2017年08月08日

東京Aクラスビルの成約賃料が再上昇。売り時判断の増加で不動産売買は拡大。~不動産クォータリー・レビュー2017年第2四半期~

竹内 一雅

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4.地価動向

7月3日に国税庁から2017年路線価が公表され、全国平均は昨年に続き2年連続の上昇(前年比+0.4%)となった。低金利などを背景とした不動産投資市場への資金流入による不動産価格の上昇、都心部での再開発の進展、訪日客増加によるホテル需要の拡大などが牽引した。地価の最高価格は銀座「鳩居堂」前の4,032万円/㎡(前年比+26.0%上昇)でバブル期を上回る過去最高額となった。ただし、地価が上昇したのは13都道府県で、約7割の32県では下落が続いている。

野村アーバンネットによると、首都圏の住宅地価は2014年1月から15四半期連続で上昇が続いている(図表-16)。ただし、都区部では2期連続で上昇率が0.0%となり、上昇に息切れがみえ始めた(2017年7月は都区部で前期比▲0.0%の下落、首都圏で+0.2%の上昇)。中心商業地は、住宅地に比べ上昇が顕著だが、銀座で大幅な上昇が続く一方、北青山や道玄坂ではこの半年間の上昇率が0.0%で横ばいとなっている(図表-17)。
図表-16 首都圏住宅地の地価動向/図表-17 首都圏商業地の地価動向

5.不動産サブセクターの動向

5.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
オフィス市況の好調が続いている。2017年前半に東京都心部で供給された代表的な大規模ビルには、大手町パークビルディングやGINZA SIX、日比谷パークフロントなどがあり、今後は赤坂インターシティAIRや目黒駅前地区再開発オフィス棟の供給が予定されている。これらのビルでは成約や内定が進んでおり、特に今後供給される赤坂インターシティAIRは竣工前にほぼ満室を達成し、目黒駅前地区再開発ビルでもアマゾンジャパンが6千坪を賃借するなど大規模テナントの確保に成功している。このため、今年中は新規供給に伴う空室率の大幅な上昇への懸念はほぼなくなった。

新築大規模ビルの好調を反映し、三幸エステートによると、2017年第2四半期の東京都心Aクラスビル6の空室率は3.2%へと低下し、成約賃料(オフィスレント・インデックス)は前期比+4.1%(前年比+9.9%)の上昇となった7(図表-18)。

都心5区の大規模ビルの空室率は、渋谷区の0.98%をはじめ非常に低い水準にあり、新規供給に伴う上昇があってもすぐに回復するなど需要の強い状況が続いている。需要の拡大は周辺部や中小型ビルへ波及しており、中型ビルの空室率は大規模ビルと近い水準にまで低下してきた(図表-19、20)
図表-18 東京都心オフィスビルの空室率・成約賃料(オフィスレント・インデックス)
図表-19 東京都心5区大規模ビル区別空室率/図表-20 東京都心5区規模別空室率
三鬼商事によると、2017年に入ってからも、賃貸需要が供給を上回り、空室面積の減少が続いている(図表-21)。グループ企業の集約や郊外部や自社ビルからの移転、IT系企業などをはじめとするオフィス拡張意欲の強さに加え、人手不足の中、人材確保のための都心部や新築ビルへの移転なども目立つようになってきた。また、近年では都心部での大規模再開発やマンションやホテルへの建替えのための取り壊し(滅失)の多さも市況の改善に貢献してきた8(図表-22)。

2018年から2020年にかけて東京ではオフィスビルの大量供給が計画されている。森ビルによると、この3年間の東京都区部大規模ビルの供給量の総面積は、401万㎡で昨年の調査結果とほぼ変わらなかった。ただし、昨年調査と比べると2019年の供給量が減少し、2020年がその分、増加する見込みとなった(図表-23)。

地方主要都市のオフィス市況は、東京を上回る好調にある。特に大規模ビルの空室率の改善は著しく、札幌市では1.40%、福岡市では1.56%(東京都心5区は2.20%)と、ほぼ空室がない状況が続いている(図表-24)。2017年前半には大阪で中ノ島フェスティバルタワー・ウェスト棟が、名古屋ではJRゲートタワーとグローバルゲートウェスト棟が、札幌では札幌フコク生命越山ビルが、仙台では野村不動産仙台青葉通ビルが供給されたが、順調に空室率は低下しており、今年後半は大規模ビルの供給が予定されていないことから、地方主要都市でもさらに市況の改善が進むと考えられる。
図表-21 東京都心5区オフィスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積増分/図表-22 東京都心5区オフィスビルの新築面積・滅失面積
図表-23 東京都区部大規模オフィスビルの供給見通し/図表-24 主要都市大規模ビルの空室率
 
6 Aクラスビルは、エリア(都心5区等)、延床面積(1万坪以上)、基準階面積(300坪以上)、築年数(15年以内)などを条件とするガイドラインから、三幸エステートが個別ビル単位で選定している。エリア(都心5区等)内に立地し、基準階面積200坪以上でAクラスビルに該当しないビルをBクラスビル、基準階面積100坪以上200坪未満のビルをCクラスビルとしている。
7 前年同期にあたる2016年第2四半期には熊本地震の発生などにより、Aクラスビル賃料が大きく下落したことが、前年同期比での大幅な上昇につながった。なお、2016年6月にはイギリスの欧州連合からの離脱投票(Brexit)も実施された。
8 今後もホテル開発などに伴うオフィスビルの取り壊しは発生すると考えられるが、都心部での大規模開発のための滅失は当面、ピークを超えたとの評価も聞かれる。そうであれば、滅失によるストックの減少や移転が減少し、新規供給の多くが賃貸可能面積として市場に供給されることになるため、オフィス市況の緩和圧力となる。
(2) 賃貸マンション
主要都市の賃貸マンション賃料指数は、東京や札幌、福岡をはじめとして、概ね上昇基調にある(図表-25)。ただし、首都圏の居住用賃貸物件の成約数は、アットホームによると16ヶ月連続で減少しており、必ずしも需要は強くないようだ9。既に見たように貸家の着工は増加を続けており、タスによると首都圏の賃貸マンションの空室率は上昇傾向にある(図表-26)。

一方、オフィス市場との連動性が比較的高い高級賃貸マンションでは、賃料、空室率ともに好調が続いている。空室率は最近では最も低い水準で推移し、賃料は前年比で+3.8%と上昇傾向が続いている(図表-27)。
図表-25 主要都市のマンション賃料指数(2009年第1四半期=100)/図表-26 首都圏賃貸住宅の空室率(マンション系(S造、RC造、SRC造)空室率TVI)
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竹内 一雅

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