2017年07月11日

医療広告規制の変化-医療機関の広告はどこまで可能なのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

医療は、人の生命・身体に関わるサービスである。また、医療は極めて専門性の高いサービスでもある。こうしたことから、医療に関する広告については、様々な規制が設けられている。

2017年6月に、医療法等の一部を改正する法律案が国会で可決成立し、公布された。この法改正の項目の1つに、医療機関のウェブサイトの適正化が盛り込まれている。

本稿では、医療に関する広告の規制について、今回の法改正を含めて、見ていくこととしたい1
 
1 本稿は、執筆にあたり、「医療広告Q&A」医療法制研究会編集(中央法規出版, 2008年)を、参考にしている。
 

2――医療広告規制とは

2――医療広告規制とは

まず、医療広告規制とはどういうものか、を見ていくこととしたい。

1医療の広告には、患者の意思決定の支援と、患者保護のバランスが求められる
現代社会には、様々な広告がある。広告を目にせずに、日常生活を送ることは難しいのではないだろうか。この広告という用語は、明治時代のはじめに外来語の訳語として造られたもので、古くから日本にある言葉ではない。一般に、マーケティングにおいて、広告は次のように定義されている。
図表1. 広告の定義(アメリカ・マーケティング協会の定義)
医療においても、患者に、病院や診療所に来て受診することを促すための広告が行われている。

通常、広告は、受け手である商品やサービスの利用者が、自らの意思で、商品やサービスを選択する際に、その意思決定の支援となる情報を提供するものと位置づけられる。しかし、これは一歩間違えれば、誤った情報により、利用者が不適切な選択をして、その結果、不利益を被るといった負の側面を持っている。医療においては、患者の意思決定の支援と、患者保護のバランスが求められる。

特に、医療の場合、医学知識や医療技術について、医師と患者では、持っている知識に大きな乖離がある。これは、一般に、情報の非対称性と言われる。そのため、患者を保護する必要性が、特に高いものとなる。この結果、医療に関する広告の規制が求められることとなる。
2誘因性、特定性、認知性の3要件を全て満たすものを医療広告として、規制の対象としている
規制ルールでは、医療法による広告規制の対象となる広告(以下、「医療広告」と呼称)の要件が定められている。厚生労働省のガイドラインによると、次の3つの要件を満たすものが、医療広告に該当するものとされている。
図表2. 医療広告の3つの要件
3法令で可能とされた事項以外は、医療広告は原則禁止とされてきた
医療広告については、患者の保護などの観点から、限定的に認められた事項(後述)以外は、原則として禁止されてきた。その考え方のベースとして、厚生労働省は、ガイドラインで、医療広告の特殊性を、次のように示している。
図表3. 医療広告の特殊性
4虚偽広告は禁止されており、行った場合は罰則の対象となる
医療広告のうち、内容が虚偽にわたる広告は、患者等に著しく事実に相違する情報を与えることになる。これにより、患者が、適切な受診機会を喪失したり、不適切な医療を受ける恐れがある。このため、虚偽広告を行った者は、医療法上、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される。
5比較広告、誇大広告、客観的事実を証明できない広告、公序良俗に反する広告は禁止されている
医療法施行規則では、広告の内容及び方法の基準を規定している。そこでは、次の4つの広告を禁止している。これらの広告を行った者は、都道府県知事や、保健所を設置する市の市長または特別区の区長より、報告徴求、立入検査、広告の中止命令、広告内容の是正命令を受けることがある。
図表4. 医療法施行規則で禁止されている広告

3――医療広告規制の経緯

3――医療広告規制の経緯

近年、上記の考え方は維持しつつも、国民・患者に正確な情報を提供し、その選択を支援する観点から、客観性・正確性を確保し得る情報については、広告可能な範囲を順次拡大してきた。

(1)1992年法改正前
旧医療法の第69条には、広告規制に関する規定が置かれていた。そこでは、医師又は歯科医師である旨、診療科名(政令で定めるもの、厚生大臣の許可を受けたもの)、病院又は診療所の名称・電話番号及び所在地、常時診療に従事する医師又は歯科医師の氏名、診療日又は診療時間、入院設備の有無、紹介することができる他の病院又は診療所の名称、診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報を提供することができる旨、が広告可能とされていた2

(2)1992年、1997年、2001年の規制緩和
法改正や告示発出により、広告可能な診療科名の拡大が図られた。また、療養型病床群の有無、訪問看護に関する事項、予防接種の実施などが、順次、広告可能とされていった。

(3)2006年の法改正
それまでのように個々の事項を個別に列記するのではなく、一定の性質を持った項目群ごとにまとめて、「○○に関する事項」と規定する包括規定方式が導入された。
 
2 「新版 医療マーケティング」真野俊樹(日本評論社, 2016年)の表9-2を参考に、筆者がまとめた。
 

4――医療広告規制の内容

4――医療広告規制の内容

先述の通り、医療広告は、法令で可能とされた事項以外は、原則禁止とされている。これは、「ポジティブリスト方式」と呼ばれている3。現在、法令上、次の14項目が広告可能とされている4
図表5. 医療広告可能とされている項目
これらの項目を念頭に、規制の具体例として代表的なものを、いくつか見ていくこととしたい。
 
 
3 ポジティブリスト方式は、1948年の医療法制定以来、医療広告規制の一貫した考え方となっている。これまでに、規制緩和の一環として、原則広告可能として、広告不可のものをリストに示すという「ネガティブリスト方式」への転換が検討されたことがあった。しかし、「その場合、効果が不明な民間療法や素性の知れない団体が認定した専門医名、利害関係者による偏った体験談など、広告として不適切な事項が無数に想定されるため、そうしたものを一つ一つ漏れなく網羅して、広告禁止事項としてネガティブリスト化するのは、技術的に不可能ではないか。」「ネガティブリストでは、実質的に事後的な規制となってしまい、例えば、効果が不明な療法により回復不能な健康被害が生じた後に、そうしたものを事後的に広告禁止事項として追加することになってしまう。そうしたやり方は、患者・国民に多大なリスクを転嫁するものであり、不適当ではないか。」(「医療に関する広告規制の基本的考え方(ポジティブ・ネガティブリスト)について」(医療情報の提供のあり方等に関する検討会(厚生労働省, 第7回(2011.10.19), 資料4)))などとして、この転換は見送られてきた。
4 図表5で示している項目は、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関するもの。この他に、助産師の業務又は助産所に関するものが9項目ある。その内容は、図表5の項目に類似しており、ほぼ包含されている。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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