2017年08月15日

医療機器の生産・出荷と輸出入-医療機器の輸入超過は、どの程度進んでいるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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3生産では、処置用機器が最大の金額となっている
生産では、治療系機器の伸びが大きい。
図表7. 生産
特に、処置用機器は、この10年間で2,700億円以上増加して、最大の生産額となっている。処置用機器の半分以上は、チューブ及びカテーテルが占めている。その中でも、滅菌済み血管用チューブ及びカテーテルの占める割合が大きい。日本が得意とする素材・材料技術を生かして、生体への適合性や、低侵襲性による患者負担の軽減が可能なカテーテル等の生産が進んでいるものと見られる。

一方、2005年に首位であった、画像診断システムは、700億円以上減少している。特に、医用X線CT装置や、超音波画像診断装置が減少している。近年、東南アジアなどの新興国の医療機器市場の拡大に合わせて、韓国や中国の画像診断機器メーカーが製造・販売を強化しており、市場競争が激化しつつあるものと考えられる。
4輸入では、生体機能補助・代行機器が首位となっている
輸入では、治療系機器の金額が大きい。その他機器の中の、眼科用品及び関連製品の金額も大きい。
図表8.輸入
治療系機器の中では、生体機能補助・代行機器が首位となっている。心臓ペースメーカや、人工血管、眼内レンズなどの輸入の伸びが大きい。

また、処置用機器は増加が大きく、生体機能補助・代行機器に迫る金額となっている。処置用機器では、減菌済み血管用チューブ及びカテーテルをはじめ、注射器具及び穿刺器具、結紮(けっさつ)・縫合用器械器具などの輸入が増加した。

一方、眼科用品及び関連製品のうち、コンタクトレンズの輸入も進んだ。特に、アイルランドからの輸入が伸びている。これは、法人税率の低い同国6に、世界大手のコンタクトレンズメーカーが製造拠点を設立しており7、日本などの海外に輸出していることが、その要因と考えられる。

2015年の主な輸入内容を輸入先ごとに見ると、上位は、次の表のようになる。アメリカからの輸入が、非常に大きい。主な内容は、処置用機器、生体機能補助・代行機器、画像診断システム、治療用又は手術用機器となっている。また、アイルランドからの、眼科用品及び関連製品の輸入額も大きい。
図表9. 医療機器の主な輸入先 (2015年)
 
6 2015年の法人実効税率(法人所得に課される法人税や住民税、事業税の表面税率をもとに算出) は、日本 32.11%、アメリカ 39.00%、ドイツ30.18%、フランス38.00%、イギリス20.00%に対し、アイルランド 12.50%であった。(“OECD. Stat” (OECD)のCombined corporate income tax rateより)
7 ジョンソン・エンド・ジョンソン社や、ボシュロム社が、アイルランドに製造拠点を設けている。
 

4――医療機器の種類別の輸出入の超過状況

4――医療機器の種類別の輸出入の超過状況

輸出入の超過状況を見るために、図表5の輸出から図表8の輸入を差し引くと、次の図が得られる。
図表10.輸出-輸入
日本は、医用検体検査機器(臨床化学検査機器や、血液検査機器など)を中心に、診断系機器では、輸出が輸入を上回っている。一方、生体機能補助・代行機器(心臓ペースメーカや、人工血管など)、処置用機器(カテーテルなど)のような治療系機器や、眼科用品及び関連製品(コンタクトレンズなど)といった、その他機器については、輸入が輸出を超過している。

ただし、単純に、輸出超過は良し、輸入超過は問題あり、とする見方は、各国の医療ニーズの違いや、機器生産の得意分野を踏まえておらず、一面的な捉え方に過ぎない。むしろ、輸出入の超過状況は、生産の得意分野や、海外依存分野のあり方を考察する際の、検討素材と位置づけるべきであろう8
 
8 その際、低税率を梃子に、海外メーカーを呼び込んで、生産・輸出増を図る国がある点に、注意が必要であろう。
 

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

今後、日本にとって、素材技術を活かした、低侵襲のチューブやカテーテルの高品質化。AI(人工知能)の認識機能を活用した、画像診断システムの高性能化。IoT(モノのインターネット)による機器統合を生かしたスマート手術室9の増設などが、医療機器生産拡大の柱になるものと考えられる。そのためには、オープンイノベーションによる、メーカーとアカデミアの共同研究など、研究・開発体制の更なる強化が必要と考えられる。今後の、医療機器開発の動向に、引き続き、注目することとしたい。
 
9 患者の生体情報、医療機器のデータや術中画像、手術器具の位置情報などを集約し、手術の進行を統合的に把握するとともに、執刀する医師をナビゲートしたり、機器の稼働状況を監視したりすることで、手術の精度・安全性を高める手術施設。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2017年08月15日「基礎研レター」)

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