2017年06月28日

大腸の内視鏡検査・治療の増加が民間医療保険に与える影響

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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図表7 手術を受けた患者の性・年齢分布 3大腸ポリープ・がんの切除手術数も増加
(1) 89歳以下で切除手術数が増加
分析対象の医療施設において2015年度に大腸ポリープ等の切除手術を実施した回数は、のべ約3万件だった。

手術を受けた患者の分布を性別にみると、男性が約7割、女性が約3割と男性が多かった(図表7)。年齢別にみると、60~70歳代が多かった。29歳以下はほとんど含まれず、90歳以上も男女あわせても全体の0.5%程度と少なかった。
図表8 手術率の推移(2011年度を1.0とする) 2011から2015年度にかけて性・年齢別の分布に大きな違いはなかった。
図表9 2015年度手術率(2011年度を1.0とする) 手術率(各年度の手術数を各年の人口で割ることで計算)は上昇しており、2015年度の手術率は、2011年度の1.4倍に増加していた(図表8)。これは同期間における内視鏡検査受診率の伸び(図表4)を上回る。2015年度の手術率を性・年齢群団別にみると、男女とも89歳以下では、およそ1.2~1.5倍に増加していた(図表9)。しかし、90歳以上の手術率は、2011年度と比べて男性では低下、女性では同程度に留まっていた。
図表10 手技の分類と身体への負担 (2) 内視鏡治療の増加
受けた手術の方法を診療行為名称別にみると、身体への負担が小さい「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」が最も多く、2015年度では85.7%を占めていた(図表10)。次いで、「腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術」が6.3%、「結腸切除術」が4.5%、「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」が3.2%となっていた。「結腸腫瘍(回盲部腫瘍摘出術を含む。)、結腸憩室摘出術、結腸ポリープ切除術(開腹によるもの)」や「腹腔鏡下結腸切除術」はほとんど実施されていなかった。
図表11 手術を受けた患者の性・年齢分布(2015年度) 年齢群団別に手技の診療行為名称別内訳をみると、「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」は若いほど多く、59歳以下では全手術の9割以上だった(図表11)。しかし、年齢を重ねるほど「結腸切除術」や「腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術」の割合が高くなっていた。開腹手術である「結腸切除術」は身体への負担が大きいにもかかわらず高齢者で多いことから、高齢ほど「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」では済まないケースでの手術が多いと推測できる。
手術実施数が多い「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」「腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術」「結腸切除術」について、2011年度からの手術率の推移をみると、いずれの年代も「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」「腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術」の手術率は上昇し、「結腸切除術」の手術率は低下する傾向があった(図表12)。特に、内視鏡を使った「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」は2012年度に保険収載されてから増加していた。ただし、高度な技術を要するため、現在のところ限られた施設でしか実施されていないため、件数は多くはなかった。

年齢群団別にみると、内視鏡治療は60~70代、腹腔鏡視下手術や開腹手術は70~80代に多かった。

開腹手術の1つである「結腸切除術」の手術率が低下している理由が、仮に身体に負担の少ない内視鏡治療や腹腔鏡視下手術の増加によるもので、早い段階で身体への負担が少なく、リスクを取り除けるようになっているのだとすれば望ましいことであるが、今回のデータだけでは検証ができない。
図表12 手技別手術率の推移
以上のとおり、40歳以上での大腸内視鏡検査、および切除手術の動向を年齢別にみると、90歳以上では大腸内視鏡検査の検査実施率は89歳以下と同様に増加傾向にあったが、手術は増加していない等、90歳を境に異なる傾向がみられた。90歳以上では、手技も89歳以下とは異なり、全体では減少傾向にある「結腸切除術」が多く、時系列で見て2012年度以降増加していた。

89歳以下で増加していたのは、主として「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」だった。
これらのことから、89歳以下では、内視鏡治療は身体への負担も軽くて済むため、大腸がんへ移行する可能性のあるポリープが見つかった場合は、早めに切除手術を受ける傾向がある一方で、90歳以上では、患者の負担を慎重に検討し、がん予防としての内視鏡ポリープ切除が89歳以下と比べて少ないことが推測できる。
図表13 在院日数(2015年度) (3) 内視鏡治療における在院日数は減少
大腸がん、またはポリープの切除に要する日数は、手技によって異なる。2015年度について、上記4つの手技の外来、または入院時の在院日数の分布をみると、「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」の4割弱が外来8、さらに約4割が0~1泊の入院で行われており、在院日数は短かった(図表13)。「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」は7割が2~7泊の入院、「腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術」は6割が8~15泊の入院で行われていた。「結腸切除術」は16泊以上の入院が7割を超えて多かった。
図表14 在院日数の推移 (内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術) 時系列でみて、5年間で変化があったのは「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」だった。2011年度には27%だった外来での治療が、2015年度には38%と、10ポイント上昇していたほか、入院した場合も在院日数が短期化していた(図表14)。それ以外の手技については、在院日数に大きな変化はなかった(図表略)。
 
 
8  厚生労働省「社会医療診療行為別統計(調査)」によると、入院による手術は全手術の半数程度で、今回のデータより少ない。これは、今回のデータがDPC対象病院によるデータであるからだと考えられる。
 

3――民間の医療保険への影響

3――民間の医療保険への影響

以上のとおり、今回のデータで、2011~2015年度にかけて大腸内視鏡検査の受診者が増加していた。大腸ポリープ等切除手術を受けた患者も増加していた。高齢化によって検査や手術実施率の高い高齢者の比重が高まっただけでなく、年齢別にみても40~89歳で増加していた。

手技を診療行為名称別にみると、内視鏡による「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」や腹腔鏡による「腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術」が増加しており、従前と比べて身体への負担が少ない手技が増えており、開腹手術である「結腸切除術」は減少していた。内視鏡による治療は、他の手技と比べて外来による治療が多く、入院したとしても在院日数は短い傾向があり、この5年間でさらに在院日数が短期化していた。

年齢の特徴をみると、90歳以上では大腸内視鏡検査の検査実施率は89歳以下と同様に増加傾向にあったが、89歳以下では手術率も増加していたのに対し、90歳以上では手術は増加していない等、90歳を境に傾向が異なっていた。
 
民間の医療保険では手術給付を行うことが多い。民間の医療保険商品では、概ね、身体に負担が大きい手術ほど、あるいは入院をともなう手術で給付額が高く設定されていることが多い。

今回の結果から、医療保険の支払事由としてポリープ等切除のための手術が増加していると推測できる。ただし、身体に負担が少ない内視鏡による治療が増加しており、外来や短期間の入院による手術が増加しているとすれば、従前に比べて給付額が低い手術が増加しているものと推測できる。

大腸内視鏡検査を受ける患者が引き続き増加傾向にあることから、今後もポリープ等切除手術は増加するものと推測できる。ただし、身体の負担が少ない手技や、外来、または短期の入院による手術が増える可能性がある。2012年度以降増加している「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」の実施医療機関が増えれば、より内視鏡による手術が増加する可能性がある。

今回のデータでは、90歳以上の手術率は5年間で大きく変わらなかったが、今後、元気な高齢者が増加すれば、89歳以下と同様に90歳以上の手術も増加する可能性がある。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

(2017年06月28日「基礎研レポート」)

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