2017年06月28日

大腸の内視鏡検査・治療の増加が民間医療保険に与える影響

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――大腸がん・大腸ポリープに対する内視鏡治療増加の背景

図表1 新たに診断された患者の部位別割合(2012年) (1) 大腸がんは日本人に多いがんの1つ 国立がん研究センターによる最新の「がんの統計1」では、2012年に新たにがんと診断された患者数を約86万人と推計している。部位別にみると、最も多いのが大腸がんの約13万人で、全体の15.6%を占める(図表1)。

厚生労働省の人口動態調査によると、2015年のがんによる死亡約37万人のうち、大腸がんによる死亡は約5万人(がんによる死亡全体の13.4%)で、肺がんに次いで2番目に多い。女性だけでみると、最も死亡数が多い部位である。
 
 
1  国立がん研究センターがん情報サービスによる「がん統計’16」による。
(2) 大腸がんに対する内視鏡治療が増加
大腸がんを切除する場合、従来は、開腹手術を行っていたが、現在では身体への負担が小さい腹腔鏡視下手術や内視鏡治療を行うことが多い(手技の概要は図表10参照)。特に、2012年度から保険収載された「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」は、早期がんや腺腫に対して行われる内視鏡治療の1つで、これまでの内視鏡治療では対処が難しかった病変も切除できることから、実施数が増加している。「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術」の導入によって外科的手術を必要とする例が減ったという報告もある。
図表2 大腸がん検診受診率 (3) 検診受診者が増加。ポリープが見つかった場合は切除することが多い。
大腸がんやポリープに関するこういった情報が広く知られるようになったことや、国の政策による後押し2等によって、大腸がん検診受診率は上昇している(図表2)。

大腸がん検診では、便潜血検査をスクリーニングとして行い、陽性だった場合に内視鏡検査を受けることが多いが、人間ドック等では便潜血検査の結果によらず内視鏡検査を選択できることもある。

大腸がんの多くは、腺腫性ポリープから移行したものだと考えられており、内視鏡検査等でポリープが見つかった場合は、その時点で切除することも多い。
 
 
2  「がん対策推進基本計画」では、2012年度から2016年度までの5年間を対象として、がん検診(胃・肺・大腸・乳・子宮頸)の受診率を50%(胃、肺、大腸は当面40%)とすることを目標として掲げている。大腸がんに対しては2011年度から検診のためのクーポンが配布されている。
 

2――診療データを使った詳細な動向

2――診療データを使った詳細な動向

このように、大腸がんや大腸ポリープに対する内視鏡を使った検査や治療が増加している。
そこで本稿では、医療施設による診療データを使って、この5年間の大腸内視鏡検査の動向、および内視鏡治療の動向を紹介する。
 
1使用したデータ
分析に使用したデータは、メディカル・データ・ビジョン株式会社(以下「MDV」とする。)による診療データベースである3

このデータベースは、DPC対象病院296施設における1,821万人分の診療データ(2017年4月末時点)について、個人情報に該当する情報を全て匿名化処理した上で、各種研究で活用されている。
医療機関に蓄積されたデータベースであることから、受診してDPCデータやレセプトデータが発生した患者の情報しかないため、それが国民の何%に当たるかといった受療率等を把握することはできない。しかし、加入する保険制度に関係なくデータが取得でき4、実際の性・年齢別の受療分布に応じた分布でデータが取得できるため、医療資源の配分状況や、性・年齢別、疾病別の診療行為の特徴等を詳細に把握することができる。診療データは、レセプト情報だけではなくDPCデータも網羅しているため、患者の入院情報や血液検査情報に加え、ADLスコアや悪性腫瘍等のステージ等の情報も取得することができる。

健康診断や人間ドックではなく、保険診療の1つとしての検査を集計していることから、実際に大腸の病気の疑いがある患者を対象としている。

本稿では、このデータベースから2011~2015年度の5年間にわたってデータが取得できた77施設について、大腸ポリープ5または結腸がん6によって何らかの処置7を受けた患者を抽出し、分析した。
 
3  メディカル・データ・ビジョン株式会社が保有する診療データベースは、病院からデータの二次利用許諾をいただいた、DPCデータ/レセプトデータをもとに構築している。当該データベースでは、収集が難しく実態を把握することが困難とされていた、病院における薬剤処方実態や疾患規模の実態などを明らかにすることが可能である。なお、取り扱っているデータは全て、個人情報保護の観点から匿名化処理をしている。
4  例えば、健康保険組合等で保有するレセプトデータでは、被用者とその家族に限定されてしまうのに対して、医療機関にあるデータでは、年齢や就労状況に関係なくデータを取得することができる。
5  ICD10(国際疾病分類第10版)の「K635(大腸のポリープ)」「D010-012(その他及び部位不明の消化器の上皮内癌,結腸,直腸S状結腸移行部, 直腸)」「D12(結腸,直腸,肛門及び肛門管の良性新生物(肛門除く))」
6  ICD10(国際疾病分類第10版)の「C18(結腸の悪性新生物)」「C19(直腸S状結腸移行部の悪性新生物)」「C20(直腸の悪性新生物)」
7  具体的には、「大腸内視鏡検査(医科診療報酬点数表のD313)」「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術(同K721)」「早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術(同K721-4)」「腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術(同K719-3)」「腹腔鏡下結腸切除術(同K719-2)」「結腸腫瘍(回盲部腫瘍摘出術を含む。)、結腸憩室摘出術、結腸ポリープ切除術(開腹によるもの)(同K720)」「結腸切除術(同K719)」のいずれかを受けている患者を対象とした。
図表3 検査受診者の性・年齢分布 240歳以上で大腸の内視鏡検査受診者が増加
分析対象の医療施設において2015年度に大腸内視鏡検査を実施した回数は、のべ約4万件だった。

検査を受けた患者の分布を性別にみると、男性が約6割、女性が約4割と、男性が多かった(図表3)。年齢別にみると、男女とも70歳代、60歳代の順に多かった。60歳以上の男女で全体の約8割を占めていた。29歳以下と、90歳以上は、男女あわせてもそれぞれ全体の1.0%未満と少なかった。
図表4 検査受診率の推移(2011年度を1.0とする) 2011から2015年度にかけて性・年齢別の分布に大きな違いはなかった。

検査受診率(各年度の検査受診数を各年の人口で割ることで計算)は上昇しており、2015年度の検査受診率は、2011年度の1.1倍に増加していた(図表4)。
図表5 2015年度検査受診率(2011年度を1.0とする) 2015年度について性・年齢群団別にみると、検査受診率は男女とも40歳代以降で2011年度と比べて上昇していた(図表5)。特に検査受診率が上がっていたのは女性と年齢が高い層で、男性の90歳以上、および女性の60歳代と80歳以上で、2011年度の検査受診率の1.1倍を超えていた。このことから、図表4で検査受診率が上昇している理由は、高齢化によって検査受診率が高い高齢者の比重が高まったことに加えて、性・年齢別の検査受診率が上昇していたことにもよると考えられる。
図表6 外来・入院の割合 保険診療としての内視鏡検査を集計していることから、実際に大腸の病気(疑われる場合を含める)が2015年度には2011年度と比べて多かったと言える。

内視鏡検査は、外来で行っていた割合が8割以上と多かったが、2011年度から2015年度にかけてさらに外来が増加していた(図表6)。

 
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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