2017年08月04日

ユーロ急騰、持続性はあるか?~金融市場の動き(8月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(7月):物価目標の達成時期をまたも先送りに

(日銀)現状維持
日銀は7月19日~20日に開催された金融政策決定会合において、金融政策を維持した。長短金利操作(マイナス金利▲0.1%、10年国債利回りゼロ%程度)、資産買入れ方針(長期国債買入れメド年間80兆円増、ETF買入れ年間6兆円増など)において、従来の方針を維持した(賛成7反対2)。

会合終了後に公表された展望レポートでは、景気の総括判断を「緩やかに拡大している」と、前月の「緩やかな拡大に転じつつある」から一歩前進させた。同レポートにおける政策委員の大勢見通しでは、2017・18年度の実質GDP成長率を前回(4月)から上方修正する一方、物価見通しは17年度から19年度にかけて下方修正し、従来、「18年度頃」としていた2%目標の達成時期も「19年度頃」へと先送りした。

物価目標達成時期の先送りは今回で6回目となった。日銀は期待に働きかけるためとみられるが、当初の段階では市場予測よりも格段に高い物価見通しを公表し、その後実績が追いつかないことで下方修正を余儀なくされるという展開を繰り返しており、達成時期は既に形骸化している。

その後の総裁会見では、物価目標達成時期の先送りを受けて、物価が上がらない理由についての質問が相次いだ。黒田総裁は、「賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が企業や家計に根強く残っていること」をその理由に挙げたが、今後は「マクロ的な需給ギャップが着実に改善していく中で、賃金コスト吸収のための対応にも自ずと限界がある」ため、「企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化していく」との見通しを述べた。想定よりも物価上昇が下振れしているにもかかわらず、金融政策を現状維持とした点に関しては、「2%の物価安定の目標に向けたモメンタムはしっかりと維持されている」と繰り返し、金融政策決定においてモメンタム(勢い)を重視するスタンスを印象付けた。見通しが外れ続けていることに関しては、日本の場合、予想物価上昇率が適合的な形で形成される傾向が強いことを「十分勘案していなかったと言わざるを得ない」と一部非を認めつつも、「見通しが外れたから信用がなくなるということではない」と信認への影響を否定した。

景気が回復しているにもかかわらず物価がなかなか上がらない状況が続いているが、日銀の追加緩和余地は量・質・金利の全ての面で限られており、従来のように追加緩和でテコ入れというわけにはいかなくなっている。日銀の手詰まり感は鮮明化している。
展望レポート( 1 7年7月)政策委員の大勢見通し(中央値)/展望レポート( 1 7年7月)政策委員のリスク評価(コアCPI)/次回の金融政策変更の予測分布(39機関)/長短金利操作の見通し
今後の金融政策に関しては、2%の物価目標達成が依然として見通せない状況が続くため、日銀は「モメンタムは維持されている」という主張を繰り返すことで長期にわたって現行金融政策の維持を続けるとみられる。その際、長期金利目標も長期にわたって現状の「ゼロ%程度」で維持されるだろう。なお、年間約80兆円増としている長期国債買入れペース目処については、少なくとも黒田総裁の任期中(2018年4月まで)は存置されると見ている。80兆円の目処も今後ますます形骸化していくだろう。

なお、7月の決定会合をもって、これまで現行金融緩和に否定的なスタンスを示してきた木内氏と佐藤氏の審議委員任期が終了し、新たに鈴木氏と片岡氏が審議委員に任命された。反対意見が出なくなることで、今後、日銀内での活発な議論が失われないか、目先は次回9月決定会合後の公表文書(主な意見・議事要旨など)の中身が注目される。
 

