2017年10月19日

先進医療などの対象となる医療技術の変遷-30年間における新技術の定着と保険適用の拡大

小林 雅史

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1――はじめに

公的医療保険制度においては、全国民一律の医療サービスの提供が原則とされてきたが、患者の選択肢を広げ、利便性を向上させる観点から、1984年10月、特定療養費制度の中で高度先進医療が創設され、2006年10月から評価療養制度の中の先進医療に改定されている。

すなわち、現在の先進医療には、前身の高度先進医療も含めれば30年以上の歴史がある。

先進医療に係る費用は、健康保険が適用されず、患者が全額自己負担する(入院を伴う場合の入院費用など、その他の医療に係る費用には健康保険が適用され、「混合診療」といわれる)。

この患者の自己負担部分を保障するため、生保会社においては、1992年4月、千代田生命と富国生命が高度先進医療特約を共同開発した。

高度先進医療特約は、制度改定に伴い先進医療特約と改称し、現在先進医療を保障する特約などを販売する生保会社は、全40社中29社に及んでいる。

2016年4月から、健康保険適用外の治療に関する新しい仕組みとして、患者の申出を前提とする患者申出療養制度がスタートしたが、アクサ生命は2016年9月、患者申出療養の自己負担部分を保障する患者申出療養サポートを発売した。

筆者はすでに先進医療や患者申出療養制度についてレポートを発表しており1、当研究所からは他のレポートも発表されている2が、本レポートでは、先進医療の対象となる医療技術の具体的内容の変遷や保険適用の動向、現状などを中心に紹介することとしたい。
 
1 小著「混合診療への保険会社の対応-先進医療特約と自由診療保険」、『基礎研レポート』、2015年11月10日、http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42869?site=nli、「患者申出療養制度第1号となる申出を承認-2016年4月制度発足以来初のケース」、『保険・年金フォーカス』、2016年11月15日、http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54314&pno=1&site=nli
2 村松容子「患者申出療養制度の現状~承認例や保険収載は増えるか」、『保険・年金フォーカス』、2017年1月24日、http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54314&pno=1&site=nli
 

2――これまでの先進医療の沿革

2――これまでの先進医療の沿革

先進医療の沿革は、表1のとおりであり、以下、これまでの経緯について順に述べていく。
(表1)先進医療の沿革
1特定療養費制度における高度先進医療の創設(1984年10月)
先進医療の前身である高度先進医療は1984年10月に創設された。

1984年10月の健康保険法改正により、本人医療費について自己負担(1割負担)が導入された(以降1997年9月に2割負担、2003年4月に3割負担)が、同時に特定療養費制度が導入された。

1984年10月に創設された特定療養費制度は、新しい医療技術の出現や、患者のニーズの多様化に適切に対応すべく導入された制度で、

(1) 高度で先進的な医療技術(高度先進医療)の技術料相当部分に係る費用
(2) いわゆる差額ベッド代や予約診療など特に定められたサービスに係る費用

について自己負担としつつ、入院・検査費用などの、本来保険給付の対象となる基礎的部分については療養費の給付を行うという、一定のルールの下で保険外診療との併用を認める制度である。

新たな高度先進医療の承認に当たっては、

・高度先進性、有効性、安全性、社会的妥当性、検討の必要性

が基準となり、研究開発段階にある技術は対象としないものとされ3、高度先進医療としての承認後、毎年の実績報告に基づき、

・新規保険適用(普及性、有効性、効率性、安全性、技術的成熟度等を総合的に勘案。)
・承認取消
・高度先進医療の継続

のいずれかとされた4
 
3 「高度先進医療に係る説明資料」、『中央社会保険医療協議会 総会(第56回)』資料(2004年11月10日)、厚生労働省ホームページ。
4 「高度先進医療技術の保険適用」『先進医療専門家会議(平成17年度第1回)』資料(2005年5月9日)、厚生労働省ホームページ。
2いわゆる「混合診療」問題に係る基本的合意(2004年12月)
小泉政権時代、一定水準以上の医療機関について包括的に混合診療(保険診療と保険外診療-自由診療-の併用)を解禁すべきとの議論もあったが、2004年12月15日厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣(規制改革、産業再生機構)などによる「いわゆる『混合診療』問題に係る基本的合意」により、

(1) 国内未承認薬
・患者要望のある未承認薬は厚生労働大臣設置の専門家検討会により最長でも3か月以内に結論を出し、米英独仏で新たに承認された薬は自動的に検証の対象にする等

