2017年08月14日

データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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2――1対1の関係でみた場合、「出生率とそのデータとの間に、強い関係性が現れた『支配的』項目」の出現

1章に続き、最後は出生率に最も高い影響力を持っている、と相関分析の結果示されたデータを紹介しよう。

分析結果からは、以下の3つのデータを超えて出生率に強い影響(相関係数)をもつことの出来る項目は他に現れなかった。
【図表7】東京都の全体の出生率との関係が「非常に強い」3データ(正の関係)
全体の出生率の計算は各年齢の女性の出生率の積み上げ計算によって行われるため、女性の年齢が出生率に大きな影響力を持つことは、コロンブスの卵の話のようではあるものの、極めて当たり前のことではある。

しかし、同じ女性でもその年齢ゾーンによって全体の出生率への支配力は大きく異なることが本分析によって明確に示されることとなった。
 
東京都の全体の出生率の増減には、20代と30代前半の女性の出生率が大きな影響力を持っていることを分析結果は物語っている。
 
中でも20代後半の女性の出生率は、ほぼ全体の出生率に完全一致に近い動きをみせる状態であり、すなわち、東京都においてはこの年齢ゾーンの女性の出生率が全体の出生率の「真の支配者」まさに「ラストボス」であるといってよいだろう。
 
東京都においては、
この20代後半をメインとする20代から30代前半年齢ゾーンの女性、そして、ここは極めて看過されやすい視点であるが、「そのパートナーの男性」が、ともにカップリング・妊娠・出産に取り組めない社会構造を改善しない限り、
その出生率は回復することは望めないといっても過言ではないだろう。
 
他の相関係数とは比べ物にならない相関の強さをもつこの「女性の年齢条件」を無視した、家族環境・労働環境、すなわち社会環境が東京都にあるからこそ、東京都の出生率は低いままではないのか、という議論が人口減少社会においては極めて重要かつ有効な議論であるとデータからは考えられる。
 
この議論では、「女性に関する社会構造」だけではなく「そのパートナー(もしくはパートナー候補)に関する社会構造」についても、
そのパートナーに関する社会構造
から十分な議論がなされることが必要であろう。
 
一体そのような社会構造づくりとは何なのか、を示しているのがこの「年齢条件の次に」出生率に関係があるという結果を示した図表4のデータ項目たちともみることができるのではないだろうか。
 
本分析の最後に、では、図表4の項目のうちでは、何が「支配要因」であるのかを探ってみることとしたい。
 

3――出生率に影響する「女性とそのパートナーの年齢要因」を動かすことができるデータは何か?

3――出生率に影響する「女性とそのパートナーの年齢要因」を動かすことができるデータは何か?

前章の分析結果から、最終的には女性(ならびにそのパートナーが)20代後半でカップリング・妊娠・出産に心おきなく取り組める社会作り、が出生率上昇のための最重要タスクであることが判明した。
 
しかし、このような生物学的要因に影響する社会要因があるからこそ、東京都の出生率は最低値を独走してきたともいえる。東京都の平均初婚年齢は全国で最も高年齢で、男女とも30歳を超えているのである。
 
このような状況で、単にその原因を「女性とそのパートナーの個々の気合の問題・ライフプランの問題」としてしまうのはあまりにも乱暴であろう。そうなる環境要因が必ずやあるはずである。
 
そこで、図表4で示した東京都において「出生率に正または負の関係がある」とされた社会環境項目について、その中で何が「支配要因」といえるのか、を再度分析してみたい。

分析の手法の点から、この支配要因が過去の社会状況を語るものでも、未来を予言するものでもないことは今一度、留意したい。
 
1対1の相関関係分析だけでは、「見せ掛けだけの関係性」をもっている項目をみつけることは難しい。

ここで、「見せ掛けだけの関係性」とは何だろうか。

例えば産後うつ病の発症率は20代前半のお母さんで高い、という研究結果があるが、それは年齢要因よりも実はその年齢の女性に多い社会環境が大きく影響している、という論文がある。

この場合、1対1の分析でみると「年齢」と(例えば)「夫の仕事」といった彼女をとりまく家庭環境が影響していることまでがわかるが、それでは、どちらが産後うつ病の発症率の高さを生み出す「真犯人か(もしくはどちらも真犯人なのか)」という議論が次に出てくるのである。
 
「重回帰分析」は、このようにある事象に関係する複数の要因がある程度わかっている時に、その要因だけからくる本当の影響の重さ(有意性)を分析する際に用いることが可能である。出生率と関係のある他の項目からの重複した影響を排除して、各項目の被説明変数(今回の場合は出生率)への現時点におけるピュアな影響力を探ることが可能となる7
 
ここでは図表4の出生率と関係性がある項目を用いて、重回帰分析を行ってみることとした。

ただ、図表4の項目だけでも51項目もあるため、分析項目の取捨選択が必要となる。
本稿では分析の詳細過程は省略するが、最終的な回帰分析に用いた出生率を説明する変数としての8項目はステップワイズ法によって51項目から取捨選択を決定した。その結果が下表である(図表8)。
【図表8】東京都の出生率に関する出生率と相関がある全項目の重回帰分析の結果
重回帰分析の結果、東京都の出生率を支配する要因は有意水準の高さ(統計上意味がある関係の高さ)で(5%有意水準で)8つに絞られた。この回帰式の説明力は86.5%である。年齢条件を加えれば限りなく100%に近い説明力となるが、今回は母の生物学的要因を変えるために援護射撃となるサブとなる社会環境要因を探すことが目的のため、あえて生物学的要因を外している。
 
分析結果が示す上記図表の8つの「支配要因」は、一般的な印象論からすると驚きの結果も含まれていると思われる。1つ1つ簡単に紹介することとしたい。
 
 
7 ただし、そもそも最初から分析に投入もれとなった(相関関係のある程度高い)項目がある場合は、それを見逃したままの真犯人探しとなることは留意されたい。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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