2017年11月09日

オフィス市場は好調継続。リート市場の低迷でJREITによる物件取得が減少。~不動産クォータリー・レビュー2017年第3四半期~

竹内 一雅

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1.経済動向

世界経済の回復に加え、企業業績の持ち直しに伴う堅調な設備投資や消費の回復により、日本経済は着実な回復が続いている。9月の景気動向指数によると9月までの景気回復期間は58ヶ月に達し、高度成長期の「いざなぎ景気」の57ヶ月を抜いて戦後2番目の長さとなったとみられ、今後も当面は安定した成長が続くと見込まれている(図表1~3)。企業業績の回復を反映し、11月7日の日経平均株価の終値は2万2,937円に達し、1992年1月以来、約25年10ヶ月ぶりの高値を記録した。

ニッセイ基礎研究所の中期経済見通しでは、2027年度までの実質GDP成長率は平均1.0%で、過去10年平均の0.5%を上回ると予測している(図表4)。人口減少は当初想定されていたよりもペースが緩やかになっていることもあり、今後10年程度は人口減少による経済成長への影響を過度に悲観する必要はないと思われる。
図表-1 法人企業業績(前年比変化率)/図表-2 消費総合指数
図表-3 実質GDP成長率見通し(四半期)/図表-4 実質GDP成長率中期見通し(年度)

2.人手不足と建設単価

2.人手不足と建設単価

雇用需給は逼迫している。日本銀行の短観(全国企業短期経済観測調査)によると、企業の人手不足感は今年に入り急速に進み、1992年以来、25年ぶりの水準となっている(図表5)。完全失業率は2.8%と底ばいが続き、有効求人倍率は1.52倍に達した(図表6)。

逼迫した労働需給を背景に、緩和傾向にあった建設技能労働者の過不足も、再び不足率が上昇しはじめている(図表7)。賃金もアルバイト・パートを中心に上昇基調にある。毎月勤労統計調査によると、2016年12月以降、パートの時間当たり賃金は前年比で2.0%以上の上昇が続いている。こうした人手不足と人件費の上昇により、東京の建設工事原価も再び上昇している。昨年10月以降は、倉庫の建築単価の上昇率が相対的に高まっている(図表8)。
図表-5 雇用と生産設備の過不足DI/図表-6 完全失業率と有効求人倍率
図表-7 建設技能労働者過不足率/図表-8 建設工事原価指数(東京、2005年=100)

3.地価動向

3.地価動向

9月20日に都道府県地価調査の結果が公表された。全国の商業地価は10年ぶりに上昇(同+0.5%)し、住宅地価も前年比▲0.6%減と下落率は縮小した。商業地価の上昇は大都市から全国へと徐々に波及している(図表9)。商業地価の上昇率トップは京都市伏見稲荷大社前(前年比+29.6%)で、外国人観光客の増加などから京都市は商業地価上昇率上位10位のうちの5地点を占めた。地域の地価動向は人口と地域経済の影響を強く受けている。人口増加地域ほど地価上昇率が高い傾向があるが、不動産投資の活発化などから人口減少地域の中にも商業地価が上昇する府県がみられる(図表10)。

野村アーバンネットによると、東京圏、大阪圏の商業地価は、銀座で大幅な上昇が続いているが、その他の地区では今年に入り地価は横ばいかわずかな上昇にとどまっている(図表11)。
図表-9 全国の地価動向(都道府県地価調査)/図表-10 商業地価上昇率と人口増加率
図表-11 首都圏および大阪圏の地価動向

4.住宅着工と住宅販売市場

4.住宅着工と住宅販売市場

住宅着工戸数は年率換算で95万戸を上回る好調が続いている。現在の好調を支えているのは堅調な貸家着工だ。7月をピークに総着工戸数の減少が見られるが、これは持家と分譲住宅の減少によるものだ1(図表12)。

着工戸数が好調に推移する一方、首都圏の分譲マンション発売戸数は過去数年の最低水準で推移している(図表-13)。首都圏の分譲マンション価格は高止まりしており、契約率も好不調の目安である70%を下回る月が多い(図表14)。マンションの価格帯別に契約率・契約戸数を一年前と比較すると、高額物件で契約戸数、契約率ともに大きく改善し、6千万円以上の契約率は70%を上回った2(図表15)。一方、6千万円以下では契約戸数の減少が顕著となっているが、低価格帯では建築コストの上昇により採算性の問題などから発売戸数が減少したことも影響している3
図表-12 新設住宅着工戸数(全国)(季節調整済み年率換算値)/図表-13 首都圏分譲マンション新規発売戸数
図表-14 首都圏分譲マンション価格と初月契約率/図表-15 首都圏マンション価格別契約戸数・契約率(2016年・2017年7-9月)
 
1 金融庁によるアパートローンへの監視が強化されているといわれており、銀行によるアパートローン残高は8月末に前月比でマイナスとなった(図表41、42)。
2 2016年7-9月は、相続税の節税対策(タワーマンション節税等)に対する取り締まり強化が報道されており、高率で推移していた高額マンションの契約率が大幅に低下した時期だった。なお、この時期には円高が進行し、日経平均株価も2015年の2万円台から下落し1万6千円程度で停滞していた。
3 2017年7-9月に6千万円未満の分譲マンションの契約戸数は一年前と比べ▲648戸減少したが、発売戸数はそれを下回る▲799戸の減少だった。
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竹内 一雅

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