2017年09月01日

導入から1年、イールドカーブ・コントロールの評価~金融市場の動き(9月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(8月)

(日銀)現状維持(開催なし)
8月はもともと金融政策決定会合が予定されていない月であったため、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は9月20~21日に予定されている。

次回会合では新たに審議委員に任命された鈴木氏と片岡氏が議論に加わることになる。これまで現行金融緩和に否定的な見解を示してきた木内氏と佐藤氏が退任し、日銀内での活発な議論が損なわれていないか、決定会合後の公表文書(主な意見・議事要旨など)の内容が注目される。
 
今後の金融政策に関しては、2%の物価目標達成が依然として見通せない状況が続くため、日銀は「モメンタムは維持されている」という主張を繰り返すことで長期にわたって現行金融政策の維持を続けるとみられる。その際、長期金利目標も長期にわたって現状の「ゼロ%程度」で維持されるだろう。なお、年間約80兆円増としている長期国債買入れペース目処については、少なくとも黒田総裁の任期中(2018年4月まで)は存置されると見ている。80兆円の目処も今後ますます形骸化していくだろう。
次回の金融政策変更の予測分布(39機関)/長短金利操作の見通し

3.金融市場(8月)の動きと当面の予想

3.金融市場(8月)の動きと当面の予想

(10年国債利回り)
8月の動き 月初0.0%台後半でスタートし、月末は0.0%台前半に。      
月の上旬は0.0%台後半での推移が続いたが、米朝関係緊迫化に伴う地政学リスクの高まりを受けてリスク回避姿勢が強まり、11日に0.0%台半ばへ低下。その後も、日銀オペで需要が確認されたことや米政権の先行き不透明感が強まったことなどを受けて低下基調が続いた。さらに北朝鮮が弾道ミサイルを発射した30日には0.0%付近にまで低下。月末はリスク回避姿勢がやや緩和し、0.0%台前半で終了した。

当面の予想
米金利の低下を受けて、足元では小幅ながらマイナス圏に突入している。来週開催されるECB理事会ではテーパリングの議論が開始される可能性が高く、欧州金利の上昇を受けて本邦金利も一旦やや持ち直す可能性がある。一方、米政務上限問題と来年度予算成立の期限が月末頃に控えるが、米政治の混迷から一筋縄には行かないとみられ、月終盤には投資家の警戒感が高まることで質への逃避によって金利が押し下げられそうだ。また、北朝鮮情勢への警戒も金利抑制・低下要因として燻り続けるとみられ、月末もマイナス圏で低迷する可能性がある。
日米独長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(8月)
(ドル円レート)
8月の動き 月初110円台前半でスタートし、月末は110円台半ばに。
月初110円台での推移が続いた後、北朝鮮情勢の緊迫化を受けたリスク回避的な円買いにより、9日には110円を割り込む。さらに米物価指標の予想割れにより、14日には109円台前半まで下落した。その後15日には北朝鮮情勢の緊張緩和により110円台を一旦回復したが、人種差別問題を巡るトランプ大統領発言やスペインでのテロ発生を受けて18日には再び109円台に。以降、109円台での一進一退が続いたが、29日には北朝鮮の弾道ミサイル発射によりリスク回避姿勢が強まり、108円台後半に。月末は北朝鮮情勢への警戒が緩和したうえ、米経済指標の改善もあり、110円台半ばへ上昇した。

当面の予想
昨日の米物価指標低迷を受けて、足元は110円台前半で推移。目先は本日夜の米雇用統計の内容(特に平均時給)次第だが、北朝鮮情勢に加え、米債務上限問題、来年度予算期限切れへの警戒から、当面ドルの上値が重い展開が予想される。米財政への警戒が最も高まる月末にはドル安圧力が一層強まり、再び109円を割り込むと見ている。今月20日のFOMCでFRBは資産縮小開始を決定すると予想しているが、市場ではほぼ織り込み済み、かつその影響は限定的と見なされており、ドル高材料にはなりにくい。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
8月の動き 月初1.18ドル台前半からスタートし、月末は1.18ドル台後半に。
月初、1.18ドル台前半でスタートした後、米経済指標の下振れなどから2日に1.18ドル台後半に。その後、良好な米雇用統計を受けて1.18ドルに下落した。さらに、北朝鮮情勢の緊迫化を受けて持ち高調整のユーロ売りが入り、9日には1.17台前半に下落。以降もECB議事要旨でさらなるユーロ高への警戒が明らかになったことなどもあり、1.17ドルから1.18ドル台前半での上値の重い展開が継続した。月下旬にはジャクソンホール会合でドラギ総裁がユーロ高けん制を行わなかったことでユーロ買いが進み、一時1.20ドルを突破したが、利益確定のユーロ売りが入り、月末は1.18ドル台後半で終了した。

当面の予想
足元も1.18ドル台後半で推移。ドル円同様、目先は本日夜の米雇用統計次第だが、来週開催されるECB理事会ではテーパリングの議論が開始される可能性が高く、ユーロの支援材料になる。さらに月終盤には米財政への警戒が高まることでドル安圧力が強まりそうだ。ただし、ユーロはこれまで急ピッチで上昇してきただけに利益確定売りが入りやすいうえ、前回のECB議事要旨でさらなるユーロ高への警戒感が示されたこともあり、ユーロが急騰する可能性は低いとみている。
金利・為替予測表(2017年9月1日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2017年09月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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