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2017年09月25日
1――YCCを考慮に入れた日本国債金利(10年物)の分析
重回帰分析の結果をみると、日本国債金利(10年物)は、米国債金利(10年物)が上昇するとその0.287倍上昇し、実質GDP成長率予想が上昇するとその0.074倍上昇し、日本銀行の国債保有割合が上昇すると2014年3月まではその0.045倍低下し、2014年4月以降は0.009(= 0.045-0.036)倍低下することを示している。また、マイナス金利政策の導入により0.232%金利が低下し、YCCの導入によって0.036%(= 0.232%-0.196%)金利が上昇したことが分かる。
2005年1月から2017年8月末までの日本国債金利(10年物)の推移について、上記のモデルに基づいて要因分解を行ったのが図表1である。2016年8月末から2017年8月末までの1年間で日本国債金利(10年物)は0.066%上昇しているが、この内訳は米国債金利(10年物)の上昇(+0.155%の寄与)、実質GDP成長率予想の上昇(+0.001%の寄与)、日本銀行の国債保有率の上昇(-0.054%の寄与)、YCCの効果(+0.036%の寄与)に分解される。よって、この期間における日本国債金利(10年物)の上昇は、主に米国債金利(10年物)の上昇とYCCの導入の効果がもたらしたものと考えられる。
2005年1月から2017年8月末までの日本国債金利(10年物)の推移について、上記のモデルに基づいて要因分解を行ったのが図表1である。2016年8月末から2017年8月末までの1年間で日本国債金利(10年物)は0.066%上昇しているが、この内訳は米国債金利(10年物)の上昇(+0.155%の寄与)、実質GDP成長率予想の上昇(+0.001%の寄与)、日本銀行の国債保有率の上昇(-0.054%の寄与)、YCCの効果(+0.036%の寄与)に分解される。よって、この期間における日本国債金利(10年物)の上昇は、主に米国債金利(10年物)の上昇とYCCの導入の効果がもたらしたものと考えられる。
この結果から、過去1年間はYCCにより日本国債金利(10年物)はゼロパーセント近辺を推移してきたが、海外の金利市場や国内経済のマクロ要因によって生じた金利上昇の圧力を、日本銀行による国債買入によって抑制してきた状況が垣間見える。
1 「「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証【背景説明】」(P.48)のモデルで、本稿の記法を用いると、次式のようになる。日本銀行のモデルでは、実質GDP成長率予想にコンセンサス・フォーキャストを使用しており、係数に差異が生じている。なお、**は5%有意であることを示す。
1 「「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証【背景説明】」(P.48)のモデルで、本稿の記法を用いると、次式のようになる。日本銀行のモデルでは、実質GDP成長率予想にコンセンサス・フォーキャストを使用しており、係数に差異が生じている。なお、**は5%有意であることを示す。
2 「「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証【背景説明】」の中で、「2014年入り後に1単あたりの国債買入れ効果が減少したと考えれば、統計的に良好な結果が得られることが分かった」とあり、本稿でもその結果を踏襲している。
2――日本銀行の金融政策による金利押し下げ効果
この分析に基づくと、包括緩和政策(2010年10月~2013年4月)の期間において、日本国債金利(10年物)はすでに0.487%押し下げられていたことになる。さらに、量的・質的金融緩和政策の導入によって、押し下げ効果はさらに大きくなり、2017年8月末時点で1.299%押し下げられている。よって、量的・質的金融緩和政策以降の押し下げ効果は0.812%(= 1.299%-0.487%)で、その内訳が、日本銀行の国債買入による押し下げ効果の0.604%、マイナス金利政策とYCCの組み合わせによる押し下げ効果の0.208%ということになる。
ところで、直近に発表されたIMF WEOにおける今後5年間の実質GDP成長率予想の平均値(0.60%)と、2017年8月末の予想インフレ率(インフレ・スワップ市場におけるブレークイーブンインフレ率:5年先5年間の平均値)(0.25%)の合計値が0.85%、量的・質的金融緩和政策導入直前の日本国債金利(10年物)と日本国債金利(5年物)のターム・スプレッド(0.42%)を加えたとしても、その合計値が1.27%であることを考えると、本稿のモデルによる押し下げ効果の推定値は妥当な水準にあるものと考えられる。
米国や欧州では金融政策が出口に向けて進みつつあると言われている状況にある。上記の結果は、日本においても金融政策の出口に移行した際には、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の解除で0.812%程度の金利上昇、包括緩和政策時に押し下げられた分も戻す場合には、さらに0.487%程度の金利上昇はありうることを示唆している。リスク管理の観点で、一つの数字として頭の片隅に置いておいてもよいだろう。
ところで、直近に発表されたIMF WEOにおける今後5年間の実質GDP成長率予想の平均値(0.60%)と、2017年8月末の予想インフレ率(インフレ・スワップ市場におけるブレークイーブンインフレ率:5年先5年間の平均値)(0.25%)の合計値が0.85%、量的・質的金融緩和政策導入直前の日本国債金利(10年物)と日本国債金利(5年物)のターム・スプレッド(0.42%)を加えたとしても、その合計値が1.27%であることを考えると、本稿のモデルによる押し下げ効果の推定値は妥当な水準にあるものと考えられる。
米国や欧州では金融政策が出口に向けて進みつつあると言われている状況にある。上記の結果は、日本においても金融政策の出口に移行した際には、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の解除で0.812%程度の金利上昇、包括緩和政策時に押し下げられた分も戻す場合には、さらに0.487%程度の金利上昇はありうることを示唆している。リスク管理の観点で、一つの数字として頭の片隅に置いておいてもよいだろう。
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経歴
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
(2017年09月25日「基礎研レター」)
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