2017年11月24日

中国経済見通し~成長率は18年6.5%、19年6.2%と鈍化するものの心配は御無用!

三尾 幸吉郎

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4.輸出の動向

(図表-8)輸出の先行指標 輸出は堅調に推移している。17年1-10月期の輸出額(ドルベース)は前年比7.4%増と、16年の同7.7%減からプラスに転じた。景気拡大が続く米国、欧州EU、日本など先進国向けの輸出が好調だったほか、その恩恵を受けるASEAN向けも好調だった。また、輸出の先行指標となる新規輸出受注(中国国家統計局)や貿易輸出先行指数(中国税関総署)が底堅く推移していることから、当面は高い伸びを維持するだろう(図表-8)。

18年以降の輸出動向を予想すると、世界経済の持続的回復や「一帯一路」の沿線地域への影響力拡大がプラス要因となるものの、国内生産の製造コストが上昇した中で、製造拠点を後発新興国へ移転する動きは外資系企業ばかりでなく中国国内の企業でも盛んなため、引き続き輸出を抑制するだろう。従って、輸出の伸びは小幅に留まり、欧米経済の勢いが落ちる19年にはマイナス寄与に転じると予想している。
 

5.金融の動向

5.金融の動向

一方、金融面の動きを見ると、住宅バブルが深刻化する中で、中国政府(含む中国人民銀行)は金融を引き締め方向に調整し始めた。金融政策の今後の行方を探る上では、これまでの経緯を踏まえておく必要がある。まず、今回の景気循環の起点は、住宅価格が14年4月をピークに下落に転じてバブル崩壊懸念が高まり、景気が悪化したところにある(図表-9)。住宅価格が下落すると不動産開発投資も減速、それまで前年比2割前後の高い伸びを示していた不動産開発投資は10%台前半まで減速した。そこで、中国人民銀行は14年11月に約2年半ぶりとなる基準金利の引き下げを実施、景気テコ入れに動いた(図表-10)。不動産規制強化で行き場を失っていた投機マネーは、この基準金利引き下げを契機に住宅市場から株式市場へと流入、株価は空前の急騰を演じた。

15年に入っても不動産開発投資の減速には歯止めが掛からず、加えて過剰生産設備を抱えた製造業の投資も1桁台まで減速、景気下ぶれ懸念が高まった。そして、15年6月には株価が急落するとともに、中国人民銀行が基準金利の引き下げを追加実施したことで米中金利差が縮小、15年8月には人民元が切り下げられて“人民元ショック”に繋がっていった。16年に入ると年明け早々に再び株価が急落、この時期には不動産開発投資が上向きつつあったものの、過剰生産設備を抱えた製造業の投資が1桁台前半まで減速、依然として景気下ぶれ懸念が高かったため、中国人民銀行は金融緩和環境を維持した。これを追い風に住宅価格は上昇の勢いを増し16年7月には前回高値を超えた。そして、景気の持ち直し傾向が鮮明となった16年秋には深圳市や上海市など多くの地方政府が住宅購入規制を強化、中国人民銀行は商業銀行17行の幹部および融資担当者などを招集して住宅ローンの管理強化を要請、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)も不動産融資を巡るリスク管理を強化した。16年12月に開催された中央経済工作会議では「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」として不動産市場の平穏で健全な発展を促進する方針を打ち出した。

17年3月に開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では「穏健・中立」な金融政策を実施するとし、16年の「穏健」よりも引き締め方向に軸足を移した。そして、17年1月下旬以降、中国人民銀行はリバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどの短期金利を2回に渡り引き上げた。全人代閉幕後も「四限(購入制限、融資制限、価格制限、販売制限)」と呼ばれる住宅規制の導入・強化に動く地方政府が増えた。また、17年7月に開催された17年下期の経済運営方針を討議する中国共産党の中央政治局会議では、「安定を維持」としつつも「三去一降一補(過剰な生産能力・住宅在庫・債務の解消、企業コストの低減、脆弱部分の補強)」や「ゾンビ企業の処理」に取り組む方針を示すとともに、金融面では金融監督管理の強化や不動産市場の安定に取り組むことが強調された。そして17年10月に開催された共産党大会でも、この経緯に沿った報告がなされた。以上を踏まえると、中国政府(含む中国人民銀行)の金融政策は、景気重視からその副作用(住宅バブルやレバレッジ拡大など)抑制へ重点が移行したと考えられる。従って、近い将来想定される米利上げに際しては、中国も金融を引き締め方向に調整する可能性がある。
(図表-9)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅、70都市平均)/(図表-10)中国の金利の推移

6.中国経済の見通し

6.中国経済の見通し

(図表-11)経済予測表 1|経済見通し
17年の成長率は前年比6.8%増、18年は同6.5%増、19年は同6.2%増と緩やかな減速を予想する。しかし、経済成長は緩やかに減速するものの決して悲観はしていない。前述のとおり消費面でも投資面でも新たな牽引役が誕生しており、今回の減速は景気対策頼み(小型車減税やインフラ投資など)からの脱却を図ることが主因で、経済運営の自由度はむしろ高まると考えているからだ。また、17年の消費者物価は前年比1.6%上昇、18年は同2.7%上昇、19年は同2.3%上昇と予想している(図表-11)。
2|リスクの所在
中国経済の最大のリスクは“住宅バブル”にあると考えている。住宅バブルが崩壊すれば、金融システムが不安定化する恐れがあるからである。そもそも中国では、過剰設備・過剰債務問題を解消すべくゾンビ企業の淘汰を進めており、不良債権は増加傾向にある2。それに加えて、16年に急増した個人の住宅ローンまで返済が滞るようだと、銀行が抱える不良債権は急増する恐れがある。

中国の住宅価格は、巨大都市(北京や上海など)では急騰してバブル懸念が高まったものの、過剰在庫を抱えた地方都市では低迷していた。そこで、中国政府(含む中国人民銀行)は巨大都市では前述の「四限」で急騰に歯止めを掛ける一方、地方都市に配慮し全国一律で引き締め効果がでる利上げは見送ってきた。しかし、ここもと巨大都市の住宅価格上昇が地方都市に波及、地方都市の住宅価格は概ね底打ちした。従って、基準金利を引き上げる環境は整ったと考えられる。このまま「四限」と基準金利の引き上げで、住宅バブルのソフトランディングに成功するというのがメインシナリオである。但し、行き過ぎた金融引き締めでオーバーキルとなる可能性も否定しきれない。
(図表-12)新築住宅販売価格の推移 具体的には、住宅価格が微調整ライン(A)を上回っているうちはメインシナリオの範囲内(黄信号)、それを下回ればシナリオ修正が必要な「赤信号」と考えている。仮に「赤信号」が点灯したとしても、中国政府が適時適切なタイミングで政策運営を切り替えることができれば金融システム不安に陥るのを回避できる可能性はある。しかし、タイミングが遅れて、デッドライン(B)を下回るようだと、住宅バブル崩壊の恐れもある。ここ数年で建設された住宅在庫のほとんどがデッドストック(含み損を抱えた資産)となるからだ(図表-12)。中国政府にとっては極めて難しい舵取りとなるだけに、今後の政策運営を注視したい。
 
 
2 不良債権の現状に関しては「図表でみる中国経済(不良債権編)」基礎研レター2016-07-15を参照
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2017年11月24日「Weekly エコノミスト・レター」)

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