2017年10月19日

先進医療などの対象となる医療技術の変遷-30年間における新技術の定着と保険適用の拡大

小林 雅史

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4混合診療に関する最高裁第三小法廷判決(2011年10月)
このような混合診療の合理性については、2011年10月25日最高裁第三小法廷判決がある。

同判決は、腎臓がんの治療について、保険診療となるインターフェロン療法と、保険外診療となるインターロイキン2を用いた活性化自己リンパ球移入療法(いったん高度先進医療とされたが、有効性が明らかでないとして除外)を併用する診療を受けていた患者が、保険診療となるインターフェロン療法部分について療養の給付を受けることができる地位確認を求めた事案について、

・健康保険により提供する医療の内容については,提供する医療の質(安全性及び有効性等)の確保や財源面からの制約等の観点から,その範囲を合理的に制限することはやむを得ないものと解され,保険給付の可否について,自由診療を含まない保険診療の療法のみを用いる診療については療養の給付による保険給付を行うが,単独であれば保険診療となる療法に先進医療に係る自由診療の療法を加えて併用する混合診療については,法の定める特別の要件を満たす場合に限り療養の給付に代えて保険外併用療養費の支給による保険給付を行い,その要件を満たさない場合には保険給付を一切行わないものとしたことには一定の合理性が認められる

として、こうした取扱を是認した10
 
10 裁判所ホームページ。なお、2007年11月7日第一審東京地裁判決においては、患者である原告の訴えが認容されたが、2009年9月29日の第二審東京高裁判決においては原告が逆転敗訴となっている。また、上掲の最高裁判決では、「評価療養の要件に該当しない先進医療に係る混合診療においては保険診療相当部分についても保険給付を行うことはできない旨の解釈(混合診療保険給付外の原則)が,法86条の規定の文理のみから直ちに導かれるものとはいい難い」とされており、田原睦夫裁判官の補足意見でも「基本的な点において異なった解釈の余地のない明確な条項が定められることが望ましい」とされている。
5患者申出療養制度の創設(2016年4月)
2016年4月、患者からの申出を前提とする新たな保険外併用療養(混合診療)の仕組みとして、先進的な医療について患者の選択肢を拡大するために、患者申出療養制度が創設された。

とくにその眼目は、患者自身の希望による国内未承認薬の使用にあるとされ、厚生労働省も、

「未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したいという困難な病気と闘う患者の思いに応  えるため、患者からの申出を起点とする新たな仕組みとして創設されました。 将来的に保険適用につなげるためのデータ、科学的根拠を集積することを目的としています」

と説明している11。 

患者申出療養を審議する第3回患者申出療養評価会議(2016年9月21日)においては、第1号となる患者申出療養として、腹膜播種陽性(がんが腹膜に転移している状態)または腹腔細胞診陽性(腹膜への転移が認められない場合でも、がん手術中に腹腔内に生理食塩水を注入し、採取した洗浄液にがん細胞が認められる状態)と診断された胃がん(=予後の悪い、末期の胃がん)に対する、パクリタキセルという抗がん剤(赤い実をつけるイチイ科の植物から抽出された成分で作成)の腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1(経口の抗がん剤)の内服併用療法の利用が承認された。

この治療方法は、2009年に先進医療として承認されているが、適格基準外とされた患者から申出があり、承認されたものである。患者が自己負担する費用は、44万6千円と見込まれている(初期費用6万2千円+投与1回あたり1万6千円×平均的な実施回数24回)12

さらに、第4回患者申出療養評価会議(2017年2月6日)においては、第2号として、重症心不全患者に対する、耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法が承認された。

患者が自己負担する費用は、419万6千円と見込まれている13

第5回患者申出療養評価会議(2017年4月13日)においては、第3号として、難病である難治性天疱瘡患者に対する、リツキシマブ投与(海外では追加治療の第1選択薬として使用)、第4号として、19 歳以下の難治性の髄芽腫(神経系に発生する悪性腫瘍)患者に対する、抗がん剤チオテパを用いた自家末梢血幹細胞移植療法が承認された(自己負担する費用はそれぞれ4万円、197万6千円)14

患者申出療養創設の目的は、

「未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したいという困難な病気と闘う患者の思いに応えるため」15

とされており、こうした目的に沿った承認が行なわれている。
 
11 「患者申出療養の概要について」、厚生労働省ホームページ。
12 「患者申出療養の新規届出技術に関する事前評価結果等について」、『第3回患者申出療養評価会議資料』(2016年9月21日)、厚生労働省ホームページ。
13 「患者申出療養の新規届出技術に関する事前評価結果等について」、『第4回患者申出療養評価会議資料』(2017年2月6日)、厚生労働省ホームページ。
14 「患者申出療養の新規届出技術に関する事前評価結果等について」、『第5回患者申出療養評価会議資料』(2017年4月13日)、厚生労働省ホームページ。
15 「患者申出療養の概要について」、厚生労働省ホームページ。
 

3――先進医療の技術数・患者数・金額などの推移

3――先進医療の技術数・患者数・金額などの推移

先進医療の技術数・患者数などの推移を(表2)で見ると、技術数は2010年の123を最高に、保険適用および承認取消による減少で近年100程度となっている。

一方、先進医療を受けた患者数は1998年の約2千人から2015年の約2万5千人に大きく増加しており、先進医療は身近なものとなっている。

保険診療分と自己負担分の比率を見ると、従来保険診療分の方が多かったが、近年は自己負担分の方が大きくなっている。

また、患者1人当たりの自己負担額は増加傾向にあったが、近年は約70万円程度に収まっている。
(表2)先進医療の技術数・患者数・金額などの推移
2015年(2015年7月1日~2016年6月30日)に実施された先進医療のうち、実施件数が千件以上となっているのは「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」(白内障の治療に当たり、遠近双方の視力を回復。11,478件)、「前眼部三次元画像解析」(緑内障などの検査に当たり、角膜などの断層面観察・立体構造を数値的解析。6,739件)、「陽子線治療」(がん病巣に放射線を集中させ、正常組織への影響を低く抑える。2,016件)、「重粒子線治療」(陽子線治療よりもさらに線量集中性が高い。1,787件)である。

それぞれの、患者1人当たりの自己負担額は、多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術:55.5万円、前眼部三次元画像解析:0.4万円、陽子線治療:276.0万円、重粒子線治療:309.35万円となっており、陽子線治療・重粒子線治療は実施件数も多く、患者の自己負担も重い技術となっている16
 
16 「先進医療会議の検討結果の報告について」『中央社会保険医療協議会総会(第344回)』資料(2017年1月25日)、厚生労働省ホームページ。
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