2017年10月13日

中期経済見通し(2017~2027年度)

経済研究部 経済研究部

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(新興国経済-新興国は4%台後半の成長が続く)
新興国経済は2008年の世界金融危機に際して中国の4兆元の大型景気対策や先進国の大規模な量的金融緩和策による資本流入などによって急回復し、新興国ブームは続くかに思われた。しかし、先進国では世界金融危機後のバランスシート調整の後遺症が残り、中国では緩やかな景気減速が続くなか、2012年以降は「スロー・トレード」現象が発生、2014年には資源ブームが終焉、2015年末には米FRBが利上げ開始に踏み切り、新興国経済は低調なパフォーマンスが続いた。2016年に入ると原油価格が底打ちすると共に、中国経済の安定とITサイクルの改善を背景に貿易量も再び拡大した。世界経済の成長モメンタムが上向くなかで外国資本が再び新興国に流入して通貨が上昇、新興国各国では低インフレ環境と緩和的な金融政策が続いて景気は回復に向かっている。

新興国全体の今後10年の平均成長率は4%台後半となり、過去10年間の5%強から低下すると予想する。各新興国では、少子高齢化に伴う労働投入量の減少が趨勢的に潜在成長率を押し下げる一方、旺盛なインフラ投資需要への対応や都市化を通じて工業化とサービス産業の発展が続く中で資本蓄積とキャッチアップ型の技術進歩が成長の支えとなるだろう。また原油価格が近年の開発投資の削減と需要回復を受けて緩やかな上昇傾向を辿る前提のもと、予測期間前半は資源安のストレス下にあった国・地域を中心に成長率が上昇するだろう。しかし、予測期間後半は中国経済の一段の減速がアジア地域を中心に波及して成長率は減速に向かうだろう。

足元では、欧米の中央銀行が金融政策の正常化を進めるなかで欧米金利に先高観が高まっている。今後1-2年は新興国からの資本流出リスクが高まる局面もあるだろうが、先進国との成長率格差拡大を背景に新興国からの資本流出は回避されると予想する。その後は欧米の金利上昇が落ち着くなかで新興国の資本流出リスクも低減していくだろう。

生産年齢人口の増加率/新興国への資金流入

BRICsの今後10年の平均成長率は、過去10年の6%半ばから5%半ばまで低下すると予想する。中国経済は上述の通り新たな成長モデルへの移行期にあり、成長率は緩やかに低下しよう。

ロシアは輸入代替政策によって資源依存型の産業構造からの転換を推し進めているが、欧米による経済制裁によって十分な資本投入を確保できず、基幹産業の育成や国際競争力の底上げは難しいだろう。生産年齢人口の減少が続くこともあり、潜在成長率は緩やかに低下しよう。しかし、原油価格の上昇に伴い、外需は拡大し、内需もルーブル高の進行を通じたインフレ率の低下や緩和的な金融政策、税収の増加による緊縮的な財政政策からの転換などによって拡大が見込まれ、実質GDPは緩やかな成長が続くだろう。今後10年の平均成長率は2%前後と、過去10年の1%前後から上昇すると予想する。

ブラジルは昨年のテメル大統領就任以降、過度に労働者保護の手厚い労働法の改正やインフラ運営権の売却・民営化などの改革によって「ブラジルコスト」の解消が図られており、外国資本の流入は拡大すると見られる。また財政赤字最大の要因である年金の改革が実現すれば、緊縮財政の緩和や受給開始年齢引上げに伴う労働投入の増加が期待でき、潜在成長率は緩やかに上昇しよう。実質GDPは緩やかな物価上昇と緩和的な金融政策によって、内需を牽引役として、堅調に推移するだろう。しかし、当面は改革の推進による消費マインドの低下や財政緊縮が内需の重石となるほか、中期的には中国経済の減速によって外需の縮小が続くだろう。今後10年の平均成長率は3%弱と、過去10年の1%台半ばから上昇すると予想する。

インドは生産年齢人口の増加による潜在成長率の押上げが徐々に弱まるものの、「ポスト中国」の成長期待を背景に流入する外国投資や旺盛なインフラ投資需要への対応、そして都市化に伴う工業化とサービス産業の発展によって労働生産性が向上すると見込まれる。ビジネス環境の改善に向けては現政権が外資規制を緩和、物品サービス税も導入するなど着実に経済改革が前進している一方、不良債権処理と緊縮財政が継続されるために資本投入は当面勢いを欠くだろう。しかし、中期的には上院・下院の「ねじれ」が解消して土地収用法や雇用法制の改革が進展することから、予測期間後半には資本投入が漸く加速、生産性の寄与も高めを維持しよう。実質GDPは高額紙幣の廃止を受けて足もとで鈍化傾向にあるが、今後は景気刺激策によって回復し、その後も潜在成長率の高さを背景に力強い成長が続くだろう。今後10年の平均成長率は8%弱と、過去10年間の7%強から上昇すると予想する。

その他アジア新興国の今後10年の平均成長率は、4%台前半となり、過去10年と同水準の伸びを予想する。

ASEAN4(マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン)は、生産年齢人口の増加による潜在成長率の押上げ効果が次第に弱まる一方、労働生産性の上昇が成長の支えとなる。域内にはインフラと資本市場が整備されたマレーシア、産業集積が進むタイ、内需が魅力のインドネシア、チャイナ・プラスワンで注目を浴びるベトナムとフィリピン、労働コストが安い後発新興国のCLM諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)など多様な特徴を有する国がある。一方、各国が抱える問題は多い。高位中所得国のマレーシアやタイでは高付加価値産業の育成や高水準の家計債務の問題がある。また低位中所得国のインドネシアやフィリピンではインフラや規制・制度の整備が遅れており、ビジネス活動の容易度には改善の余地があるほか、不正・汚職といった体質的欠陥も存在する。ASEAN各国は旺盛な国内・国境インフラの投資需要への対応や人的資本の質的向上、そして更なる域内の統合深化や域外との自由貿易協定の締結促進といった投資環境の優位性を保持する取組みを継続するだろう。今後10年の平均成長率は5%前後と、過去10年と同水準の伸びを予想する。
ビジネス活動の容易度ランキング 韓国や台湾は、輸出主導の経済成長で高所得を達成したが、経済規模に比して輸出の割合が大きく、今後も海外経済の動向に左右されやすい状況が続きそうだ。最大の輸出先である中国の所得向上は韓国・台湾にとって消費財やサービス、IT関連などの輸出拡大の好機となるが、中国の中期的な成長率低下や産業高度化による内製化の進展は輸出の重石となろう。また潜在成長率の低下も避けられない。少子高齢化の急速な進行により、生産年齢人口は2016-2017年から減少に転じると共に、貯蓄率の低下を受けて資本投入も鈍化しよう。政府は次世代産業の育成や教育改革による人的資本の質的向上に取り組むものの、先進国との技術ギャップが縮小するなかで生産性も伸び悩むと考えられる。実質GDPは2020年までは海外経済の回復によって堅調な伸びを維持するものの、2021年以降は中国経済の一段の減速を受けて成長率が低下しよう。今後10年の平均成長率は、過去10年の3%弱から2%台半ばまで低下すると予想する。
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