2017年08月15日

医療機器の生産・出荷と輸出入-医療機器の輸入超過は、どの程度進んでいるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

日本の成長戦略の重要な分野として、医療機器の製造が挙げられる。医療機器には、コンピューターや、高度な精密機械技術を要するものがある。また、体内組織を代替する人工物の製造には、素材・材料技術が活用されている。医療機器の製造には、これらの技術力を生かすことができる。

今後、日本をはじめ、各国で高齢化が進み、医療の需要は高まることが必至である。それに伴い、医療機器のニーズは、量と質の両面で、高まっていくこととなろう。

本稿では、医療機器について、生産と輸出入の動向を概観する。そして、日本の医療機器開発の強みや課題を見ていくこととしたい。
 

2――医療機器の生産・出荷と輸出入の概要

2――医療機器の生産・出荷と輸出入の概要

まず、日本の医療機器の生産などの動向を、薬事工業生産動態統計(厚生労働省)を参照して、大づかみで把握していこう。この統計によると、2015年には、国内向け出荷は2.72兆円、輸出は0.62兆円であった。これらの国内外の需要に対し、生産1.95兆円、輸入1.42兆円の供給で対応した1,2
図表1. 医療機器の出荷・生産・輸出入 (2015年)
これを、10年前の2005年と比べてみよう。需要は、国内向け出荷、輸出とも、31%の伸びとなっている。これに対する供給は、生産は24%の伸びにとどまっており、輸入が41%伸びて、需要を満たす形となっている。医療機器は、輸入依存を強めている。(なお、米ドル/円の為替レートは、2011~12年に円高となったが、その後、円安に振れて、2015年は、2005年よりも10円以上円安となった。輸出入金額を、為替の動きと比較しても、明確な関連性は見出せないものと思われる。)
図表2. 医療機器の10年間の伸び
 
1 薬事工業生産動態統計は、国内の生産力の実態を明らかにすることを目的としており、貿易実態を把握するための利用には適さないとされる。医療機器の輸出入は、最終製品が対象となる。例えば、製造販売所が、国内の輸出業者に製品を販売して、それを輸出業者が輸出する場合、輸出業者への国内向け出荷とみなされ、輸出には含まれない。また、集計対象を国内の製造販売所又は製造所としているため、海外で現地生産し海外展開している製品は、この調査では集計の対象外となる。この統計を利用して、数値をみる際には、こうした点に注意が必要となる。
2 出荷と輸出の合計額と、生産と輸入の合計額の間に差が生じているが、この分は、医療機器の製造販売所又は製造所の在庫の増減となっている。
 

3――医療機器の種類別の状況

3――医療機器の種類別の状況

一口に医療機器と言っても、X線CTやMRI3のような高額な画像診断システムもあれば、注射器具のような消耗品的な処置用機器もある。そこで、まず、医療機器の大まかな分類を見てみよう。統計上、医療機器は、治療系機器、診断系機器、その他機器の3つに大別される。その上で、それぞれが4~5個に分けられており、全部で14個の大分類が設けられている。この大分類に従って、直近の統計(2015年)と10年前のデータを比較して、各項目の動向を見ていくこととしよう。
図表3. 医療機器の分類
 
3 CTはComputerized Tomography(コンピューター断層撮影法)、MRIはMagnetic Resonance Imaging(磁気共鳴映像法)の略。
1国内向け出荷では、処置用機器が大きく伸びている
国内向け出荷では、治療系機器の伸びが顕著となっている。
図表4. 国内向け出荷
特に、処置用機器は、この10年間で、3,300億円以上の大きな伸びを見せている。これは、狭心症などの循環器疾患で、カテーテルを用いた治療が増加していることを反映している。狭心症の治療で、冠動脈の障害状態が軽度な場合、開腹手術(冠動脈バイパス手術)の代わりに、患者の侵襲度が低いカテーテル治療が選択される機会が増えているものと見られる。なお、カテーテル治療でネックとされている再狭窄(バルーン治療などの後に、血管が再び狭くなってしまうこと)を避けるために、薬液を染み込ませたステント(薬物溶出性ステント)を併用する、新たな治療法も用いられ始めている。

また、生体機能補助・代行機器の国内向け出荷も、1,200億円以上増加している。その内訳を見ると、人工血管、人工心臓弁、ステント、血液浄化器などの出荷が増加している。背景には、動脈瘤の治療法として、人工血管にステントの付いたステントグラフトを用いて行う血管内治療が、増加していることなどが挙げられる。
2輸出では、医用検体検査機器が大きく伸びている
輸出では、診断系機器の金額が大きい。
図表5.輸出
その中では、画像診断システムが首位を占めている。ただし、その輸出額は、この10年間で300億円以上減少している。その内訳を見ると、医用X線CT装置や、超音波画像診断装置の輸出が減少している。背景には、アメリカでは、医療保険制度改革法(オバマケア)で、2013年より、医療機器を製造または輸入する企業に、医療機器物品税(連邦税で、税率2.3%)が課されていること4。中国では、2014年以降、政府が医療機器の国産化を推進し、輸入管理を厳格化していること5、などが挙げられる。

一方、医用検体検査機器の輸出は、約900億円の増加、と大きく伸びている。血液などの検体中の成分濃度測定をする、臨床化学自動分析装置や、血液検査機器の輸出が伸びたことが、主な要因となっている。

また、診断系機器以外では、処置用機器も、300億円以上、輸出が増加している。特に、減菌済み血管用チューブ及びカテーテルの輸出の伸びが大きい。

2015年の主な輸出内容を輸出先ごとに見ると、上位は、次の表のようになる。金額では、アメリカへの、処置用機器や画像診断システムの輸出。ドイツや韓国への、医用検体検査機器の輸出。中国への、画像診断システムの輸出が大きい。
図表6. 医療機器の主な輸出先 (2015年)
 
4 2016年から2年間、課税が一時的に凍結されている。
5 中国政府は、2014 年以降、「中華人民共和国政府調達法」(2003年施行)を徹底して、優先的に国産医療機器の購入を進める方針を明らかにしている。具体的には、対象製品を指定し、公立病院に対して国産医療機器の調達を推奨している。その背景には、自国の医療機器産業の振興とともに、海外製品の輸入による医療機器コスト増大の抑制があるものと考えられる。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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