2017年06月15日

まちづくりレポート|古材と一緒に家主のこころをレスキュー~リビルディングセンター・ジャパンが信州諏訪にもたらした幸福な状況

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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2|カフェ
カフェもリビルド・ニューカルチャーという理念の実現にとって必要なものだという。

「もっと日常に溶け込む感じで普通に古材、廃材が使える文化をつくりたいのです。そのためにはプロだけが集まる場所では全然駄目で、一般の人が気軽に来られる場所である必要があります。このように古材を使ったテーブルでお茶を飲んだりする場所が欲しかったので、カフェは絶対に必要でした」

実際に、地元の人はカフェ目的で訪れることが多く、グループ客は、男性陣が古材に夢中になっている間、女性陣はテーブルでお茶を飲んでおしゃべりしていることが多いという。古材でテーブルを作ろうとして来たカップルは、「ここに座ってこのテーブルのサイズを測ったり、向こうに行って材料を測ったり、紙を広げて絵を描いたり、コーヒーを飲みながら2人で検討して、いよいよ決めて買って帰った」そうだ。

ここにカフェがあるからこそ、実際に古材を見て想像を膨らませ、購入するかどうかを一緒に考えることができる。2人にとってその時間も楽しいものに違いない。その営みが、店内に楽しい雰囲気を作り出しているはずだ。
(写真)カフェの様子
3|ワークショップ
リビルディングセンター・ジャパンでは、月に1回ほどワークショップを開催している。これまで、木箱づくり、ベンチづくりなどを行ってきた。毎回SNSで告知すると3日ほどで募集人数に達する。

「古材は自分で手を動かさないと取り入れづらいので、ワークショップを開いて古材の扱い方や、道具の使い方などを教えるわけです。スキルをここで身につけてもらって、自分で何かを作るきっかけにしてもらう。何かを作るときに古材を選んでくれれば古材の使用量が少しずつ増えていき、需要が増えることによってレスキューしようという人が増えていくと思います」と東野さんが説明してくれた。ワークショップを行うことも、リビルド・ニューカルチャーにつながっている。

4|相談と依頼
客から様々な相談や依頼を受けることも多い。リビルディングセンター・ジャパンに持ち込まれる相談や依頼は、東野さんに言わせると「皆さん自由」だそうである。「思い出深い樽を、何かにして兄弟みんなに配りたい。提供するから何か作ってくれ」と頼んで来た人がいたという。そうした仕事をするとはまったく告知していないのにもかかわらず。

古材×デザイン×カフェという機能が、ちょっとしたモヤモヤを抱える人々を引きつけるマグネットになっているのではないか。店内に感じる何となく朗らかな雰囲気や、東野さんたちの人柄もあるのだろう。そのようなニーズが地域の人々にあるとしたら、それに応えることができるリビルディングセンター・ジャパンは、地域にとってなくてはならない場所になっていくだろう。
(写真)ベンチワークショップで作るベンチの見本

5――地域との関係

5――地域との関係

リビルディングセンター・ジャパンの建物は、地元建設会社が所有するものだ。東野さんは、リビルディングセンター・ジャパンを運営する上で理想的な物件だったと言う。東野さんが借りる前は、20年くらいほとんど使われていない状態で、取り壊そうとしていたのだそうである。東野さんがオーナーに事業の理念と構想を伝えると、すぐに理解を示してくれ、取り壊しを取り下げて貸してくれた。会社設立に必要な税理士も紹介してくれ、税理士から融資先の紹介もあり、すぐに融資が決まった。この時点で地元からは既に一定の支持を得ていたのだろう。

クラウドファンディングを活用したのは、融資の不足分を調達することに加え、ここでやろうとしていることに対し、世間からどの程度反応があるか知りたかったことと、やろうとしていることを自分の文章でしっかり説明できるからだ。結果的に多くの人の共感を得て、目標額を上回る約540万円を集めた。

オープンしてからは、多い日で40~50組が訪れる。おおよそ半数は県外からだという。地域への経済的な波及効果も小さくないはずだ。

最近スタッフを3名採用し、現在は東野さん夫婦を含めて7名で運営している。20年間空きビルだったところに店を開き、毎朝店の前を掃除し、スタッフ皆が地域の人と顔を合わせれば笑顔であいさつをして、イベントの前には近所を回ってお知らせする。夜は店舗に灯りがともり通りを照らす。このようなことを当たり前に行うことで、今では、地域の人に好ましく思われている手応えを感じている。
 

6――おわりに

6――おわりに

リビルディングセンター・ジャパンが米国のリビルディングセンターと異なるのは、非営利組織ではないことだ。だがこうしてみると、同じことを株式会社として行っているように思える。東野さんたちは、社会的に意義があることを自身でリスクを取り、人々の共感を得て始めた。その取り組みは地域経済に貢献し、地域の人々の支持を得て進んでいる。非常に健全な事業の形であり、地域にとっても理想的な創業のあり方ではないか。
リビルディングセンター・ジャパンの様子 古材の目利き、古材を扱う技術、それを人に伝える力、古材を使用したデザイン力など、リビルディングセンター・ジャパンと同じことをするには、一定のスキルの習得が必要であろう。しかし、東野さんたちの後に続く若者が増えていくことを期待したい。

東野さんが思い描くように、このような取り組みが全国各地で行われ、古材の流通が文化として根付けば、更地になった現場を眼にして嘆くこともなくなるはずだ。筆者と同じように考える第三者の心もレスキューされることになるのである。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

(2017年06月15日「基礎研レポート」)

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