3.金融市場(7月)の動きと当面の予想

3.金融市場(7月)の動きと当面の予想

(10年国債利回り)
7月の動き 月初0.0%台後半でスタートし、月末も0.0%台後半に。      
月初、6月末のドラギECB総裁によるタカ派的発言に端を発した欧米金利上昇の流れを受けて、6日に0.1%に上昇。翌7日には日銀が金利上昇を抑止するためにオペの増額と指値オペを実施し、0.0%台後半へと低下。その後は、イエレンFRB議長の議会証言を受けた米金利の低下もあって、0.0%台後半での落ち着いた動きに。24日には日銀がオペを減額したが反応はごく限定的となり、月末にかけて0.0%台後半での推移が継続した。

当面の予想
今月に入っても0.0%台後半での膠着した推移が続いている。8月は日米ユーロ圏の金融政策決定会合が開催されない月であることから、当面動意に乏しい展開が続きそうだ。一方、今月下旬にはECBドラギ総裁も参加を表明しているジャクソンホール会議が開催されるため、直前にかけては量的緩和縮小の思惑から欧州金利が上昇し、本邦長期金利にも上昇圧力が加わる場面も想定される。ただし、現状、0.1%を越える水準は日銀が許容しないとの見方が市場に広く浸透しているため、小幅の上昇に留まりそうだ。
日米独長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(7月)
(ドル円レート)
7月の動き 月初112円台半ばでスタートし、月末は110円台後半に。
月初、好調な米経済指標を受けて4日に113円台に乗せたが、北朝鮮によるICBM発射を受けたリスク回避的な円買いも入り、伸び悩む。その後、7日には日銀が指値オペ等を実施し、金利抑制スタンスを明確化したことで、日米金利差拡大の思惑から113円台後半に上昇。さらに、良好な米雇用統計結果を受けて、10日には114円台に到達した。しかし、以降はトランプ政権のロシアゲート疑惑緊迫化やイエレン議長によるややハト派的な議会証言、米ヘルスケア法案の難航を受けてドル安が進み、24日には111円を割り込む。その後は111円を挟んだ一進一退の展開となり、月末も110円台後半で終了した。

当面の予想
今月に入り、米経済指標の下振れや米政治への警戒感の高まりなどを受けてドルが下落、足元は110円前半で推移している。FRBが9月に資産縮小開始を決定することは市場で既にほぼ織り込まれているほか、最近も弱い米経済指標が目立っており、当面ドルの上値は重い状況が続きそうだ。目先は本日夜の米雇用統計の内容がカギとなる。それなりに堅調な結果が予想されるが、明確な賃金上昇加速が確認されない限り、地合いを一変させることは難しいだろう。ドル高基調の再開には、多くの米経済指標が持ち直しを示し、先々の米利上げ観測が高まる必要があるが、まだ時間を要しそうだ。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
7月の動き 月初1.13ドル台後半からスタートし、月末は1.17ドル台前半に。
月初、1.13ドル台での推移が続いた後、ECBの量的緩和縮小観測を背景としたユーロ買いにより、7日には1.14ドル台へ。しばらく1.14ドル台を中心とする推移が続いたが、ECBの緩和縮小が意識されるなかで、米利上げ観測後退・米政局の不透明感からドル売りが強まり、18日には1.15ドル台に上昇。21日にはECB理事会でドラギ総裁がユーロ高をけん制しなかった安心感から1.16ドル台に上昇した。さらに、28日には冴えない米経済指標を受けてドル売りが強まり、1.17ドル台に乗せ、月末も1.17ドル台前半で終了した。

当面の予想
今月に入り、米経済指標の下振れや米政治への警戒感の高まりなどを受けてドルが売られ、足元では1.18ドル台後半まで上昇している。基本的に、米経済・政治への警戒は当面払拭されそうにないうえ、今月下旬にはジャクソンホール会議が開催されるため、ドラギ総裁による量的緩和縮小への前向きな発言を期待してユーロドルには上昇圧力がかかりやすい。1.2ドルを試す場面も想定される。ドル円同様、目先は本日の米雇用統計の内容がカギとなるが、地合いが一変することは想定しづらい。
金利・為替予測表(2017年8月4日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2017年08月04日「Weekly エコノミスト・レター」)

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