携・協力が必要となる。特に、地域医療構想の推進に際しては、連携・協力の場として関係者で構成される「地域医療構想調整会議」(以下、調整会議)が設置されており、ここでの合意形成プロセスが重要となる。
図1:地域包括支援センターで連携が求められる関係者
 
3 なお、政府は日常生活圏域で医療・介護・生活支援などを一体的に提供する「地域包括ケア」 を推進しており、「あるべき姿としての切れ目のない提供体制」と共通点が多いが、この言葉は在宅医療や医療・介護連携、介護保険制度改革、保険外サービスなど多様な文脈で使われており、その意味は曖昧である。本レポートでは用語の混乱を避けるため、原則として「地域包括ケア」という単語を使わない。
 

3――地域の課題を地域で解決する発想

3――地域の課題を地域で解決する発想

1|人口減少や高齢化に関する違い
では、都道府県は調整会議でどのような議論を進めるべきだろうか。国は各地域で医療機関が担う役割を構想策定時点で明記した青森県の事例4を引き合いに出しつつ、2017年10~12月に「機能ごとに具体的な医療機関名を挙げ、機能分化連携もしくは転換についての決定」、2018年1~3月に「具体的な医療機関名や進捗評価の指標、次年度の基金の活用等を含むとりまとめを行う」という考え方を示しており、この考え方は今年6月に閣議決定された「骨太方針2017」に継承されている5

ここで青森県の地域医療構想の内容を確認すると、青森市を含む青森地域では県立中央病院が高度医療や専門医療の提供、青森市民病院が救急医療の確保と回復期の充実を進めると定めた。

確かに病床再編や医師確保を図るため、都道府県主導で医療機関の役割分担を定めるのは一つの方策であるが、これを全ての都道府県に、しかも2年間で適用するのは必ずしも現実的とは思えない。

現実的とは思えない理由の第1に、各都道府県で高齢化や人口減少のスピードが異なるため、医療需要に地域差が発生する可能性がある点である。その一例として、図2は2010年を100とした場合の高齢者人口の推移見通しであり、かなりの差異が生じることが分かる。分かりやすい事例で言うと、2040年頃に一気に高齢化が進む首都圏と、人口減少局面に入る青森県では課題の現われ方と解決策は異なる。
図2:2040年までの都道府県別高齢者人口推移
 
4 厚生労働省幹部が青森県を最初に先進事例として取り上げたのは2016年6月の神田裕二厚生労働省医政局長の発言。同年7月6日『CB News』、同年7月1日『メディ・ウオッチ』。
5 厚生労働省は2017年11月20日の会合で、都道府県に対して毎年度、病床再編について「具体的対応方針」をとりまとめるよう求めた。その中では2025年時点の役割と医療機能ごとの病床数について合意を得た全医療機関について、(1)2025年を見据えた地域で担うべき役割、(2)2025年に持つべき医療機能ごとの病床数―を明示する必要があるとしている。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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