2017年11月20日

女性労働力率M字カーブの底上げだけが問題の本質なのか。-女性活躍推進データ再考:「補助人材」としての女性活躍推進にならないために

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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はじめに-年齢階層別女性労働力率M字カーブの国際比較

国際的に見て女性活躍に大きな問題を抱える日本。

日本の女性活躍推進が国際的に見て非常に遅れているとして必ず提出されるデータが「年齢階層別女性労働力率のM字カーブ」の国際比較である(図表1)。
【図表1】女性労働力率M字カーブの国際比較
図表において、日本の年齢階層別の女性労働力率をつないだ線がM字のようになっているのが見て取れる。イギリス、フランス、スウェーデンなど出生率も高く、女性労働力率も高いことで知られている国では、労働力率カーブはM字にはなっておらず、20代後半から50代前半まで女性の労働力率が同程度の水準で推移している。

一方、日本は、20代後半から30代前半にかけて10ポイント近く労働力率が急落する。そして40代後半までは20代後半における水準近くまで回復してこない。

近年では、このM字カーブの底が高くなってきた(逆U字に近くなってきた)、さらなるM字カーブの解消を目指す、といった女性活躍推進策をよく見かける。

日本の労働力率M字カーブを出生率も女性労働力率も高いヨーロッパ先進諸国と同様としたい、というところであろう。
 
ここで余談であるが、アメリカは日本よりも各年齢層で女性労働力率が低い。

これはあまり日本における一般的な感覚には沿わないと思うが、アメリカは国の育児休業制度もなく、ある意味徹底した実力主義をとっている。ただし、日本とは異なり、新卒・終身雇用主義ではなく労働者の中途市場が大きいため、出産・子育てで一旦市場をでても再チャレンジの道は断たれない。

日本の身近な事例ではあるが、有名国立大学をでて海外留学もした女性が、夫の海外赴任と妊娠にむけた取組を両立させるために銀行を辞めたら、出産後の再就職市場では「元の給与の半額以下の年収400万でのオファーが来た」などという非実力主義社会ではない。
 
話は元にもどるが、日本における近年のM字カーブを解消する政策として、2017年6月に発表された国の「子育て安心プラン」1をみても、6年間の保育園対策によって保育サポートを強化してM字カーブ解消を目指す、とある。

ただ、図表からもわかるようにM字カーブのV字のくびれは15年間も続いているので、この6年間の保育園対策だけでM字カーブが解消しえないことは、子育て経験のある身としては直感的にも感じるのであるが、その議論はまたの機会としたい。
 
1 2017年5月31日に国が公表した待機児童問題を柱とする子育て支援計画。
 

1――M字カーブが解消されることが女性活躍なのか

1――M字カーブが解消されることが女性活躍なのか

1|M字カーブのV部分の発生時期
最初に結論から述べると、M字カーブ解消だけ狙うなら、それは量的政策にとどまるだけになりかねないという危惧が生じる。1985年制定の男女雇用機会均等法2から30年以上、1992年施行の育児休業法施行からも20年以上も経過しているが、いまだ解消されないM字カーブの本質は量的問題なのであろうか。
 
M字カーブが生じる理由として「出産を機とした労働市場からの退出」がよく挙げられる。
なぜそういえるかは、まず、女性の第1子から第3子の平均出産年齢データが示している。図表の通り、第1子から第3子までの平均出産年齢が30代前半にすべておさまっている(図表2)。
【図表2】女性の平均出産年齢の推移(1950年~2015年)
そして、次に母親の就業状況を示すデータが挙げられる(図表3)。
【図表3】子どもの年齢ゾーン別 母親の就業状況
子どもが3歳未満では有業の母親が5割を切っていることがデータからは見て取れる。子どもが出来ることによって30代前半で労働市場からの退出が起こっているというのは確かなようである。そして、子どもが6歳を超えると母親の有業率が上がっているので、保育園政策が重視され、国の子育て安心プランでは、保育園増強化でM字カーブ解消がうたわれているのだろう。
 
しかし、女性活躍問題の本質が、6歳までの「小学校就学前の保育提供の問題」に本当にあるのだろうか。
 
2 正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」で1985年に制定され、翌86年4月より施行。
2|データで見る、日本の母親の就業トリック
前項では、子どもが6歳を超えると母親の有業率が上がることが示された。このデータ単体では、まるで「小学校就学前の時点での保育問題によって」女性活躍が妨げられているかに見える。

しかし、次の図表を参照されたい(図表4)。
【図表4】子どもの年齢ゾーン別 母親の就業上の地位
図表3と4からは、
 
i 子どもが3歳未満までは無業だった母親が6歳以降、非正規として有業となる
 ii 子どもが3歳未満までは正規で有業だった母親が6歳以降、非正規へ転換する
 
という母親の子どもの就学を境とした一定の行動パターンの可能性をうかがい知ることが出来る。
 
3歳未満の子どもを持つ母親ではその5割が正規従業員であるのに対し、小学校就学以降の子をもつ母親では3割未満に減少し、6割以上が非正規(主にパートである)従業員となっている。図表2から、現状では、子どもが小学校就学以降、約20ポイント有業母割合が増加するものの、それは非正規雇用が主体であることを図表4によって知ることが出来る。
 
一旦子育てのために仕事をやめた場合は、女性は主に非正規として労働市場にもどる道筋しか主に開かれていないのである。もしくは、子どもが就学するあたりで非正規に転換せざるを得ない状況の発生可能性も指摘できる。

一見、母親の就業上の地位変更トリックによって、保育園さえ充実すれば「M字カーブは解消され、女性活躍はすすむ」は正当な議論に見える。しかし、一旦労働市場から子育てのために退出するという人生選択をやめさせて、年齢を問わず頭数をそろえることが目標であるだけの支援策ならば、それは真の女性活躍推進政策ではない。ダイバーシティを無視した、量的労働人口確保策に過ぎなくなってしまう。
 
保育園等を充実して労働市場から女性が出産を機に退出することがなくなれば、本当に日本は女性活躍推進国となるのだろうか。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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