2017年10月13日

医療費支出の概要~男女差に着目して

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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(3) 男女とも中高年以上で循環器系の疾患と新生物による医療費が高い
図表6は、国民医療費の大部分を占める医科診療費について、疾病分類別の占有率を示している。それぞれ医科診療費が高い上位3つの疾病分類を表記した。

男女とも65歳以上では循環器系の疾患、新生物が上位を占める。男性の場合、これら2つの疾病で医科診療費全体の44%を占めている。新生物について男女別にみると、男性は45歳以上で高いのに対し、女性はそれより若い15歳以上で高い。乳がん、子宮がんなど女性特有のがん患者が比較的若いことによる。

男性でのみ上位となっている疾病は、44歳以下では骨折等の損傷、中毒及びその他の外因の影響、65歳以上では前立腺の疾患などの腎尿路生殖器系の疾患である。一方、女性でのみ上位となっている疾病は、15~44歳では妊娠、分娩及び産じょくと、45歳以上では関節症や骨粗しょう症等といった筋骨格系及び結合組織の疾患である。65歳以上の女性では、筋骨格系及び結合組織の疾患による医療費は、新生物と同程度のウエイトを占めている。
図表6 疾病分類別医科診療費(各性・年齢群団上位3疾病)
男女とも中高年以降で新生物の医科診療費が循環器系疾患の医科診療費に次いで高いが、厚生労働省「2014年患者調査」の総患者数6では、循環器系疾患の患者が新生物の患者の4~10倍と推計されている。また、65歳以上の女性で新生物と筋骨格系及び結合組織の疾患の医科診療費は同程度であるが、総患者数では、筋骨格系及び結合組織の疾患の患者は新生物患者の5倍程度と推計されている。すなわち、医療費は、筋骨格系及び結合組織の疾患のように患者一人あたりの負担は平均して大きくないが、患者数が多いことによって医療費が高くなっているケースと、新生物のように患者数は多くないが、患者一人あたりの負担が平均して大きいケースとがある。
 
6 継続的に医療を受けている者の数を推計したもの。
 

3――個人の医療費支出の動向

3――個人の医療費支出の動向

図表7 男女別生涯医療費推計の年齢別内訳 1|70歳以上で生涯医療費のおよそ半分
続いて、個人の医療費についてみる。一人あたりの生涯医療費は、2015年度は男性がおよそ2,580万円、女性がおよそ2,820万円だった(図表7)。男女それぞれ70歳以上で生涯医療費のおよそ半分を使う(男性47%、女性53%)。

男女を比較すると、20~49歳と75歳以上で女性の医療費が高い。20~49歳の女性の医療費の中には、「妊娠、分娩及び産じょく」といった特有の疾病による医療費が多く、同年代の男性を上回る。女性の85歳以上が極端に高くなっているのは、85歳の平均余命が男性が6.22年であるのに対し、女性は8.30年と女性が長いためと考えられる。
図表8 生涯医療費推移 2|生涯医療費も増加
時系列でみると、生涯医療費も増加している(図表8)。図表8は生涯医療費について示したものであるが、年齢別内訳を時系列で比べても各年齢で上昇傾向にある(図表略)。

生涯医療費のうち、70歳以上が占める割合は、2008年度以降、男性が46から47%に、女性が52から53%に、寿命の延伸等によってそれぞれ1ポイント程度上昇しており、70歳以上の占める割合が増加している。
 

4――おわりに

4――おわりに

以上みてきたとおり、2015年度の医療費はおよそ42兆3,644億円と過去最高となった。診療種類別にみると、医科診療がその7割を占め、およそ30兆円である。医科診療(入院・入院外)、歯科診療、薬局調剤等いずれの診療種類も上昇傾向にあるが、特に薬局調剤が2010年度に対して30%と、他の診療科目と比べて増加している。一方、2016年度の医療費概算によると、14年ぶりに減少する見込みである。高額医薬品の価格引き下げによる一時的な減少である。医療費の増加は、高齢化だけでなく、医薬品の価格上昇等の医療の高度化による影響は大きい。現在、議論が進められている薬価の抜本改革の国民医療費全体への影響も大きいと考えられるだろう。

個人の生涯医療費をみると、2015年度の生涯医療費は男性がおよそ2,580万円、女性がおよそ2,820万円で、近年増加している。医科診療について、医療費が高い疾病を男女・年齢群団別にみると、男女とも65歳以上では新生物、循環器系の疾患が上位を占める。男性の場合、これら2つの疾病で医療費全体の44%を占めている。新生物についてみると、男性は45歳以上で上位となっているのに対し、女性はそれより若い15歳以上で上位3つの疾病に入ってくる。男性でのみ上位となっている疾病は、44歳以下で損傷、中毒及びその他の外因の影響と、65歳以上で腎尿路生殖器系の疾患である。また、女性でのみ上位となっている疾病は、15~44歳の妊娠、分娩及び産じょくと、45歳以上で関節炎等筋骨格系及び結合組織の疾患である。

疾病分類によって医療費の構造は異なり、65歳以上女性の筋骨格系疾患のように患者一人あたりの負担は平均して大きくないが、患者数が多いことによって医療費が高くなっているケースと、新生物のように患者数は多くないが、患者一人あたりの負担が平均して大きいことによって医療費が高くなっているケースとがある。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2017年10月13日「基礎研レター」)

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