2017年07月28日

中国経済:2017年上期を総括した上で今後の注目ポイントを探る

三尾 幸吉郎

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4.金融面

(図表-11)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅、70都市平均) 金融面の動きを見ると、住宅バブルが深刻化する中で、中国政府(含む中国人民銀行)は金融を引き締め方向に調整し始めた。

金融政策の今後の行方を探る上では、これまでの経緯を理解しておく必要がある。そこで2014年以降の動きを概観すると、2014年4月には住宅価格が下落、バブル崩壊の懸念が高まった(図表-11)。住宅価格が下落すると不動産開発投資も減速、それまで前年比2割前後の高い伸びを示していた不動産開発投資は10%台前半まで減速した。そこで、中国人民銀行は14年11月に約2年半ぶりとなる基準金利の引き下げを実施、景気テコ入れに動いた(図表-12)。不動産規制強化で行き場を失っていた投機マネーは、この基準金利引き下げを契機に住宅市場から株式市場へと流入、株価は空前の急騰を演じた(図表-13)。

15年に入っても不動産開発投資の減速には歯止めが掛からず、加えて過剰生産設備を抱えた製造業の投資も1桁台まで減速、景気下ぶれ懸念が高まった。そして、15年6月には株価が急落するとともに、中国人民銀行が基準金利の引き下げを追加実施したことで米中金利差が縮小、15年8月には人民元が切り下げられて“人民元ショック”に繋がっていった。16年に入ると年明け早々に再び株価が急落、この時期には不動産開発投資が上向きつつあったものの、過剰生産設備を抱えた製造業の投資が1桁台前半まで減速、依然として景気下ぶれ懸念が高かったため、中国人民銀行は金融緩和環境を維持した。これを追い風に住宅価格は上昇の勢いを増し16年7月には前回高値を超えた。そして、景気の持ち直し傾向が鮮明となった16年秋には深圳市や上海市など多くの地方政府が住宅購入規制を強化、中国人民銀行は商業銀行17行の幹部および融資担当者などを招集して住宅ローンの管理強化を要請、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)も不動産融資を巡るリスク管理を強化した。16年12月に開催された中央経済工作会議では「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」として不動産市場の平穏で健全な発展を促進する方針を打ち出した。
(図表-12)中国の金利の推移/(図表-13)上海総合の推移
17年3月に開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では「穏健・中立」な金融政策を実施するとし、16年の「穏健」よりも引き締め方向に軸足を移した。そして、17年1月下旬以降、中国人民銀行はリバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどの短期金利を2回に渡り引き上げた。全人代閉幕後も「四限(購入制限、融資制限、価格制限、販売制限)」と呼ばれる住宅規制の導入・強化に動く地方政府が増えた。また、17年7月に開催された17年下期の経済運営方針を討議する中国共産党の中央政治局会議では、「安定を維持」としつつも「三去一降一補(過剰生産能力・在庫・レバレッジ解消、コスト削減、弱点補強)」や「ゾンビ企業の処理」に取り組む方針を示すとともに、金融面では金融監督管理の強化や不動産市場の安定に取り組むことが強調された。以上の経緯に加え、17年上期の成長率が持ち直し年度目標「6.5%前後」を上回ったことを勘案すると、17年下期の金融政策はさらに引き締め方向へ調整される可能性が高いと思われる。
 

5.17年下期の注目ポイント

5.17年下期の注目ポイント

17年上期の中国経済を総括すると、欧米経済の拡大に伴って輸出が持ち直し、国内ではインフラ関連を中心に投資が持ち直し、消費も横ばいを保ったため、成長率は前年を上回る伸びとなった。

また、17年下期は投資の行方に注目である。欧米経済は好調で消費も良好なため輸出・消費には大きな懸念が無い一方、投資には変調の兆しが観察できるからだ。投資の中身を見ると、図表-14に示したように民間企業が持ち直した一方、国有・持ち株企業は16年上期をピークに伸びが鈍化している。その背景には政府主導の景気刺激策が縮小されたことがある。その先行指標となるプロジェクト計画投資(新規着工)は17年上期に前年割れとなっており、17年下期は国有持ち株企業の投資がさらに減速する可能性が高いだろう。但し、民間企業がその減速分を穴埋めする可能性もある。民間企業の投資の約半分を占める製造業を見ると、図表-15に示したようにIoT関連が高い伸びを示しているからだ。政府が景気刺激策を縮小する一方、民間企業がそのバトンを受け取って投資を牽引するバラ色シナリオは実現するのか、バトンを落とす恐れもあるだけに注目される。
(図表-14)固定資本投資(国有と民間)の推移/(図表-15)製造業の投資(17年1-6月期)
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2017年07月28日「Weekly エコノミスト・レター」)

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