2017年08月22日

中国経済見通し~景気は党大会後も大丈夫なのか?

三尾 幸吉郎

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4.経済見通し

1|経済見通し
2017年の実質成長率は前年比6.8%増、2018年は同6.5%増と予想している。また、消費者物価は2017年が前年比1.5%上昇、2018年は同2.5%上昇と予想している(図表-15)。
(図表-15)経済予測表
個人消費に関しては、企業利益の底打ちや雇用情勢の安定を背景に可処分所得が高い伸びを示していることに加えて、中間所得層の着実な増加を背景にサービス需要が拡大していることから、17年下期の消費は堅調を維持すると見ている。但し、18年には住宅販売の鈍化に加えて、小型車減税が撤廃されるため、消費の寄与度はやや低下すると見込んでいる(図表-16)。
(図表-16)消費のプラス要因・マイナス要因
投資に関しては、(1)過剰設備の整理と過剰債務のデレバレッジ、(2)景気対策縮小に伴うインフラ投資の鈍化、(3)バブル退治に伴う住宅着工の鈍化などマイナス材料が多いため減速すると見られる。しかし、(1)企業利益が底打ちしたのに加えて、(2)「中国製造2025」や「インターネット+」に対する手厚い政策支援を背景に新興産業関連投資が盛り上がりつつあることから、投資が失速する可能性は低く、小幅な伸び鈍化に留まると予想している。なお、仮に新興産業関連投資が失速する事態になれば、官民連携(PPP)のプロジェクトを推進、再び景気対策を強化するだろう(図表-17)。
(図表-17)投資のプラス要因・マイナス要因
輸出に関しては、世界経済の持続的回復や「一帯一路」の沿線地域への影響力拡大がプラス要因となるものの、国内生産の製造コストが上昇した中で、製造拠点を後発新興国へ移転する動きは外資系企業ばかりか国内企業でも盛んなため、引き続き輸出を抑制するマイナス要因となるだろう。従って、輸出の伸びは1桁台前半に留まると予想している(図表-18)。
(図表-18)輸出のプラス要因・マイナス要因
金利見通しに関しては、中国政府(含む中国人民銀行)は16年秋以降、住宅バブル退治に乗り出したため、景気先行指標の一部には陰りが見え始めている。しかし、17年1-6月期の実質成長率が目標(6.5%前後)を大幅に上回るなど、景気の勢いは想定以上に強く、住宅バブル膨張にも歯止めが掛かっていないため、中国人民銀行は年内にも基準金利を引き上げる可能性がある。一方、米国では経済の持続的拡大が続いており、今後も段階的に政策金利を引き上げると見られる。しかし、トランプ政権の政策遂行停滞を懸念して長期金利は低下、米中の長期金利差は拡大し始めている(図表-19)。従って、米利上げが先行するため米中の短期金利差は縮小するものの、長期金利差は縮小しにくいと見て、米ドルに対する人民元レートはほぼ横ばいと予想している(図表-20)。
(図表-19)米中の長期金利の推移/(図表-20)米中の短期金利の推移
2|リスクの所在
中国経済の最大のリスクは“住宅バブル”にあると考えている。住宅バブルが崩壊すれば、金融システムが不安定化する恐れがあるからである。そもそも中国では、過剰設備・過剰債務問題を解消すべくゾンビ企業の淘汰を進めており、不良債権は増加傾向にある3。それに加えて、16年に急増した個人の住宅ローンまで返済が滞るようだと、銀行が抱える不良債権は急増する恐れがある。

中国政府(含む中国人民銀行)は前述の「四限」で住宅バブルを退治しようとしてきた。しかし、これまでのところ住宅バブル膨張に収まる兆しは見られず、今後は基準金利の引き上げに踏み切る可能性がある。「四限」と基準金利の引き上げで、住宅バブルのソフトランディングに成功するのがメインシナリオだが、行き過ぎた金融引き締めでオーバーキルとなる可能性も否定しきれない。
(図表-21)新築住宅販売価格の推移 具体的には、住宅価格が微調整ライン(A)を上回っているうちはメインシナリオの範囲内(黄信号)、それを下回ればシナリオ修正が必要な「赤信号」と考えている。仮に「赤信号」が点灯したとしても、中国政府が適時適切なタイミングで政策運営を切り替えることができれば金融システム不安に陥るのを回避できる可能性はある。しかし、タイミングが遅れて、デッドライン(B)を下回るようだと、住宅バブル崩壊の恐れもある。ここ数年で建設された住宅在庫のほとんどがデッドストック(含み損を抱えた資産)となるからだ(図表-21)。中国政府にとっては極めて難しい舵取りとなるだけに、今後の政策運営を注視したい。
 
 
3 不良債権の現状に関しては「図表でみる中国経済(不良債権編)」基礎研レター2016-07-15を参照
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2017年08月22日「Weekly エコノミスト・レター」)

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