2017年07月28日

女性医療の現状(前編)-無理なダイエットは、高齢期にどのような影響をもたらすか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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(3) 介護者の高齢化
女性が、親などを在宅で介護するケースを見てみよう。人口の高齢化に伴い、要介護者・要支援者は増加している。それに伴い、同居する女性が、主に介護をするケースも増えている。こうしたケースは、2016年に200万人超に上るとみられる(筆者試算)2。介護をする女性の年齢層は、50歳代以上が大半を占めている。更年期や老年期の女性に、家族の介護の負担がかかっている状況がうかがえる。
図表7. 主な介護者が同居の女性である在宅の要介護・要支援者数の推移
 
2 一方、同居する男性が主に介護をするケースは、2016年に100万人超とみられる。


3|女性のライフサイクルに従って、各ステージに特徴的な疾患がある
女性の心身のライフサイクルは、女性ホルモンの影響を受ける。1人の女性について、一生涯に渡る女性ホルモンの変動を見てみよう。女性ホルモンは、胎児の段階から確認できると言われる。生後、乳児期や幼児期には、女性ホルモンの分泌は抑制されている。

通常、6歳以降に女性ホルモンが分泌されて、第二次性徴3が始まる。一般に、女性ホルモンの分泌と、性徴等の動向から、これ以降の時期は、思春期、性成熟期、更年期、老年期の4つに分けられる。まず、女性ホルモンは、思春期に増加し、初経(最初の月経)の発来に至る。当初、月経は不安定だが、その後、徐々に安定していく。性成熟期には、月経周期が確立する。女性ホルモンは、月経周期ごとの変動を繰り返す。この期は、妊娠・出産が可能な時期となる。

更年期には、女性ホルモンが減少する。そして、50歳前後で迎える閉経の後には、女性ホルモンの分泌が大きく低下する。老年期には、女性ホルモンであるエストロゲン(後述)が、ほとんどなくなり、これに伴って、腹圧性尿失禁や骨粗鬆症などの、女性に特徴的な疾患が生じやすくなる。

このように、女性の心身状態や、疾病の罹患は、女性ホルモンの変動により左右される。各ステージでの特徴的な疾患は、次のとおりとなる。本稿と次稿では、これらのいくつかを取り上げていく。
図表8. ライフステージごとの女性に特徴的な疾患 (気をつけるべき疾患)
 
3 性徴とは、男女両性の示す特徴のこと。早期から現れる生殖腺および内外生殖器の差を第一次性徴という。また、思春期前後から、主として生殖腺の活動によって顕著となってくる、男性の声変わり、ひげの発生、女性の月経の開始、乳腺の発達、皮下脂肪の蓄積のような機能的な差異は第二次性徴といい、おもに性ホルモンの作用によって生じる。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目電子辞書版の「性徴」の記述を、筆者が一部改変)
4 主に学童にみられる自律神経失調症の一型。起立性低血圧、入浴中の不快感、動悸、息切れなどの症状がみられる。(「広辞苑 第六版」(岩波書店)より (下記の注記5、7の出典も同様))
5 (wrist-cutting syndrome)手首自傷症候群。刃物で自分の手首の内側や腕などを切創する自傷行為。


4|月経周期は4つの期のサイクルからなる
一般に、月経は、増殖した子宮内膜が周期的に脱落し、排出される現象と説明されている。正常月経は、25日~38日の周期で、繰り返される。月経は、月経期→卵胞期→排卵期→黄体期(→再び月経期)の順に、繰り返して、1つのサイクルを形成している。以下、各期の特徴を簡単に見ていこう。6
図表9. 月経周期と各期の特徴
(1) 月経期
前の月経周期で卵子が受精しなかった場合、月経期に入る。不要になった子宮内膜が脱落し、月経として、子宮からの出血とともに排出される。正常月経では、出血が3~7日間持続する。正常な出血量は、20~140ミリリットルとされる7。この期に、基礎体温8は、低下していく。月経とともに、軽度の頭痛、吐き気、腹痛などを伴うことがある。痛みが重度の場合、月経困難症(後述)の症状を呈する場合もある。

(2) 卵胞期 
卵胞期には、女性ホルモンの1つである、エストロゲンが分泌される。このホルモンによって、子宮内膜の増殖が促される。この期には、基礎体温は低い。心身が安定し、体調は良好とされる。

(3) 排卵期
エストロゲンの分泌がピークを迎えると、排卵期に移行する。排卵は、次の月経開始予定日の約2週間前に起こる。この期に、卵子が卵管に入る。卵管で、精子と受精すると、受精卵となって、着床、妊娠に至る可能性がある。受精しなかった場合には、卵子は卵管を経由して、子宮に向かい、膣外に排出される。この期には、腹痛を伴うことがある。基礎体温は、排卵期に移行する前に一旦低下した後、排卵期移行後に上昇していく。

(4) 黄体期
排卵期の後は、黄体期に移行する。黄体期には、女性ホルモンの1つである、プロゲステロンが分泌される。このホルモンは、卵子が精子と受精して受精卵となった場合、受精卵が子宮内膜に着床しやすい状態に整える機能を持つ。また、妊娠が成立した後は、妊娠を継続させる働きがある。この期には、基礎体温は高いまま推移する。また、この期には、イライラ感や眠気、憂うつ、乳房痛、腹部の張りなど、心身の不調を伴うことがある。月経前症候群(後述)の症状を呈する場合もある。
 
