2017年10月24日

保険料キャッシュレスのあゆみ-預金口座振替から保険料払込前の責任開始へ

小林 雅史

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4保険料入金前の責任開始の導入(2006年8月)
デビットカードやクレジットカードによる初回保険料入金については、処理日から保険契約上の責任が開始される(約款上、デビット機能が付与されたキャッシュカードについては、生保会社の端末機に口座引落確認を表す電文が表示された時、クレジットカードについては生保会社が有効性などを確認した時から責任を開始するなどと規定されている)。

一方、こうしたケース以外では、初回保険料の払込みが責任開始の要件とされ、たとえば初回保険料口座振替の責任開始は翌月以降の口座振替日であり、申込みと責任開始までにはブランクがあった。

2006年8月、ソニー生命は責任開始期に関する特約を新設し、初回保険料の払込みを保険契約上の責任開始の要件とせず、保険契約の申込み、被保険者による告知のいずれか遅い時から保険契約上の責任を負うこととした。

初回保険料の払込みを保障開始の要件とする、保険料前払いの原則という考え方に対し、保険料の払込み前に保険事故が発生したケースでも、支払うべき保険給付から初回保険料を差し引く9ことで、初回保険料の払込み前から保障を提供するものであり、以降、追随する会社が相次いだ。
 
9 「初回保険料受領前に保障開始」、『インシュアランス』第4199号、2006年9月。
 

3――現在の生保各社の約款規定

3――現在の生保各社の約款規定

現在、生命保険を販売している40社のうち、銀行窓販などで一時払商品のみを販売している4社(平準払商品を販売していない会社)および平準払商品を販売しているものの、ホームページで約款を開示しておらず、詳細確認ができない5社を除いた31社の調査結果はつぎのとおりである。

初回保険料について、責任開始(期)に関する特約などの名称で、保険料払込みを責任開始の要件とせず、保険契約の申込み、告知のいずれか遅い時から保障責任を開始する会社は17社である。

うち4社は、普通保険約款において端的に「申込みと告知のいずれか遅い時から保障責任を開始する」と規定し、初回保険料口座振替などに限らず、団体扱なども含む全保険料払込経路で、包括的に当取扱いを実現していることをわかりやすく表現しているものと考えられる10

また13社は、デビットカードやクレジットカードなどによる初回保険料キャッシュレスを実施している(1社は特段の取組みを行なっていない模様である)。

なお、約款上、集金扱を存続している会社は6社であった。
 
10 高橋優「日本生命の商品制度の抜本見直しについて」、『生命保険経営』第81巻第2号、2013年3月。
 

4――おわりに(私見)

4――おわりに(私見)

これまでの経緯を振り返ってみると、筆者として感じるのはつぎの2点である。

第一は、保険料キャッシュレスの意義である。

保険料キャッシュレスは、従来から指摘されてきた、顧客の利便性向上や生保会社の事務合理化、保険募集の簡素化のほか、保険料の現金収受に伴う不祥事件の軽減にも寄与している。

第二は、生保各社の保険料払込方法(経路)に関する約款規定や取組み方針が区々である点に関する問題意識である。

集金扱については廃止した会社が大半だが、保険料完全キャッシュレスを実現していない会社がいまだ複数ある模様である。

保険料キャッシュレスに向けた取組みは時代の趨勢であり、顧客の利便性向上や不祥事件軽減のため、最優先で取り組む必要があるのではないか。

かつて「生保業界においても急速にキャッシュレス化の動きが進み、1社では成しえないが、業界全体として大きなムーブメントを起こせるよう願っている」11という願望が示されたが、筆者もまったく同感であり、生保業界全体としての、保険料をはじめとしたさまざまな現金収受についての完全キャッシュレス実現を強く期待したい。
 
11 金子功一「初回保険料のキャッシュレス化」、『生命保険経営』第76巻第6号、2008年11月。
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小林 雅史

研究・専門分野

(2017年10月24日「保険・年金フォーカス」)

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