(2) 先進技術
・必ずしも高度でない先進技術も含め、一定水準以上の要件を満たす医療機関に対し、届出による実施を可能とし、届出後、厚生労働大臣設置の専門家会議により3か月以内に、「支障なし」、「中止または変更」、「保留」のいずれかの結論を理由を付して書面で通知する

(3) 保険診療と保険外診療との併用のあり方
・特定療養費制度を廃止し、保険導入検討医療(仮称)と患者選択同意医療(仮称)として再構成する等

などが申し合わされ、改革の手順としては、できるものから2005年夏までを目処に順次実施し、制度についての法整備については2006年の通常国会に提出を予定している医療保険制度全般に関する改革法案の中で対応するとされた5

この基本的合意を受け、高度先進医療についての審査機関である、高度先進医療専門家会議(実施する特定承認医療機関・高度先進医療技術を検討、ここでの検討を踏まえ中央社会保険医療協議会で審議・承認)が2005年5月より、先進医療専門家会議に改組され、原則として月1回開催し、従来の高度先進医療についての検討を引き続き行うとともに、先進医療の枠組みについての検討を開始した。
 
5 「中央社会保険医療協議会総会(第58回)」資料(2004年12月22日)、厚生労働省ホームページ。なお、規制改革・民間開放推進会議の中間とりまとめ(2004年8月3日)においては、保険診療と保険外診療の併用としての混合診療を全面解禁すべきと主張されたが、日本医師会による「混合診療の導入は、現物給付制度の否定であり、公的医療保険制度の縮小や、経済力格差による医療の差別化が生じ、国民皆保険制度の公平性・平等性が失われる。家計負担も増大する」、日本医療労働組合連合会による「保険外診療の増加に伴う自己負担の拡大により、お金のない人は医療を受けられない、金の切れ目がいのちの切れ目となる」などの反対意見や、厚生労働省の「①患者の自己負担が増加するおそれがあること、②安全性や有効性が不明確な医療が保険診療の一環として提供されるおそれがあること、③医療機関の質の評価が不明確であることから、適正なルール設定が不可欠」との意見があり、上記基本合意は、当時の規制を前提とした漸進的な規制緩和方策となっている[「中央社会保険医療協議会総会(第56回)」資料(2004年11月10日)]
3保険外併用療養費制度における先進医療の創設(2006年10月)
2006年10月健康保険法改正により、特定療養費制度は廃止、新たに保険外併用療養費制度となり、

・厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養で、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な「評価療養」
⇒「いわゆる『混合診療』問題に係る基本的合意」で保険導入検討医療(仮称)とされたもの

・被保険者の選定に係る特別の病室の提供その他の厚生労働大臣が定める「選定療養」
⇒「いわゆる『混合診療』問題に係る基本的合意」で患者選択同意医療(仮称)とされたもの

の2つに再編成された。

同時に従来の高度先進医療と先進医療が統合されて新たな先進医療がスタートし、評価療養の一つと位置づけられた6

2008年4月、新たに高度医療評価会議が設置され、薬事法上の承認または認証を受けていない医薬品・医療機器の使用を伴う医療技術、薬事法上の承認または認証を受けている医薬品・医療機器の承認内容に含まれない目的での使用(いわゆる適応外使用)について審議することとなった7

2012年10月、先進医療専門家会議および高度医療評価会議における新規承認および承認取消の審査等の効率化・重点化を図ることを目的として、両会議を一本化し、先進医療会議において審査等を行うこととされた8

同時に、先進医療については、先進医療A(未承認等の医薬品・医療機器等の適応外使用を伴わない医療技術など)と、未承認・適応外の医薬品・医療機器の使用を伴う医療技術など(先進医療B)に分類され、先進医療Bについては先進医療会議の先進医療技術審査部会で審査されることとなった9
 
6 「中央社会保険医療協議会総会(第90回)」資料(2006年8月9日)、厚生労働省ホームページ。
7 「高度医療評価制度の概要」『第1回 高度医療評価会議』資料(2008年5月28日)、厚生労働省ホームページ。
8 「先進医療・高度医療の一本化について」『第68回 先進医療専門家会議』資料(2012年9月27日)、厚生労働省ホームページ。
9 「先進医療制度の概要」『第1回 先進医療会議』資料(2012年10月24日)、厚生労働省ホームページ、藤原康弘「日本における臨床研究の進展と規制とのあつれき-国民皆保険制度の中でいかにイノベーションを振興するか-」『研究技術計画』Vol.30 No.1、研究・技術計画学会(現研究・イノベーション学会)、2015年8月。
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