2017年10月30日

J-REIT市場の事業環境と今後の収益見通し~今後5年間の分配金レンジは▲6%~+13%の見通し~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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財務は借入利率の低下によって分配金にプラス寄与する見通し
昨年1月末に日銀がマイナス金利を導入し10年国債利回りは一時マイナス0.3%まで低下した。その後は新たな政策目標(イールドカーブコントロール)のもと10年国債利回りはプラス圏に浮上したが依然として低位で推移しており、J-REIT各社は好条件でデット資金を調達できている(図表―11)。2017年上期にJ-REITが発行した投資法人債の平均利率は0.44%(期間8.9年)で昨年の0.51%からさらに低下した。現在のJ-REIT全体の負債利子率(融資関連費用を含む)は0.93%のため、引き続き利払い費用の減少によって分配金の増加が期待できそうだ。
[図表-11] :負債利子率、10年国債利回り、投資法人債利率の推移
ニッセイ基礎研究所の中期経済見通し3によると、「現行の金融緩和が長期にわたって継続し、10年国債利回りは0%を若干上回る水準で推移し、2022年度に出口戦略を迎えたのち上昇する(メインシナリオ)」と予測している(図表―12)。
[図表-12] 10年国債利回りの見通し(2017年~2022年の抜粋)
この金利見通し(メイン、楽観、悲観)を利用して、一定の前提条件(稿末に記載)のもと金利変動に伴う分配金の増減率(今後5年間)を計算した。結果は、メインシナリオで+1.8%(年率0.4%)、楽観で▲4.0%(年率▲0.8%)、悲観で+7.8%(年率1.6%)となった。金利が低位で推移するシナリオ(メイン、悲観)では借入コストの低下によって分配金が増加する一方、金利が早期に上昇するシナリオ(楽観)では分配金にマイナスの影響が出る。
今後5年間の分配金の成長レンジは▲6%~+13%(年率▲1%~+3%)
最後に、これまでに想定した各種シナリオ(オフィス賃料予測、金利見通し、外部成長シナリオ)を組み合わせることで今後5年間の分配金レンジを試算した。オフィス賃料(標準)と金利(メイン)の組み合わせの場合、分配金成長率は+4%(年率+1%)となり成長率は鈍化するものの引き続き増益基調を維持する結果となった。また、最も高い成長率は13%(年率3%)、最も低い成長率は▲6%(年率▲1%)となった。オフィス賃料の下振れ(悲観)と金利上昇(楽観)の組み合わせの場合、1口当たり分配金は2019年まで概ね横ばいで推移したのち減少に転じる見通しである。
[図表-13] :今後5年間の分配金レンジ(2017年=100)

4――おわりに

4――おわりに

本稿では、今後の事業環境の変化に伴う分配金の見通しを試算した。最も悪いシナリオでも分配金の減少率は年率1%程度と限定的で、J-REITの収益安定性を確認する結果となった。

最後に、J-REITの公租公課の負担増について触れたい。2018年は3年に1度の固定資産税の評価替えの年度にあたり最近の地価上昇により固定資産税の増加が予想される。例えば、地価公示によると東京23区の商業地は毎年約5%ずつ上昇している。負担増加に伴う分配金への影響4は保有不動産の土地割合や地価上昇率によって各社異なるが、仮にJ-REIT全体で公租公課が5%増加した場合、利益は1%減少することになる。この程度であれば問題はないが、今後さらに増加していくとなると収益のマイナス要因として無視できないと思われる。大胆な金融緩和は資産デフレからの脱却をはじめJ-REIT市場に大きな恩恵をもたらした。一方で、緩和の長期化によって投資マネーが不動産にも殺到し利回りが大きく低下したことで、外部成長機会の喪失や固定資産税の増加などJ-REIT運用において負の側面も浮かびつつある。
主な前提条件
 
4 日本プライムリアルティ投資法人によると、公租公課は1期当たり89百万円増加し1口当たり分配金は96円(約▲1.3%)減少する(2017年6月期決算説明会資料)
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2017年10月30日「基礎研レポート」)

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