2017年11月20日

女性労働力率M字カーブの底上げだけが問題の本質なのか。-女性活躍推進データ再考:「補助人材」としての女性活躍推進にならないために

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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3――おわりに・「一旦離職し、また働きたいニーズ」への対応

筆者は女性活躍推進が、男性の人手不足を補うために単に「伝統的な男性の働き方で女性が働くこと」といった「男性活躍の女性版」としての活躍であってはならないと考えている。このことは、当たり前のことのようで気がついていない方も多い視点である。
 
「あの男性より私の方がずっと勉強できるし体力もあるのに・・・」という女性向けの活躍が、真の女性活躍ではない。互いの性差を前提にして、互いが自らの能力を最大限に活性化できる労働市場作りが大切である。

質より量という潜在的な意識をもっているかにみえるM字カーブ解消策では、少なくとも、それは「女性のための」施策ではない。日本は、働く箱のあり方は変えずに数だけ足りないから補う、という発想を根本的に見直すべきではないだろうか。
 
いまの若い未婚女性は「出産を機にやめたくない」と思っている人が過半数であろうか。実はそうではない(図表7)。したくないと思っているライフコースを次世代に上の世代の都合で押し付けることは、女性活躍の目指す姿ではないだろう。
【図表7】18歳から34歳の未婚女性の理想のライフコース
若い世代の未婚女性において今もっとも理想として希望されている「仕事と家庭の場バランス」は、一旦会社を離れて再就職するコースである。子どもを持ちつつ働き続ける両立コースをわずかではあるが上回り、理想のコースの1位となっている。
 
そうであるならば、彼女たちが出産を機に一旦離職しても、その能力を十分に開花させる中途労働市場作りがまずは必要なのではないだろうか。
 
そうなると、中途市場・再雇用制度を確立・拡大する、ということになる。つまり、中途市場が不活性な日本において(図表3参照)、いくら保育支援を頑張っても、この未婚女性の理想のライフコース1位の「再就職コース」を志向する女性たちにはあまり響かない、ということになる。

今の量的解消策だけでは「両立コース」を「再就職コース」を希望する女性たちに強いることになりかねない。

そのような転職市場なき「両立コース」のみの応援ならば、それは今の若い女性たちの真のニーズに応えるものではなく、一律な生き方を提案しがちな日本の社会構造は何もかわらないだろう。

誰がための女性活躍推進か。

男女雇用機会均等法制定から約40年、時間の流れは当然、意識変化を伴って常に変化していくものである。

次世代を担う若い女性たちの「今のニーズ」を逃すことのない、時代にあった女性活躍推進策が提案されることを願ってやまない。
 
国も企業も今、舵取りをしなければならない。

長期にわたる少子化によって生み出された逆三角形の人口ピラミッドが示すように、若い世代がどんどん「人口マイノリティ化」している。多数決の中では、若者の声が軽視されがちな人口構造(少子化トラップ)が今ここにある。次世代を担う若者たちの声にこれまで以上に配慮することが、意欲あふれる日本の未来を創るために、最も必要なことなのではないだろうか。
【参考文献一覧】
 
労働政策研究・研修機構,「データブック国際比較2017」
 
厚生労働省.「平成28年 国民生活基礎調査」
 
World Economic Forum, ’The Global Gender Gap Report 2016’
 
官邸ホームページ.「子育て安心プラン」2017年6月2日 
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/taikijido/pdf/plan1.pdf
 
外務省ホームページ.「外交政策/経済/後発開発途上国」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ohrlls/ldc_teigi.html
 
国立社会保障・人口問題研究所(2015).「第15回出生動向基本調査」
 
天野 馨南子.“長期少子化社会に潜む負のループ「赤ちゃんを知らない」子どもたち-未婚化・少子化社会データ検証:「イマジネーション力欠如」への挑戦-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2017年01月23日号
 
天野 馨南子, ”「生殖適齢期をふまえた」企業への転換が急務”, 連合総研DIO 2017年9月号
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2017年11月20日「基礎研レポート」)

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