2017年08月01日

主成分分析の観点から見た日本国債金利と米国債金利の連動性-アベノミクス下のイールドカーブの変化を振り返る

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹

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2日米イールドカーブの変化幅への影響
図表4は日本国債のイールドカーブに関する各主成分得点を米国債のイールドカーブに関する各主成分得点で単回帰したときの回帰係数の推移を示したものである5
図表4:日本国債の主成分得点を米国債の主成分得点で単回帰したときの回帰係数の推移
第1主成分(水準)の回帰係数が大きい値をとる場合、米国債のイールドカーブがパラレルシフトをしたときに、日本国債のイールドカーブにおけるパラレルシフトの同方向への変化幅が大きいことを示している。第2主成分(傾き)の回帰係数が大きい値をとる場合、米国債のイールドカーブがスティープニング/フラットニング(「1年金利~5年金利」と「6年金利~30年金利」が逆方向に動く)したときに、日本国債のイールドカーブにおけるスティープニング/フラットニング(「1年金利~7年金利」と「8年金利~30年金利」が逆方向に動く)する変化幅が大きいことを示している。第3主成分(曲率)の回帰係数が大きい値をとる場合、米国債のイールドカーブがバタフライシフト(「1年金利、9年金利~30年金利」と「2年金利~8年金利」が逆方向に動く)すると、日本国債のイールドカーブにおいて同方向にバタフライシフト(「1年金利~3年金利、15年金利~30年金利」と「4年金利~14年金利」が逆方向に動く)する変化幅が大きいことを示している。

当該期間における回帰係数の平均値を計算すると、第1主成分(水準)では0.17、第2主成分(傾き)では0.15、第3主成分では、0.00であった。第1主成分(水準)における回帰係数は、マーケットイベントが生じた直後に小さくなる傾向が見られるが、最終的には平均水準へ回帰している様子がうかがえる。第2主成分(傾き)における回帰係数は、特に(2)テーパータントラム、(4)FRB利上げ見送り、(6)マイナス金利政策導入、(8)米大統領選挙、(9)FRB利上げ(2回目)以後に小さくなっている。特に(6)マイナス金利政策導入後は、大きくマイナス方向に振れており、第2主成分(傾き)が逆に連動しているだけではなく、その変化幅も大きかったことが分かる。第3主成分(曲率)における回帰係数は、ゼロの周辺を平均回帰している。
 
 
5 日本国債のイールドカーブの変化(日次)に関する各主成分得点と前営業日における米国債のイールドカーブの変化(日次)に関する各主成分得点について、60営業日間をサンプルとして回帰分析を行っている。
3日米国債金利(10年物)の関係
日本銀行のモデルにある日米国債金利(10年物)のみを抜き出し、その関係を見てみよう6。図表5は各日米国債金利(10年物)の変化幅を各主成分で要因分解したときの、各要因間の相関係数の推移を示したものである。第1主成分(水準)と第2主成分(傾き)については図表3と同じ結果だが、第3主成分(曲率)については正負が逆転している。これは、米国債のイールドカーブにおいて正のバタフライシフトが生じた際に米国債金利(10年物)は上昇するが、日本のイールドカーブでは正のバタフライシフトが生じると日本国債金利(10年物)が低下するためである。
図表5:日米国債金利(10年物)変化幅の各要因間の相関係数の推移
図表6と図表7は、先ほど計測した日本国債金利(10年物)に関する各要因を米国債金利(10年物)に関する各要因で主成分ごとに単回帰分析を行ったときの回帰係数の推移を示したものである。回帰係数をみることで、米国債金利(10年もの)が上昇/低下したときの、日本国債金利(10年物)の変化の方向性だけではなく、変化幅への影響も含めて確認することが可能である。
図表6:日米国債金利(10年物)変化幅に関する各要因間の単回帰分析における回帰係数の推移(第1主成分(水準)と第2主成分(曲率))
図表7:日米国債金利(10年物)の変化幅に関する各要因間の単回帰分析における回帰係数の推移(第3主成分(曲率))
 
6 図表5、図表6、図表7の計測には、図表3と図表4の計測時と同様に60営業日の日次データを用いている。
 

4――まとめ

4――まとめ

日本国債金利と米国債金利において、全般的に第1主成分(水準)や第2主成分(傾き)に連動性が見られたものの恒常的なものではなく、連動性の強まる局面と弱まる局面が繰り返し生じている。連動性が変化するターニングポイントは、日米の重要なマーケットイベントが契機になることが多く、時間が経つと一定のレベルに平均回帰する傾向も見られる。よって、日本国債金利と米国債金利の連動性は、金融政策などの両市場の個別要因の影響を受けて局所的に変動するものと考えられる。

過去2回(2015年12月と2016年12月)のFRBによる利上げ後の状況を振り返ると、第1主成分(水準)と第2主成分(傾き)の相関係数と回帰係数は小さくなる傾向にあった。この分析から、3回目の利上げも含めて、今後の米国の金融政策導入による日本国債市場への影響を考えると、日本国債金利の動きがFRBの追加利上げとある程度連動する可能性はあるものの、変化幅への影響も含めて、両市場間の連動性は一時的に小さくなるものと予想される。

現状は、マイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール等の政策が有効に作用していることもあって、日本国債金利の変動幅は限られたものになっている。この背景には、第1主成分(水準)と第2主成分(傾き)に関する相関係数と回帰係数が平均的な水準から徐々に低下しており、特に日本国債金利(10年物)近辺では、第3主成分(曲率)による変化が第1主成分(水準)による変化と相殺する形で変動幅が抑制されているという要因がある。このような状況下では、米国債金利の上昇に伴って、日本国債金利が全般的に大幅に上昇していくというシナリオは考えにくい。

一方で、2017年に入ってから第2主成分(傾き)の連動性が失われており、2016年と同様の動きを示しつつある点には注意を払った方がよいかもしれない。2016年は第2主成分(傾き)の連動性がなくなる中で日本国債の超長期金利が急低下し、その後に連動性を回復しながら大きく上昇した。ゆえに、個別要因によって両市場間の連動性が極端に低下した場合には、水面下で金利変動圧力が蓄積される可能性に留意すべきだろう。2017年は以前と異なり第3主成分(曲率)の連動性が高まっていることから、第2主成分(傾き)に本来かかるはずの金利変動圧力は幾分緩和されている可能性がある。しかし、何かしらのマーケットイベントをきっかけに再び第2主成分(傾き)の連動性が再び強まるような局面になれば、日本国債の超長期金利が大きく上昇することに繋がる怖れがある。
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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融・決済・価格評価

(2017年08月01日「基礎研レポート」)

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