2017年10月30日

J-REIT市場の事業環境と今後の収益見通し~今後5年間の分配金レンジは▲6%~+13%の見通し~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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3――各種シナリオのもと、事業環境の変化に伴う収益インパクトを試算する

オフィスビルの内部成長は2年間でプラス4.6
三鬼商事によると、都心5区の平均募集賃料(9月末)は2013年12月を底に45ケ月連続でプラスとなりこの間の上昇率は17%となった(図表―6)。オフィス市況の改善は東京から地方へ波及し全国の都市で空室率が低下し賃料も反転している。こうした市況回復を追い風にJ-REIT保有ビルも内部成長を実現している。継続比較可能な物件を対象にオフィスビルのNOIを集計しその推移を確認すると、2015年下期から4期連続で前期比プラスとなり直近2年間で4.6%増加した(図表―6)。一方、各社の開示資料やニッセイ基礎研究所の推計モデルなどをベースに保有ビルの賃料ギャップ(継続賃料と市場賃料のかい離率)を算出すると、個別ビル毎に差はあるもののこれまでの賃料更改などを経て市場全体でほぼ0%(継続賃料≒市場賃料)と推計される。したがって今後のオフィスビルの内部成長は市場賃料の動向次第と言えそうだ。
[図表-6] :オフィスビルの内部成長と都心5区オフィス賃料
オフィスビルのNOIは今後5年間で▲3%~▲11%(年率▲0.7%~▲2.2%)減少する可能性
ニッセイ基礎研究所は今年2月に国内6都市(東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、仙台)のオフィス賃料予測(標準、楽観、悲観)を公表した1。これによると、今後5年間(2017年~2022年)の賃料変動率は、標準シナリオで東京が▲7%、大阪が+6%、名古屋が▲1%、福岡が▲6%、札幌が▲15%、仙台が+3%となっている(図表―7)。オフィスビルの新規供給計画や需要見通し、これまでの賃料上昇率の違いなどから各都市でバラツキが見られるが、このうち東京都心Aクラスビル賃料は2018年から2020年まで下落基調が続くとみている。
[図表-7] 各都市のオフィス賃料伸び率(今後5年間の累計)
この予測を利用して、一定の前提条件(稿末に記載)のもと今後5年間のオフィスビルの内部成長率を計算した。結果は、標準シナリオで▲6.0%(年率▲1.2%)、楽観で▲3.7%(年率▲0.7%)、悲観で▲10.8%(年率▲2.2%)となった(図表―8)。収益ベースで68%を占める東京の賃料下落(ボトムまでの下落率:標準▲14%、楽観▲11%、悲観▲22%)の影響が大きく、相対的に賃料が上振れする楽観シナリオでも内部成長率はマイナスと計算された。
[図表-8] :JREIT保有ビルのNOI見通し(2017年=100)
取得利回りの低下が続くものの、外部成長は分配金にプラス寄与する見通し
J-REITによる物件取得(外部成長)は、2013年に2.3兆円と過去最高を記録しその後も高い水準(1.6兆円~1.8兆円)を維持している(図表―9)。今年上期(1-6月)の取得額は0.8兆円(前年同期比▲13%)で昨年上期をやや下回ったが、概ね2014年と同じペースで物件取得を実現している。一方で課題は取得利回りの低下だ。2009年以降、既存ポートを上回る利回りで不動産を取得しポートフォリオ全体の利回り低下を支えてきたが、不動産価格の上昇により足もとではそうした高い利回りでの取得が難しくなっている。
[図表-9] :物件取得額と取得利回り
現在の市場環境を踏まえて、今後の外部成長について以下のシナリオを想定し1口当たり分配金の成長率を計算した(毎年1.5兆円取得、利回り4.8%、借入比率50%、公募増資PBR1.2倍2、借入金利0.7%)。結果は、分配金は今後5年間で7.2%(年率1.4%)増加する見通しである(図表―10)。既存ポートを下回る利回りで物件を取得したとしても資金調達コスト(エクイティ資金及び借入金)が十分に低いことから分配金にプラス寄与する。しかし、資金調達コストは資本市場の影響を強く受けることから今後はJ-REIT市場の下落や金利上昇リスクに十分留意する必要がある。
[図表-10] 外部成長による分配金への寄与度
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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