2017年11月21日

高齢世帯における家計の状況-就業状況・資産運用により異なる高齢世帯の家計収支

生活研究部 井上 智紀

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1――はじめに

1| 高齢化の進展状況
総務省統計局「国勢調査」によれば、2015年時点の高齢化率は26.3%と、今や国民の4人に1人が65歳以上の高齢者となっている。こうした人口の変化を受けて、世帯としても高齢化は進んでおり、世帯主65歳以上の高齢世帯は2000年時点の1,114万世帯から2015年には1,881万世帯へと、この15年間に768万世帯増加している(図表- 1)。この間、総世帯数は5年ごとに2~5%程度の増加に留まっているのに対し、同期間に高齢世帯では一貫して10%以上、高齢単身世帯では20%以上、それぞれ増加を続けている。総世帯に占める割合でみても、高齢世帯が占める割合は、2000年の23.8%から35.3%へと増加しており、今や3世帯に1世帯が世帯主65歳以上の高齢世帯となっている。世帯単位でみれば、わが国の高齢化は人口でみる以上に進んでいるといえるだろう。
図表- 1 世帯数・高齢世帯割合の推移
2| 消費における高齢者の存在感
このように、人口・世帯数でみても高齢者の存在感が高まるなか、個人消費においても高齢層における消費の動向への注目が集まっている。実際に、総務省統計局「家計調査」および同「国勢調査」から二人以上世帯における消費支出の世帯主年齢階層別の構成比について計算してみると、60代以上が占める割合は2005年時点の35%から2015年には43%と4割を超えるまでに上昇している(図表- 2)。
図表- 2 消費支出の世帯主年齢階層別構成比の推移
高齢者の消費では、高齢無職世帯に焦点をあてるケースが多く、消費の源泉となる収入としても公的年金のみが想定される場合が多い。しかし、実際には高齢層においても労働市場への参加が進んでいる。総務省統計局「労働力調査」より、高齢層における就業者比率の推移をみると、65~75歳未満の高齢者における就業者比率は2012年からの5年間に限ってみても上昇傾向にあり、65~69歳では2016年現在の男性で53.0%、女性で33.3%と、男性の半数、女性の3人に1人がそれぞれ何らかの仕事に従事している(図表- 3)。また、男性では70~74歳でも32.5%と3人に1人が何らかの仕事に就いている。
図表- 3 就業者比率の推移
このように男性では60代後半でも働き続ける方が多数派となっており、70代前半でも徐々に就業者比率が上昇していることを鑑みれば、高齢者の生活実態や消費行動を正しく捉えるためには、高齢無職世帯に加え、高齢勤労者世帯も含めてみていく必要があるといえよう。

本稿では、高齢世帯における近年の消費動向に焦点をあて、世帯員2人以上の勤労者世帯および無職世帯の1か月あたりの収入および消費支出(いずれも年平均)について、直近5年間の推移を概観していく。なお、以降の分析にあたっては、特に断りのない限り、総務省統計局「家計調査」を対象としたオーダーメイド集計を利用して入手したデータを使用する。
 

2――所得・可処分所得の状況

2――所得・可処分所得の状況

1| 所得の状況(勤め先収入・公的年金給付)
初めに、勤労者世帯の勤め先収入(物価調整済み、以下同じ)の状況についてみると、65~69歳では2012年の26.3万円から2016年には25.9万円と、若干の変動はあるもののほぼ横ばいとなっているのに対し、70歳以上では26.0万円から20.8万円と、5.2万円減少している(図表- 4左)。無職世帯において主要な収入源となる公的年金給付の状況についてみると、無職世帯では65~69歳(19.1万円→17.1万円)、70歳以上(20.5万円→18.3万円)とそれぞれ2万円程の減少1に留まっているのに対し、勤労者世帯では65~69歳(22.0万円→12.8万円)、70歳以上(27.9万円→19.4万円)と、いずれも大幅に減少している(図表- 4右)。
図表- 4 勤め先収入と公的年金給付の推移
 
1 標準的な年金受給世帯の年金額(夫婦の基礎年金+夫の厚生年金/夫が平均的収入(平均標準報酬月額(賞与を除く))で40年間就業し、妻がその期間全て専業主婦であった世帯が受け取り始める場合の額)についてみても、2016年における物価調整済みの年金額(月額換算)は221,726円と2012年(242,075円)に比べ2万円ほど減少している。〔出所:厚生労働省「平成29年版厚生労働白書」〕
図表- 5 可処分所得の推移 2| 可処分所得の状況
これらの所得から税・社会保険料を控除した可処分所得についてみると、勤労者世帯では65~69歳、70歳以上ともに概ね同水準となっており、無職世帯についても同様に65~69歳と70歳以上では大きな差異はみられない(図表- 5)。経年での変化についてみると、勤労者世帯のうち65~69歳では若干の増減はあるものの2012年から2016年にかけては1万円程度の差と、概ね横ばいとなっているのに対し、70歳以上では39.7万円から32.1万円と7.6万円減少している。一方、無職世帯では65~69歳、70歳以上ともに概ね横ばい、もしくは微減となっている。


 
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