6 本節は、「女性医療のすべて」太田博明編(メディカルレビュー社, 2016年)、「あなたも名医! プライマリケア現場での女性診療 - 押さえておきたい33のポイント」池田裕美枝・対馬ルリ子 編(日本医事新報社, jmed mook 47, 2016年)による。
7 この範囲を超える出血が見られ、日常生活に支障が出るほどになると過多月経とされる。また、この範囲を下回る出血の場合、過少月経とされる。ただし、実際の出血量を測ることは困難なため、血塊の排出等により診断されることが多い。
8 体温に影響する各種因子を極力除いた条件での正常の体温。正常の卵巣機能の成人女子では、排卵後黄体期に高体温を示し、卵胞期に低体温を示す。従って体温曲線から排卵および卵巣機能を推定しうる。卵巣機能検査・避妊に利用。


5|女性ホルモンには、主に、卵胞ホルモンと、黄体ホルモンの2種類がある
女性の心身の変化において、不可欠な要素として、女性ホルモンがある。第二次性徴の発現をはじめ、月経周期の確立、妊娠・出産、更年期・閉経、老年期の疾患に至るまで、女性ホルモンの分泌が密接に関係している。主な女性ホルモンとして、卵胞ホルモンと、黄体ホルモンの2種類がある。

(1)卵胞ホルモン
卵胞ホルモンは、エストロゲンとも呼ばれる。エストロゲンは、女性らしさをつくるホルモンとされる。このホルモンには、女性らしいカラダをつくり、子宮に作用し、妊娠に備えて子宮の内膜を厚くする働きがある。

(2)黄体ホルモン
一方、黄体ホルモンには、代表的なものとして、プロゲステロンがある。プロゲステロンは、妊娠を助けるホルモンとされる。このホルモンには、受精卵が子宮内膜に着床しやすい状態に整える働きがある。また、妊娠成立後に、妊娠を継続させる働きもある。

女性ホルモンのうち、エストロゲンは自律神経に作用する。このため、例えば、更年期にエストロゲンの分泌が急激に低下すると、ほてり・のぼせ・多汗などの更年期障害(後編で、詳述)につながる。

また、エストロゲンもプロゲステロンも、セロトニンという、脳内神経伝達物質の分泌に影響する。セロトニンは、脳を最適な覚醒状態にしたり、心のバランスを整える効果があるとされる。このため、その分泌が滞ると、イライラ感や、抑うつなど、心理状態に影響を与えるとされる。

これらを踏まえて、次章からは、各ライフステージごとに、女性医療について見ていくこととする。
 

2――胎児・乳児・幼児期~思春期

2――胎児・乳児・幼児期~思春期

まず、思春期までについて、女性に多く見られる疾病等を概観していく。

1|女性の思春期には、生殖機能の獲得と骨量の増加が見られる
第一次性徴は、性別を特徴づける、生殖腺や生殖器の違いとされる。受精卵の段階では、第一次性徴は現れていない。その後、胎児期において、女性は卵巣を持つようになり、女性器が形成される。

出生後、乳児期・幼児期を経て、第二次性徴(生殖器だけではなく、身体全体での生物学的性差)が6歳頃より始まる。そして、思春期には、生殖機能の獲得と、骨量(こつりょう)の増加、という2つの特徴的な身体変化が現れる。

2|月経の確立とともに、それに伴う症状が見られるようになる
初経は、平均的に、12歳頃に発来するとされる。15歳以上の初経は遅発月経、18歳までに初経が発来していない場合は、原発無月経と定義されている。その原因は、性管分化9の異常や、染色体異常など、いくつかのものに分類される10

一方、これまでにあった月経が、3ヵ月以上停止している場合11は、続発無月経と呼ばれる。その原因の代表的なものとして、体重の減少や、神経性食欲不振症、肥満、過度の運動などがあるとされる。

患者調査(厚生労働省)によると、無月経の患者数は、近年、数千人程度で推移している。
図表10. 無月経患者数の推移
(注意) 患者数について
本稿(前編)および次稿(後編)において、図表等で示す患者数は、患者調査(厚生労働省による標本調査)をベースとしている。この統計データには、外来・通院や入院で、医療機関に受診した患者だけが表れることとなる。もし、ある人が、心身の状態に違和感を感じたとしても、医療施設で受診しなければ、統計上は患者数として把握されない。このように、受診していないために、患者数として捉えられていない人が、潜在している可能性がある。

特に、女性医療では、統計に表れない潜在患者が存在すると言われており、注意が必要となる。
 
 
9 胎児は、当初、ミュラー管、ウォルフ管という性管を持っている。その後、ホルモンの作用により、女性の場合は、ウォルフ管が退縮して、ミュラー管が子宮、卵管、膣上部に分化する。男性の場合は、ミュラー管が退縮して、ウォルフ管が精巣上体、輸精管、精嚢に分化する。(「性分化疾患の基礎と臨床」長谷川奉延(日本生殖内分泌学会雑誌, 2014, 19: 5-9)より)
10 「日本産科婦人科学会雑誌 研修コーナー」(日本産科婦人科学会, 2011年1月, 63巻1号)より。
11 妊娠中、産後の産褥(さんじょく)・授乳期、閉経期など(生理的無月経と呼ばれる)は、除く。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

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