2017年10月10日

高齢者死亡率の研究-年齢とともに上昇する死亡率に、減速や収れんは見られるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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3――高齢者死亡率の作成過程

報告書の第4節に沿って、死亡率の作成過程の概要を見ていこう。

1高齢者死亡率は3つのステップで作成される

報告書では、高齢者死亡率の設定について、3つのステップが示されている。

(ステップ1) 実績データに基づく補整
実績死亡データを補整して、一定の年齢まで、死亡率曲線を引く。どの年齢まで、取得したデータに有効性や信頼性があるかを評価する際には、統計的検定手法を用いる。具体的な死亡率曲線として、いくつかの数式が考えられるため、その数式の選択についても検討する。

(ステップ2) 国民死亡率への収れんの評価
国民死亡率に対する実績死亡率の比率が1に近づいていく場合2、超高齢者では国民死亡率へ収れんするものと見られる。この収れんの評価について、データの統計的処理を用いる。なお、収れんすると判断する場合には、併せて、収れんする年齢の評価も行う。

(ステップ3) 超高年齢層への補外
主に年齢範囲BとCについて、死亡率曲線を延長させる。この死亡率の超高年齢層への補外は、ステップ2の収れんの評価を反映して行われる。つまり、収れんがあると判断した場合は、収れんする年齢で、国民死亡率と一致するよう、補外される。
図表2. 死亡率の補整・補外 (イメージ)
 
2 比率が1に近づかない場合は、それでも国民死亡率への収れんをさせるか、乖離を維持するかを、検討する必要が生じる。
2部分集団の高齢者死亡率の作成においては、収れん先年齢や交叉回避の検討も必要となる

保険契約では、非喫煙体・喫煙体といった喫煙状況や、優良体・普通体といった健康状態の違いに応じて、保険料が設定される場合がある。この場合、保険会社は、それぞれの集団(部分集団)に関する死亡率を設定する。こうした部分集団について、高齢者死亡率を設定することも必要となる。

部分集団についても、前節のステップ1からステップ3の過程で設定することが基本となる。ただし、これに追加して、次の点についての検討も必要となる。

[検討点1] 部分集団の死亡率が収れんする場合、収れん先年齢を、全体集団と一致させるかどうか
[検討点2] 部分集団間で高齢者死亡率の交叉が生じる場合、これを回避するかどうか
図表3. 部分集団死亡率の補整・補外 (イメージ)

4――超高齢者死亡率の推定に関する研究例

4――超高齢者死亡率の推定に関する研究例

報告書では、第3節で、超高齢者層の死亡率について研究した、近年の代表的な論文3について、検討を行っている。それぞれの論文の結論を、簡単に見ていこう。

(1) Gavrilov and Gavrilova (2011, 2015)
国際長寿命データベース(the International Database on Longevity)の110歳到達者のデータを分析。その結果、110歳以上では、死亡率(正確には死力(ある年齢における瞬間の死亡率))は年齢とともに指数曲線的に伸びる、とした。

(2) Ouellette and Bourbeau (2014)
Gavrilov and Gavrilovaの2011年の論文を検証すべく、カナダ・ケベック州の教会教区記録簿(教区民の洗礼・結婚・死亡を記している)の100歳到達者のデータを分析。その結果、同論文は死亡データ数が少ない上に、死亡率の伸びを抑制する要素が考慮されていない。実際には、虚弱な人は超高齢に至る前に死亡するため、超高齢では、死亡率の伸びが減速する、などとした4

(3) Rau et al (2016)
6つの人口の多い低死亡率国5の高齢者死亡データをもとに、死亡率のモデル化を何種類か行い、当てはまりのよさを比較・評価。その結果、死亡率(正確には死力)の伸びが減速していき、ある水準の高原状態に至る、とするモデル6が高評価となることを示した。(なお、報告書では、この論文は幅広い国々を、経時的に分析しているため有益である、と論じている。)

報告書では、検討の結果、超高齢者の死亡率が、年齢とともに指数曲線的に伸びるのではなく、減速するとの前提を置くこととしている。また、併せて、(3)の論文から、120歳で死力がほぼ1となることが支持されているとして、これをモデルに織り込んでいる。その上で、いくつかの既存の死亡率曲線について、超高齢者死亡率を再作成して、既存のものとの比較・評価を行っている。
 
3 それぞれ、(1)“Mortality measurement at advanced ages: a study of the Social Security Administration Death Master File”, “Mortality of Supercentenarians: Does It Grow with Age?” Gavrilov and Gavrilova (2011, 2015)、(2)“Measurement of Mortality among Centenarians in Canada” Ouellette and Bourbeau (2014)、(3)“Where is the level of the mortality plateau?” Rau et al (2016)
4 この他に、超高齢では1年の間に死亡率が変化すること、年齢報告が不正確な場合があることなども指摘されている。
5 ベルギー、フランス、ドイツ、西ドイツ、イタリア、日本。いずれも2005年~2010年に、1,000万人以上の人口を有する。
6 ゴムパーツモデルを拡張したガンマ・ゴムパーツモデルと呼ばれるもので、年齢の上昇とともに、死力がある高さの高原状態に至る。ゴムパーツモデルは、高原の高さを無限大としたものに相当する。
 

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

欧米では、年金をはじめとした生存保障を行う保険契約が多い。このため、保険会社が負う、長寿リスクの研究が精力的に進められているものと見られる。特に、高齢者の死亡率については、モデル化の際の技術的な検討点を端緒として、生物学や、人口学等の幅広い視点で、議論が交わされている。

日本でも、長寿リスクの取扱いについて、研究や議論が始まっている。これまで日本では、簡易生命表(厚生労働省)などで、高齢者死亡率の補外は、年齢とともに死亡率が指数曲線的に伸びていくことを前提に設定されてきた。しかし、報告書で紹介されているように、欧米では、高齢者死亡率の伸びは、減速するとの見解を有する学識者の勢力が、台頭してきている。その減速を表現するためのモデル化の数式の案も、数多く提示されてきている。こうした欧米での高齢者死亡率のモデル化の議論の動向について、引き続き、注目していく必要があろう。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2017年10月10日「保険・年金フォーカス」)

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